24日(土)、J:COM浦安音楽ホールで行われた、上原彩子ピアノ・リサイタルを聴きに行った。
●上原彩子ピアノ・リサイタル
日 時 2020年10月24日(土) 13:30開場 14:00開演
会 場 J:COM浦安音楽ホール コンサートホール
ピアノ 上原 彩子
曲 目 ショパン 24の前奏曲
ラフマニノフ 13の前奏曲から第12番嬰ト短調
ラフマニノフ 13の前奏曲から第6番ヘ短調
ラフマニノフ 13の前奏曲から第10番ロ短調
ムソルグスキー 組曲「展覧会の絵」
[アンコール] ラフマニノフ 前奏曲「鐘」
シューマン=リスト 「献呈」
我々の席は、1階F列8・9番。
今回のリサイタルは、J:COM浦安音楽ホールが持つ2台のピアノが使われた。ホールの開館にあたり、仲道郁代さんが選んだという2台のピアノを、上原さんが弾き比べるという企画だ。
上原さんは、曲間をほとんどアタッカで演奏した。例外が2箇所。曲数として折り返しになる12番と13番の間に長く時間をとったのと、20番と21番の間に少し間があった。
曲が進むにつれて、奏者が音楽に没入していくのがわかった。それに合わせて、こちらも引き込まれた。
24曲を通して聴いて、やはりこの曲集はよくできているなあ、と思った。調性配列が規則的である一方で、曲想は多彩。この順番に組み立てられた、ひとまとまりの音楽として聴くことの楽しみは、格別だ。
聴いていて、各曲の終結の仕方が様々であることが、特に印象に残った。
あと、24番の冒頭、右手で奏される激情的なモチーフが、15番(雨だれ)の穏やかなそれの変容であることも、強く印象づけられた。
やっぱりショパンの作品の中では、私はこの曲集が一番好きかもしれない、と思った。バラードの1番や、幻想即興曲、一連のマズルカなども好きだが、まとまった曲集としての聴きごたえは、やっぱりこのプレリュードだ。
20分間の休憩の後、ピアノは、スタインウェイD-274に入れ替えられた(ヤマハはスタインウェイが置いてあった舞台下手に移されたが、蓋が開いたままだった。そういうものだろうか)。
後半の冒頭、上原さんがマイクを持って登場し、MC。
新型コロナウイルスの状況下、活動を休止していたが、再開して2回目の演奏会になるとのこと。
2つのピアノについては、ヤマハは、穏やか、まろやか、繊細な響きが特徴だが、これから弾くスタインウェイは、カラフルな感じの音を楽しんでいただけると思う、とのお話だった。
また、前半のショパンは、鐘の音で終わったが、後半の曲にも鐘が出てくる、そこに今回の演奏会全体のポイントがあるとも話されていた。
プログラム冊子の解説で、ラフマニノフが、「鐘」と称する前奏曲を書いた後、10の前奏曲、13の前奏曲を書き、ショパン同様、24の調性による前奏曲を網羅した、と知った。
ラフマニノフが始まった瞬間、ヤマハとの音の違いをすぐ感じた。私には、スタインウェイの方に、ピアノらしさ、重厚さ、高級感を感じる。奏でられているのが、ラフマニノフだったこともあるかもしれない。
続いて「展覧会の絵」。
上原さんは、過去にこの曲をレコーディングしている。チャイコフスキーの1番のコンチェルトとのカップリングでCDが出ており、聴いたことがある。宇野功芳氏が絶賛していた録音だ。
「展覧会の絵」という曲、ショパンのプレリュード集に劣らず、実によくできた曲だと思う。これも、ひとまとまりの音楽として聴く楽しみは無類だ。
上原さんの演奏は、きわめて多彩な表現だった。
一つ気になったのは、「バーバ・ヤガー」の盛り上がりから、「キエフの大門」に入った、最初のEsの和音が、ペダルで保持された直前の和音と混ざって、濁った響きになったこと。ここは、局面ががらりと変わって、Esのきれいな和音が聴きたかった。
それはともかく、良い演奏だった。
「展覧会の絵」をオケで(ラヴェル版)、また弾いてみたいと思った。そういうチャンスが今後あるだろうか。
アンコールは、2曲。
ラフマニノフの「鐘」。聴いていて、ラフマニノフその人のピアノ演奏はどんな演奏だったんだろう、実演で聴いてみたかった、と思った。
そして最後に、シューマン=リストの「献呈」。味わい深く、華やかな音楽だった。