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68歳、ヴィオラ弾き。ビール大好き。毎日元気。

バレンボイム事件

昨3日(木)の夜、Twitterを見ていたら、サントリーホールで行われたダニエル・バレンボイムのリサイタルで、演奏する曲の間違いがあった、との話でにぎわっていた。

 

このリサイタルは3日と今日4日(金)の2日連続の公演で、すべてベートーヴェンソナタ

   3日「最初のソナタ」  1番、2番、3番、4番
   4日「後期三大ソナタ」 30番、31番、32番

このような予定だった。

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何が起きたのか。

 

(以下、すべてTwitter上で得た情報です)

 

初日の昨晩、当然、1番で始まるものと誰もが思っていたところ、ステージに登場したバレンボイムは30番を弾き始め、続けて31番、休憩をはさんで32番を演奏したのだそうだ。つまり、翌日のプログラムを演奏してしまった形。

 

休憩時に、再開後は32番を演奏するとの場内アナウンスがあった。

 

また、終演時に、バレンボイム本人から謝罪のスピーチがあったと言う。

それによると、「間違った曲を弾いたことに休憩時間に気付いた!」。「今日弾くはずだった1〜4番は、次回来日した時に」。

 

演奏が開始されてから客席がざわめいたらしく、一部の客から苦情が出るなどの混乱もあったらしい。

 

何故このようなことになったのか。

これもTwitter上の情報だが、スタッフから演奏者への連絡にミスがあったとの説を見た。

 

その場で聴いた人のツイートには、曲が変わったことへの当惑あるいは不満、反対に演奏された後期ソナタ自体はとてもよかった、と様々な受け止めがあった。

 

また、翌日に行くつもりの人だろうか、「そうすると明日は初期ソナタに変更されるのか?」との声も。

 

曲目の事前変更、途中変更は往々にしてあることかもしれないが、今回の件の特徴は、演奏が始まるまで、誰も(客席も主催者側も、そして演奏者本人も)その変更を知らなかった、という点だと思う。

 

私自身の過去の経験だと、マウリツィオ・ポリーニのリサイタルで、事前に一度曲目変更が発表され、目当ての曲がなくなってしまったのにがっかりしつつも会場に行ったら、再度の変更が掲示されていたことがあった。ただこれは、二度も変更された異例さがあったにせよ、席に座るまでにそのことはわかっていた。

(30番が弾き出された時、思わずプログラムを見直した人、ロビーに曲目変更が掲示してあるのを見逃したのか? と頭がまっ白になったという人のツイートも見た)

 

演奏者本人の勘違いであれ連絡ミスであれ、30番が弾かれ始めた時点で、スタッフはそれに気づいただろうし青ざめもしたのではないかと思う。

(本番前のリハーサルでわからなかったんだろうか、というツイートも見かけたが、もしかしたら、7曲全部をさらったかもしれないし、これだけの巨匠だとほとんどリハーサルをしなかったかもしれない?)

 

であれば、30番が最後まで弾かれてしまったのは仕方がないとして、そこで何かできなかったのか、という気はする。

 

舞台袖でどういうやりとりがあったかわからないが、30番を弾いた以上、31番、32番とプログラム意図に沿って続けるしかない、という考え方もあるかと思う一方、30番はおまけとして、改めて1番から4番までを弾く方法もあったのではないかとも。

(もっとも、31番の前に袖に下がることなく、2曲が続けて弾かれたのだったら、休憩まで止められないことになる。実際はどうだったんだろう)

 

プロの演奏家の心の中を知る由もない単なる音楽ファンの立場から言うと、やはり、演奏会に行く場合には、聴きたい曲を選んでチケットを買うし、当然にその曲が聴けると楽しみにして会場に赴き、客席に着くものだと思う。

ところが全然違う曲が、予告もなく奏でられ、1曲にとどまらず、まるまる一夜のプログラムが別のものに差し替えられるというのは、やっぱりどうよ、と思うのだ。

 

めったに聴けない巨匠バレンボイムベートーヴェンに違いはないじゃないか、という考え方もあろう。

 

ただ、卑近な喩えで申し訳ないが、今日のお昼はトンカツ定食を食べたいと思って店に入り、注文して待っていたら、カツ丼が出てきた、という場面を想像してしまうのだ。

同じカツ(ベートーヴェン)なんだからいいじゃないか、と言われても、いや、今日はトンカツ定食が食べたかったんだけどなあ、と。

 

ま、いいかとカツ丼を食べる客もいるだろう。一方、これ注文と違うよ、と文句を言う客もいるだろう。その場合は、店の側も、すみません、と言ってカツ丼を急ぎ作って出すのだろうと思う。

 

つまり、30番を弾いちゃったけど、間違いだったんだから、改めて1番から予定の曲を弾く。それがまっとうなような気がするんだけど、どうなんでしょうね。

 

(似たようなツイートを見かけて可笑しくなった。「肉まんと餡饅があった時、肉まんの方が好きだからわざわざ肉まん買ったのに食べたら餡饅でショックを受けた人と、餡饅は餡饅で美味しいから問題ない人と2通りのタイプがいるのは納得」)

 

あるいはそういう問題ではなく、例えば、和食の懐石料理やフレンチのコースを出す料理人が、(手違いにせよ)この前菜で提供し始めてしまったんだから、今さらコースを変えることは良心が許さない、とかいう考えもあるのかな。

 

バレンボイムとしては、もう後戻りはできない、この3曲を続けて弾くことに意味があるのだから、プログラムは変えられない、と。

 

ちなみに今日、主催元のサイトに、「お詫びとお知らせ」が載った。

 

2公演セット券を買った人で希望される場合は、昨晩の演奏会分の代金を払い戻すそうだ。そして、今日4日は予定通り後期三大ソナタを演奏する、と。

 

   6月3日(木)にサントリーホールにて開催されたダニエル・バレンボイ

   ム ピアノ・リサイタル〜ベートーヴェン ピアノ・ソナタの系譜~第

   一夜「最初のソナタ」公演におきまして、当日、ピアノ・ソナタ第1番

   から第4番が演奏されるところ、第30番から第32番が演奏されるという

   プログラム変更が起きました。バレンボイム氏の当日の説明の通り誤解

   により後期三大ソナタを演奏されたことについて、当初のプログラムを

   楽しみにしていたお客様には、心よりお詫びを申し上げます。


   今回の対応といたしましては、「2公演セット券」をご購入されたお客

   様で、希望される方には3日公演のチケット代金を払い戻しをさせてい

   ただきます。手続きの詳細は下記、ご確認下さい。

 

   なお、6月4日(金)のプログラムはバレンボイム氏との協議の結果、当

   初の予定通り「後期三大ソナタ」を演奏させていただきます。     


   あらためてご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げますとともに、

   会場に足をお運びくださいました全てのお客様一人一人に、主催者として

   心より感謝を申し上げます。

 

両方を聴きたいと思って、大枚をはたいた人にしてみれば、予定の初期ソナタが聴けない分の代金が払い戻されるのは妥当な対応かもしれないが、結局、初期ソナタを聴くことはできなかった、という事実は残る。

 

(「プログラム変更が起きました」、「誤解により」、と短い文章を書くに際しての苦心がうかがわれる)

 

結局、ビジネス(仕事)としては取り返しのつかないミスであると言わざるを得ない事態なのは事実。ただ、そのミスが、世界的な巨匠のベートーヴェンをめぐって起きた点を、どうとらえるか(つまりある日のランチに過ぎないトンカツ定食とカツ丼に喩えて良いかどうか)、という面が別途検討されるべきだということか。

 

先ほどから、今夜、二夜連続となった後期ソナタの演奏のツイートが出始めた。

「こんな至高の演奏を二夜連続で聴けるとは感謝しかない」、「はからずも昨夜と同じプログラムとなったが、演奏も同じであるはずがない」など、この事件を奇貨とする賞賛も見られるが、2日とも足を運んだ人のすべてがそうだとは言えないだろう。

 

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