naokichiオムニバス

66歳会社員。ヴィオラ弾き。ビール大好き。毎日元気。

知床遊覧船の社長記者会見で思うこと

27日(水)、知床半島の海難事故を受けて、運航会社の社長が記者会見を行った。

 

観ていてふと可笑しくなってしまったのは、あまりにも「絵に描いたような」会見だったからだ。

 

冒頭の土下座。

要領を得ない説明。

(安全管理規程の内容について明確な説明ができなかったことをはじめ諸々)

無線が壊れていた事実。

 

既にこの時点で、その社長が海のことについては素人だとか、金のことしか考えておらず、悪天候でも無理矢理出航させていたから、以前から危ないと思っていた、とかの周辺からのコメントは、テレビを観ていればあれこれ耳にしていた。また、現地に駆けつけた乗客の家族からのコメントも。

(こういうコメントは、しばらくの間、情報番組や週刊誌を中心に続々と追加されるだろう)

 

そうした前提で会見の模様を観るにつけ、ほんとに「絵に描いたような悪徳社長」に見えてしまい、可笑しくなってしまった次第。

 

しかし、待てよ、と思った。

ふと危険だと思ったのは、報ずるメディアの側にとっても、観る側にとっても、例えば冒頭の土下座などは、いわば「おいしい画(え)」だし、安全管理規程について問われて、立て板に水のごとく明快に説明されるよりは、二転三転しどろもどろの方が、ある意味で望ましい、あるいは面白い、ということになってしまいかねないという点だった。

私自身が、そんな角度から観ていた面はある(そういう会見であってくれと期待まではしていなかったものの)。それがあまりにハマりすぎているので、「絵に描いたような」と思ってしまったところがある。

 

少し考え直そう。

 

報道は、ものごとの全体を表裏なく見せてくれるものではない。あの会見にせよ、端から端までのノーカットで放送したニュース番組はなかっただろう。抜粋だ。

その抜粋を観て、すべてがわかったつもりになってはいけない。観る側の姿勢の部分だ。

 

前記の、会見前に断片的散発的にインプットされる周辺情報についても同様だ。数秒に切り取られたインタビュー映像で語られる言葉は、やはり抜粋でしかない。

そうした情報により、大小のバイアスが形成されてしまうことにも、観る側としては注意が必要だ。

 

(つけ加えれば、これらの情報を報ずるあたって、メディア側に何かの意図が介在しないとも限らない)

 

ついつい、運航会社の社長が、事故を起こした極悪人であり、現地に滞在している乗客家族はかわいそう、という図式に整理してしまいがちだが、本当は注意が必要なのではないかと思う。

 

本当に他の会社には何の問題もなく、この会社だけがおかしなことをやっていたのか。

会見で社長が言っていた、「せっかく来たのだから船を出してくれ」という乗客からの要請は存在したのかどうか。乗客側にも安全を軽視する部分はなかったかどうか。

結果として重大事故が起きたから、そこだけにフォーカスして、ある論調に流れてしまいがちだが、冷静に広い範囲からものを見た時に、観光船の安全性というのは、どうだったのか。

 

そうしたことは、報道されている範囲の情報からはたぶんわからない。

メディアに依存しすぎた情報インプットとそれに基づく判断は、受け手として留意しなければならないと思う。事故が起きたから、知床の観光船、という領域に突然目が向いた人がほとんどだろう。私もそうだ。

ワールドカップになるとにわかサッカーファンが増える、みたいなものだが、スポーツ観戦ならともかく、こうした生死に関わる事故で、事の善悪を評価しなければならない事態においては、受け手として部分的な情報で適当に論評することは戒めなければならないと思う。

 

(例えば、ロシアとウクライナの件。現状、多くの日本人が、プーチン=独裁的侵略者、ウクライナ=かわいそうな国、という二元的な認識を持っているように思うが、そう単純な図式の理解で良いのか、と思うことがある。ウクライナ側に、プーチンをそうさせたものがないのか、など、真実はもっともっと複雑な、我々が知るすべもないようなものかもしれない)

 

そうした話はとりあえず置いて、あの会見を観て、別の角度から思ったことを記す。

 

仮に、あの社長が、金儲けのことしか頭になく、安全管理規程もろくろく把握していない、海の素人だとする。

どうしようもない奴だった、とするわけだ。

時々起こる他の事故や不祥事でも、ジャンルややらかしたことは違っても、どうしてこんな「絵に描いたような」ダメな奴が責任者なんだ、みたいなことはこれまでもあった。

 

で、思うのだが。

例えば今回の事故、トップがそういう奴であっても、起こさずに済ませる仕組みは考えられないのだろうか、と。

 

船を運航させるのは、人の命に関わることで、安全については万全が求められる。

当然、所管の行政が関与しているはずだ。

なのに、何故こういうことになってしまったのか。

これも一部の新聞報道から得た情報に過ぎないが、この会社は昨年も2回事故を起こしていて、国道交通省の特別監査を受けているそうだ。そこでこの会社の問題点は把握されなかったのだろうか。

 

どうしようもない社長だからこの事故が起きてしまった、という文脈で理解しようとするのでなく、どうしようもない社長であってもこんな事故を「起こさせない」仕組みが必要ではないか、という視点である。

「事故を起こしてしまった会社」の問題点を検証するのも大切だが、「事故を起こさせない社会」を作ることも同様に大切で、その観点から今回何が足りなかったのか、知りたいと思う。

 

明日自分が別の事故の犠牲者にならないために。