naokichiオムニバス

68歳、ヴィオラ弾き。ビール大好き。毎日元気。

時津風部屋事件

朝青龍問題が、あまり騒がれなくなったと思ったら、今度は時津風問題。

時津風部屋で、親方、弟子が、若い力士に暴行を加えて、死に至らしめたとされる事件だ。
朝日新聞では、時津風親方が立件される見込みだという記事を、朝刊1面に大きく載せた。

これは、朝青龍の一件に比べると、はるかに大きな問題だと思う。

朝青龍の件は、今後どうなるかわからないが、仮にこのまま彼が角界を去ったとしよう。

その場合、後年、「朝青龍という、ちょっとガラの悪い横綱がいて、変なやめ方をした」程度の振り返り方をされる話だろう。例えば、今、我々が双羽黒事件を振り返る時のように。
あるいは、「朝青龍という、とても強い横綱がいて、色々な記録の更新が期待されたが、つまらぬやめ方をしたため、尻切れトンボに終わってしまった」という見方もあるかもしれない。例えば、今、我々が後半の力士人生でケガに泣いた貴乃花を振り返る時のように。

基本的に、朝青龍という一力士の問題として、相撲史に残る話だ。

しかし、今回の時津風事件は、それとは影響範囲が大きく異なる可能性が高い。

確かに、相撲部屋において、しごき、かわいがり、というものは、昔からあっただろう。

かつて、二子山親方が、実弟の花田(後の大関貴ノ花)に与えた仕打ちは、周囲が目をそむけるほどのものだったという。
九重部屋で、北天佑の弟がリンチにあったという噂が流れたこともある。

今でもそうした大小のことはあるのだろうと思う。
こういう世界において、いじめ、しごきと、厳しい指導との区別は難しいところもあるだろう。

しかし、人が一人死んだ事実は、やはり次元が大きく異なる。
かつて、出羽海部屋の龍興山が、稽古後に虚血性心不全で急死した事例など、病気で力士が急逝したことはある。
だが、今回の事件は人災だ。

特に大きいのは、師匠である時津風親方が、今や立件を見込まれるほど、主たる立場で暴行を加えた点だと思う。
弟子たちが暴走したのを止めるべき部屋の師匠が、自ら先頭に立って、ビール瓶で殴ったというのだから、これは、やはり相撲界としても次元が異なる話ではないかと思う。

そして、先日の父親の会見では、部屋側は、当初遺体を火葬に付してから返すと申し出たという。暴行の証拠隠蔽の意図があったのではないかと伝えられている。

こうなると、もう何とも言いようがない。

何より憂慮されるのは、時津風部屋のみならず、角界全体への影響があるのではないかということだ。
それでなくても、入門希望者が減っている相撲界。
そこへこんな事件が起きては、ますますその傾向に拍車がかかるのが目に見えている。
力士を志す若者がいたとしても、その親としては、相撲部屋に大事な息子を預けようという気にはならないだろう。
昔の貧しい日本では、いわば「口減らし」のために入門させるなんてこともあったが、この豊かな現代だ。もしかしたら殺されるかもしれないという「業界」に、わざわざ息子を就職させる必要もないだろう。

放っておいても時津風部屋の経営が立ちゆかなくなることは、間違いない。
時天空豊ノ島時津海は、今どういう思いでいるのだろうか。

しかし、この問題は、おそらく一相撲部屋の存亡という次元では治まらない。
日本の大相撲そのものの存続をゆるがす要素を持っていると思う。

それだけに、朝青龍問題以上に、協会の対応が問われるところだと思う。

千秋楽の協会御挨拶でも、朝青龍の件にはふれずじまいだったという北の湖理事長が、この問題について、どのように対応するのか。
とりあえず、文部科学大臣のところには説明に行ったらしいが。

報道によると、この事件を受けて、「力士の指導に関する検討委員会」というのを設立することになったという。
しかし、8人の委員の中に、あの高砂親方が入っているというのは、ブラックユーモアかと思わざるを得ない。