昨年、今年と2年かけて行われている、ベートーヴェンの全曲演奏会の第5回だ。
昨年は、4番、7番、16番を聴いた。
日 時 2016年2月18日(木) 18:00開場 19:00開演
会 場 王子ホール
演 奏 ミケランジェロ弦楽四重奏団
曲 目 ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第10番変ホ長調「ハープ」
ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第2番ト長調
ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第14番嬰ハ短調
会 場 王子ホール
演 奏 ミケランジェロ弦楽四重奏団
曲 目 ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第10番変ホ長調「ハープ」
ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第2番ト長調
ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第14番嬰ハ短調
20日(土)に行われる最終公演では、13番を大フーガ付で演奏する。これも是非聴きたいところだが、オケの合宿と重なってしまい、断念。
今回の座席は、G列13番。ステージに向かってほぼ中央の席だった。
開演直前。携帯電話の電源を切って下さい、などのアナウンスが終わり、満場が静まりかえっている時に、右後方から、ドタドタと走ってくる大きな足音。何だ、何事だ? と思ったら、ぎりぎりに入場してきたらしき、サラリーマン風の男性。立派な体格なので、足音もでかかった。通路を最前列まで出てから下手側に移動して座った。ちょっと迷惑だったなあ。
ややあって、メンバーが登場。
まず、「ハープ」から。
冒頭のEsdurのアコードが鳴った瞬間、直前のドタドタは頭から去った。何と陶酔的な響き。
しかし、「ハープ」は、いい曲だよなあ。
2楽章の深さ。終楽章がベートーヴェン得意の変奏曲であるのが、またいい。
最後の終わり方のしゃれていること。「運命」と同じ人が書いたエンディングとは思えない。まさに練達の筆致だ。完璧。
2曲目は、2番。
しかし、まぎれもなくベートーヴェンの音楽だ。
この曲を聴いていて、個々のパートがもっとくっきり聞こえてもいいかな、と思った。
休憩の後は、14番。
今回のプログラムで、一番のお目当ては、この14番だった。
充分に堪能した。やっぱり、すごい音楽だ、14番。何という音楽だろう。
7楽章もある音楽って、マーラーですら書いていない。しかも、それが休みなく演奏されるという特異な構成。「運命」や「田園」で、アタッカはあるが、曲頭から曲尾まで休みなし、という曲は、ベートーヴェン以外でも思い浮かばない。
昔、大木正興氏が、「始まったら最後まで、40分ほどは息も入れられないのだから、演奏者はもちろんきき手も容易ではない」と書いていた。こうして実演に接すると、本当にそうだと痛感する。
端から端まで神品、ではあるのだが、やはり、この日の演奏では、4楽章の長大な変奏曲が圧巻だった。
それに連なる5楽章のスケルツォも。
正反対の性格の音楽を並べたすごさを、まざまざと感じた。
2番でちょっと気になった、この四重奏団の音の聞こえ方。
14番を聴いていて、つまり、ファースト・ヴァイオリンが少し目立っているんだ、と思った。
4つの楽器をもう少し対等に、一体のものとして聴きたいのだが、どうやら、このファースト・ヴァイオリンの楽器が、とてもよく鳴る楽器なんだな。
一方、セカンド・ヴァイオリンの楽器は、いささか地味な音に思えた。
そうしたことはともかく、すばらしい音楽、すばらしい演奏だった。
その中でどれが一番か、となると、これはたびたび変遷がある。15番が一番、と思っていた時期もあるし、今は、強いて言うなら、13番か、と思う。
しかし、こうして実演で聴いてしまうと、今夜のところは、14番が最高傑作だと思わざるを得ない。
アンコールはなかった。
それでも終演は21:15頃だった。弦楽四重奏曲3曲というのは、通常のオーケストラのコンサートで、短い序曲、中プロ、メインと組まれたプログラムに比べると、確かに長い。
カーテンコールで、ステージに出入りする今井(信子)先生の足取りが、少し重いように見受けられた。
今井先生も、70歳を超えられたが、まだまだお元気で活動を続けてほしいと願う。
(先日、チャイコフスキーの5番の2楽章に関連して、「自分にとって波長が合う、端から端までよくできた完璧な音楽」について書いた。この時、ベートーヴェンの音楽を余り挙げなかったが、「ハープ」と14番は、そうした意味で完璧な音楽だった、と思い至った)