naokichiオムニバス

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稀勢の里の横綱昇進を支持する

稀勢の里横綱昇進の当否については、一度書きたいと思いつつ、公私の多忙もあってその機を逸してきたが、気がつけば今日は3月場所の初日。ここで簡単に書いておく。

結論から書けば、意外に思われるかもしれないが、私は今回の昇進には賛成である。

以前から再三再四書いてきたことだが、稀勢の里という力士は、左四つになれば盤石、とのイメージとは裏腹に、四つ相撲が下手だ。腰高が目立つし、相撲の型が確立していないと思う。

そのような力士が、常に横綱昇進を期待され続けてきたのは、やはり彼が日本出身力士であることと関係があるだろうが、もう一つは、他の大関に比べての成績の安定性だと思う。

大関昇進後、昇進を決めた先場所までの在位31場所(それにしても長い・・・)中、24場所で2ケタ勝利をおさめている。大関昇進3場所目からは、10場所連続2ケタである。

これは他の大関と比べて圧巻と言う他はない。

相撲自体に安定感が欠け、毎場所いくつか取りこぼしがあるにもかかわらず、この成績は、私には今もって不思議だ。

安定して2ケタ勝てる大関が、その取りこぼし故に、今度こそ優勝をと期待されながら、どうしても優勝に届かなかった5年間。「何かが一つ足りない」という印象だった。

この間、平成26年には、鶴竜がワンチャンスをものにして横綱に上がった。鶴竜は、2場所連続の14勝で昇進する前の10場所で、2ケタは3場所しかない。それでも、稀勢の里ができずにいた優勝を先に果たして昇進した。誠に対照的な経緯だった。昇進後の鶴竜は少なからず苦労しているが、そのことにはここではふれない。

そして、平成28年。1月場所で、琴奨菊が日本出身力士10年ぶりの優勝、さらに、9月場所では、豪栄道が全勝で初優勝を遂げた。

琴奨菊も、豪栄道も、大関昇進後の成績を見れば、鶴竜同様に、2ケタ勝利の場所はいくらもない。琴奨菊については、優勝するまでの25場所中、2ケタは7場所しかない。この間カド番5回。豪栄道は、優勝するまでの12場所中、2ケタは何と僅か1場所である。この間カド番4回。初優勝はカド番場所である。

稀勢の里がどうしても優勝できずにいる間に、日本出身大関2人が相次いで優勝したことで、稀勢の里に足りないものは何なのか、と私は考えざるを得なかった。

優勝する力士には、たとえそれが生涯一度の優勝だったという平幕力士であっても、「勢い」がある。その場所に限ってであっても、他を寄せ付けない何かがある。琴奨菊豪栄道もそうだった。ろくに2ケタ勝てずにいた大関が、その場所に関しては、あたりを蹴散らす強さがあった。

一方、稀勢の里の場合、初日から連戦連勝で手がつけられない強さを発揮する、という場所は少ない。どこかで取りこぼし、優勝争いでは常に追う立場。今回も届かなかった、というケースが多かった。

琴奨菊豪栄道が優勝をつかみとれても、稀勢の里にそれができないのは、やはり前に書いた相撲の安定性の問題、それによる取りこぼしにある、と考えるしかなかった。成績は安定しているが、そこに白星1つ2つを上積みできない弱さ。
結局、こういうことでは、稀勢の里は一度も優勝できずに終わるのではないか、と思った。

しかし、先場所、3横綱の不調、休場など、展開に恵まれた面はあるとは言え、14勝で初優勝。これで、ひと皮剥けてくれるか、という期待はある。

昇進の当否については、前場所が12勝だったことなどから、推挙基準である「2場所続けて優勝もしくはそれに準ずる成績」にあたるのか、との批判がある。

しかし、私はこの昇進を支持する。大関昇進の場合、3場所の成績で見る協会の基準がある。横綱についてそれより短い2場所の成績で判断していいのか、との議論は以前からある。

NHKを始めとするメディアは、大関が1回優勝すれば、次の場所を「綱とり場所」と称して騒ぐ。このことは、昔から疑問に思っていた。琴奨菊も、豪栄道もそうだった。満足に2ケタ勝てないでいた大関が、1回優勝しただけで、次の場所の成績次第で横綱昇進に値する、という見方には、賛成できない。

それに比べて、31場所中24場所、77%超の2ケタ率の大関が初優勝した価値ははるかに高い。横綱たる力量があるかどうかは、長い目で見るべきであり、この点に着目して「それに準ずる成績」と見るのが妥当ではないか。

今回の昇進に賛成する理由である。

ただ、これは、1場所優勝しただけでの琴奨菊豪栄道の綱取り論議に比べれば、ずっと望ましい評価のあり方だろう、ということであり、稀勢の里にせよ、常に何か1つ足りない経緯でここまで来た事実はあるので、彼が横綱たる力量があるとの確信までは持てない。

この昇進を機に、足りなかった何かを上積みできるかどうか、依然課題として残る。

このことについて、私が思い出すのは、昭和40年代にさかのぼるが、大関玉乃島である。

玉乃島は、当時の絶対王者大鵬が、昭和42年11月場所から5場所連続休場した間、3場所連続で準優勝にあたる成績、続く昭和43年5月場所では13勝2敗で初優勝した。

横綱昇進が期待されたが、その後、若干低迷し、連続休場から復帰した大鵬が45連勝を記録したことや、ライバルである北の富士の存在もあり、しばらく優勝から遠ざかった。

この頃の玉乃島に、私には、稀勢の里と共通するものを感じる。

昭和44年9月場所で2回目の優勝を果たした玉乃島は、翌年3月場所に、北の富士とともに横綱に昇進する(ここで玉の海に改名)。この時点では、天才肌で勢いがつけば手がつけられない北の富士に比べて見劣りする印象もあり、横綱としての初優勝も北の富士の後塵を拝したが、昇進4場所目の昭和45年9月場所に優勝したところから飛躍的に成績を伸ばし、そこからの6場所は、84勝6敗という驚異的な成績をおさめた。

毎場所、北の富士や最晩年の大鵬との優勝争いを演じたことが、彼の成長の要因ではなかったかと思う。昭和46年9月場所後、現役中の突然の病死がなかったらどれだけの横綱になっていたのか、と今でも思う。

横綱昇進後の稀勢の里について、玉乃島(玉の海)を重ねて考えた時、これまで足りなかった何かを埋めることも可能なのではないか、と思うのだ。

玉乃島大鵬がいたように、稀勢の里には白鵬がいる。悲願の初優勝を遂げての昇進で、「地位が人を作る」の例え通り、一つ上の次元に上がって立派な横綱になる可能性はあるかもしれない、と思う。ひと皮剥けるのでは、という期待を書いたのはそういうことである。

こうしたことで、今回の稀勢の里横綱昇進に異論はない。

稀勢の里ファンでない私としては、今日からの3月場所、彼の取り口がどうなのか、技術的な面に注目して場所を観て行きたいと思う。

先場所同じ大関だった琴奨菊は、関脇で今場所を迎える。2ケタ勝って復帰できるかが話題の一つだが、このところの琴奨菊の相撲を観ていると、2ケタはそもそも難しいだろうし、仮に復帰できても、以後充分に大関らしい成績をあげて行けるとも思えない。厳しいものがあると思う。

しかし、稀勢の里はそうはいかない。横綱に上がった以上は、それにふさわしい成績をおさめていかなければならない。

横綱という地位、関脇という地位の違いを改めて思う。