19日(金)は、東京文化会館で行われた東京二期会オペラ劇場の「蝶々夫人」を観てきた。
「蝶々夫人」は、2021年6月に藤原歌劇団の公演(日生劇場)を観たが、それ以来である。
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東京文化会館の演奏会前に食事をとる場合は、上野駅構内の蕎麦屋あたりに入ることが多いが、この日は多少余裕をもって出かけたこともあり、並んでいることは予想の上で文化会館2階の精養軒に行ってみた。
果たして10人ほどの列ができており、並んでみたが途中から動きが止まった。場合によっては離脱して入場し、中でサンドイッチでも食べるか、と思ったところで列が動き出し、開演1時間前に何とか入れた。
とは言え、満席は満席なのだから悠長に構えるわけにもいかない。メニューを開くと、開演前にお時間のない方へ、と表示されたカレーライスとハヤシライスが目に止まったので、ここはぐずぐずせずに注文。
ハヤシライス。カレーは口の中に味が残って公演中気になるといけないので。
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ホール手前のラックには、11月に小ホールで行われるクァルテット・エクセルシオの先生方の演奏会のフライヤーがあった。チケットは購入済み。
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●東京二期会オペラ劇場 蝶々夫人
日 時 2024年7月19日(金) 13:00開場 14:00開演
会 場 東京文化会館大ホール
演 出 宮本亞門
衣 装 髙田賢三
指 揮 ダン・エッティンガー
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
曲 目 プッチーニ 歌劇「蝶々夫人」
プログラム冊子から。
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宮本亞門演出による「蝶々夫人」は、2019年に東京で初演されたものだそうだ。
今回の公演には、「ザクセン州立歌劇場(ゼンパーオーパー・ドレスデン)、デンマーク王立歌劇場およびサンフランシスコ歌劇場との共同制作,」と付記されている。
東京初演の後、ドレスデン、サンフランシスコでも公演が行われ、今回東京に戻ってきたようだ。
主要な役はダブルキャスト。
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ホワイエには、東京二期会の秋の公演のPRもあった。
モーツァルト、R.シュトラウスともチケットは入手済み。
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私の席は4階L1列30番。
東京文化会館というところはエレベーターがないんだね。4階席5階席に行くにも階段を上っていかないといけないようだ。
座った駅は最前列なので前の人が邪魔になることはない。ステージは下手の一番端が見きれるが問題はない。オケピットは4分の1程度見えないがやむを得ないところだ。
平日の午後公演ということで、満席とはいかず。
宮本亞門の演出は、各幕の冒頭は病室のシーンから始まる。老いたピンカートンがベッドに横たわり、かたわらには蝶々さんとの間に生まれた子供(既に青年に成長)がいる。
この青年は、全幕を通じてステージ上にいる。自分の子供の頃にタイムスリップしたように、1幕から終幕まで、物語の一部始終を眺めている。
子役として出てくるピンカートンと蝶々さんの子供が、歌ったりしゃべったりすることなく演ずるのは通常のことだが、この演出では、子役と青年がステージ上に共存する。
こうした演出意図については、5年前に観ていない私のような観客もいるのだから、プログラム冊子にはある程度詳しく書いておいてほしいものだと思った。
意図を飲み込むまで、青年が終始そこにいる意味が理解できずちょっと違和感があった。
1幕は、病床シーン、オケは黙ったまま、ステージ上の人物も無言の芝居をして、やがてピンカートンの手紙が読み上げられるところで人の声が初めて聞こえた。間もなく通常のオペラの冒頭部の演奏が始まった。
舞台装置については、3年前に観た藤原歌劇団が非常にリアリティに富んだものだったのに対して、簡素、象徴的。
具体的な装置は、2人の新居となる日本家屋を表す、木の縦長の直方体。
それ以外は、紗幕が細かく出入りし、その紗幕や舞台奥にプロジェクションマッピングのように桜や月などの映像が映し出される。
これらを観るには4階のL席はちょっと不利だった。フロアはともかくとしてセンター席にすべきだった。
木の直方体も随時ステージ上を右へ左へ奥へと移動する。紗幕の交代も頻繁なので、割合動きが激しい印象。
1幕最後の二重唱は本当に美しい。プッチーニの魅力を堪能した。
カーテンコールはコーラスなど。主要な役は出てこなかった。
2幕の最初もまた病室。手紙の続きを読むような形から入った。
「ある晴れた日に」は、屋内のはしごを上がって屋根の上に出て歌うようなイメージだった。いつもここから船が来ないか見ていた、ということなのだろう。
以後、ストーリーの進行には引き込まれる。
蝶々さんが、常に洋装であることに気がついた。藤原歌劇団の時は着物だったし、普通どこの公演でも和服だと思うが、この東京二期会は、スズキは終始和服だったが、蝶々さんは白の洋装。
(どうでもいいことだが、4階から遠目に見ていると、何故か蝶々さんが「虎に翼」の寅子に見えた。寅子というより伊藤沙莉に見えたのかな)
蝶々さんとスズキが花を撒く場面は、実際に撒くことはせず、花の映像が映し出される方法だった。
ここの二重唱はとてもよかった。
スズキという役は重要だと思った。カーテンコールでもひときわ拍手を浴びるのは、歌そのものもあるだろうが、役設定から来る部分も大きいのではないか。「カルメン」におけるミカエラと共通するものがあるように思う。
2幕終盤のハミングコーラスもとても美しかった。
2幕と3幕の間に休憩がないことはわかっていたが、実際の演奏もほぼ切れ目なく続いた。
3幕冒頭はまた病床シーン。手紙朗読はなかった。
以後は息もつかせぬ進行。
青年の存在にやっと慣れてくると、物語の進行に、この無言の青年の動作がどうからむのか、見ようという気になるが、少々遅かった。
そもそもこの演出アイデアには、たぶん賛否両論があるのだろうが、賛否以前に演出意図を理解して観るためには、やはり事前の説明、情報がほしかった。
蝶々さんが自決を決意した段階で、スズキと遊んでいたはずの子供(子役の方)が、家に帰ってくる。その子供を青年が家の中に押し込むようにする。自決を止められれば、ということなのだろう。
しかし、蝶々さんにさとされるようにして外に出てきた子供が、また家に戻ろうとした時には、今度は青年は抱き留めて行かせないようにする。もう間に合わない、子供に見せてはいけない、ということなのだろう。次の瞬間、家が血のような赤に染まる。
こうした青年の動きを、最初の段階からもっと注意深く観たかった。
3幕の最後の方にもまた老ピンカートンのベッドが出てくる。
その後、舞台奥から自決したはずの蝶々さんが出てきて、本来のオペラでは坂道を上りつつ「蝶々さん」と呼ぶピンカートンが、蝶々さんに歩み寄る。
つまり、これは老いて死ぬピンカートンの幻想ということなのだろう。その幻想の中では2人は結ばれる。老ピンカートンは後悔にさいなまれているという演出意図なのだろうと思う。
しかし、このオペラの最後に聞こえる「蝶々さん」の呼び声は、若きピンカートン、つまりもはやくつがえらない現実のピンカートンの声。
幕切れの音楽は、ロ短調で進行するが、最後の最後の和音はそのロ短調に解決しないままだ。
この演出ではそのことを強く感じさせられた。
それにしても、「蝶々夫人」はすばらしいオペラだ。
本当に美しいし、本当に悲しい。
そして、オケが突きつけてくる音がすごい。そこがプッチーニの本領だと感じる。
泣けた、泣けた。
また遠からずプッチーニのオペラは何か観たいな。
エッティンガーと東京フィルでは、29日(月)に、今、浦安シティオーケストラで取り組み中のブルックナーの4番他を聴く。楽しみだ。
※宮本亞門インタビュー
encount.press
※池田卓夫氏のレポート
classicnavi.jp
※髙田賢三の衣装に関するレポート
artexhibition.jp