naokichiオムニバス

68歳、ヴィオラ弾き。ビール大好き。毎日元気。

床屋6~未曾有の危機

千葉そごうでの親たちとの会食を終えて帰宅。
一服後、夕方散髪に出かけた。

床屋については、昨年末にもいくつか記事を書いた。
今日出かけたのは、その時にも紹介した、家の近くにある、「P」という店である。

床屋で髪をいじられたり、シャンプーされたり、肩をもんでもらうのは気持ちがいいので好きだ。

今日も、店内に流れるジャズの心地よい響きに身をまかせながら、髪を刈ってもらっていた。

・・・・私の身体に異変が生じたのは、しばらくたった時であった。

それは、胃の左のあたり、みぞおちのちょっと上のあたりに、ほんの小さな「点」のような違和感。
ほんとに、「点」のような小さなものがふと生まれた、という感じであった。

しかし、長年の経験で私にはわかった。
「これは便意だ」

この小さな点が、やがて短時間に大きく成長し、私をゆさぶることがある、ということを、私は知っている。

こうなると、もう髪をいじられる気持ちよさも、ジャズのけだるいサウンドもない。
他のことを考えて気をまぎらわせればいいのだが、経験のある方にはおわかりであろう、もうそのことしか考えられない。

しかも、身動きのできない床屋の椅子の上である。

長年の経験で、これも私は知っている。
普通の便意は、我慢できる。
しかし、下痢の便意は、無理だ。
これまで、通勤の電車の中などで、何度辛く苦しい思いをしただろう。

前者であることを祈った。
しかし・・・。
そうではないことが、ほどなく、長年の経験でわかった。

「点」が発生した時点で、カットは終わったところ。
これから、顔剃り、シャンプー、肩などのマッサージ、ドライヤーと続く。

およそあと30分程度か・・・。

その間、この「点」が大きく増殖しないで済んでくれれば・・・。

しかし、その願いは空しかった。
ほどなく、「点」は、これも経験のある方にはおわかりであろう、寄せては返す陣痛のような(いや、私は陣痛の経験はないが)となって私を襲った。

あと30分を何とか持たせたい。
そして、この店を出たら、と頭の中で検討。
目の前のコンビニには客が使えるトイレはあっただろうか。なかったような気がする。
家に帰るよりはマンションの管理事務所、いつもご近所アンサンブルの練習をする管理事務所の方が近い。そこのトイレに駆け込めば・・・。

ふだんであれば、シャンプーも、マッサージも、ゆっくりと時間をかけてやってくれる、この「P」が、だからこそ好きなのだが、今日に限っては、適当にすっ飛ばして少しでも早く作業を進めてほしくて仕方がない。
しかし、店主はいつも通りゆっくり丁寧にやってくれている。
勝手な話だが、それが辛い。早く、早く、と思ってしまう。

しかも、床屋というのは、結構頻繁に姿勢を変えさせられる。
カットが済んで、シートを倒して、顔剃り。
その姿勢が、下腹部に刺激となる。

しかし、そうしている内に一旦は陣痛も治まり、むしろこの姿勢ならまだ持ちこたえられると思うのだが、それは許されず、シートが起こされた。
その直前、どこか作業の切れ目をとらえて、トイレに行かせてもらおうかな、という思いも生じていた。
当初は、終わるまで何とか持ちこたえて、店を出たらトイレへ、と思ったが、そこまでは我慢できないかもしれない、という気弱さが既に出てきていた。

シートが起きた時、「シャンプーに移る今がチャンスだ」と思ったが、言い出す度胸がなく、言葉を飲み込んでしまった。
店主は、はたから見ているだけでは、私の苦しみはわかる由もない。淡々と、続くシャンプーの工程にとりかかった。

ここの店は、シートに身を起こして座っている状態でシャンプーをかけまわされた上で、目の前の洗面台で流すという手順だ。
わかってはいたのだが、その前にトイレを申し出られなかった私に、最大の危機。
流すために、椅子に座ったままで、前かがみに洗面台に向かって頭を下げないといけない。
モロに下腹部を圧迫する姿勢だ。わかってはいたのだが・・・。

やっぱり、シャンプーの前に言えばよかった、と思ったが後の祭り。
ふだんのように深く頭を下げられない。
不自然だったのだろう。店主が「もっと頭を下げられませんか」と言う(笑)。
こちらは地獄の苦しみだ。
できる範囲で腰を沈め、頭を下げるように試みたが、不自然な格好のままで終わった。

流しが終わって、身を起こした、そこが限界であった。
ここまでくればあと10分程度とわかっていたが、濡れた髪をタオルで拭ってくれているのももどかしく、「すみません、トイレをお借りしたいんですが」と訴え出たのであった・・・。

長年床屋に通っていて、このようなことは初めてである。
(ずーっと昔、木更津の実家近くの理髪店で一度こういうことがあったが、その時は、何とか最後まで持ちこたえた。店を出るやいなや、乗ってきた自転車で、今はもうないダイエーに駆け込んだのを思い出す。作業を中断してもらったのは、今回が人生初)

いやそれにしてもえらい目に遭った。

「P」にとっては、毎日多くのお客さんが来る中、こうしたことも当然あるだろう。店にとってはどうということはない筈だとは思いつつ、やっぱり恥ずかしかった。
当分他の理髪店に行くかな、などと思いながら家に向かったのであった。