naokichiオムニバス

68歳、ヴィオラ弾き。ビール大好き。毎日元気。

ご近所アンサンブルでクラリネット五重奏~名古屋からびんちゃん参加

昨29日は、午後から、月1回、マンションの集会室で行っているアンサンブル。
今回は、名古屋から新浦安の実家に帰省中の元オケ仲間のクラ吹き、びんちゃんことOさんが特別参加。

このいきさつについては、以前書いた。
   http://blogs.yahoo.co.jp/naokichivla/36706181.html
Oさんとは、浦安でご一緒していた時代に、モーツァルトクラリネット五重奏曲を何度か演奏したことがある。また名古屋からこっちに戻ってくる機会があれば、今度はブラームスをやりたいね、という話は折にふれてしていた。
5月に、我々のご近所アンサンブルで、そのモーツァルトのクラ5を、弦楽五重奏版で合わせてみたのだが、そのブログ記事に彼女からコメントをもらったことがきっかけで、今回の顔合わせが実現したものだ。
    http://blogs.yahoo.co.jp/naokichivla/35542840.html

合わせは13時から。
JRの最寄り駅まで、びんちゃんを迎えに行き、いつもの集会室へ案内。
弦は、ファースト・ヴァイオリンHさん、セカンド・ヴァイオリンHさん、ヴィオラTさん、チェロIさん、それに私の5人が全員参加。

楽譜は、モーツァルトブラームスがある。

やはり、いきなり合わせづらそうなブラームスよりは、モーツァルトからだろう、ということで、モーツァルトの1楽章から始める。

本来クラリネット弦楽四重奏の編成ではあるのだが、ヴィオラは2人で弾くことにする。特にブラームスで重音が多いので、2人だとラクだ。

同じ集会室でのこのアンサンブルで、管楽器の音が鳴るのは初めて。
個人的には学生時代、あるいは浦安で何度も弾いている曲ではあるが、久しぶりのクラリネット五重奏の響きが何とも心地よい。弦だけでやっているいつもの四重奏、五重奏に比べて、格段に豊かというのか、艶っぽい感じがするのだ。

モーツァルトから始めたのは正解で、円滑に4楽章まで進んだ。
それにしても、この作品、何とも素晴らしいとしか言えない。同じ作曲家のクラリネット協奏曲もそうだが、正に「心洗われる音楽」という気がする。演奏していて、癒される。

いつものように、Iさんが持ってきて下さったコーヒーや紅茶で休憩してから、いよいよブラームス

ブラームスのこの五重奏は、びんちゃんにとっては吹くのが夢だったという曲。また弦の人たちも大好きな曲で、一度実際に合わせてみたかったという話が口々に出ていた。

私個人は、モーツァルトほど弾いてはいない。
学生時代、確か4年生の時、大学オケの仲間で合わせたのが最初だ。この時のクラソロは、今海外勤務で浦安を休団中のK氏(卒業後浦安で思いがけず再会)であった。
秋の学園祭シーズンに、自分の大学の学祭で演奏した他、よその女子大(確か東京女子大だったと思う)の学祭にもに乗り込んで演奏した記憶がある。
その後は、今の浦安のオケで、もう10年くらい前に、新年会だったか合宿だったかの機会に、お遊びで合わせてみたことが一度ある。その時のクラソロは、びんちゃん入団前で、もう退団した古参のM氏だった。
いずれの機会にも、難しそうな2楽章ははずしてやったと記憶する。

それはさておき、今回集まったみんなが、一度やってみたかったブラームス
しかし、ブラームスである。モーツァルトに比べると、リズムから何からずっと複雑な楽譜だ。
全員、何かこう、高い山を見上げて、これからこれに登るのか、とでもいうような表情。

「ほんとに難しそうだな」「通るかな」「すぐ止まるんじゃないか」・・・。
誰かが、意を決したように、「ともかくやってみましょうよ」と、背中を押してくれた。

こわごわと始める。
弾くのが初めてという人もいるが、やはり皆がよく知っている曲だからだろう、懸念していたほどの挫折はなく、1楽章は、思っていたよりはちゃんと通った。
頻出する重音も、ヴィオラは2人いるので安心だ。ズルだが。
ちょっとほっとした空気。

しかし、次の2楽章は、予想はしていた通りやはり難関であった。
最初の部分は、各パートのリズムが全部ばらばら(8分音符、3連符、シンコペーション等々)。
モーツァルトでは、基本的に常に誰かビートを刻んでいるパートがあるので、それに合わせてリズムをとれるのだが、ブラームスではそれがない。ハーモニーもモーツァルトのように平明でないので、要するに、今弾いているのが正しい場所なのか、わからなくなってしまうのだ。
しかもアダージョのゆっくりしたテンポだからなおさらだ。
早く進んでしまう人、遅れる人が出てきて、「何か変だな」という話になって止まる。
それでも、何とかその4分の3の主部は、曲がりなりにもという感じで終わったが、更に大変だったのは、その後のピウ・レントの中間部。
ここは、クラリネットのソロがラプソディックに激情的に歌うところだが、テンポ、リズムがさっぱりわからない。
私はスコアを持ってきていたので、パート譜の脇にそれを立てて、スコアの方を見ながら弾いた。他の人が何をやっているかわかるので、その方がいいのだ。
止まりながら、他パートが何をやっているかをお互いに確認し合い、返していく。返しでは、「1とぉ、2とぉ、3とぉ・・・」とテンポを口にしながらやっていく。
2楽章はそんなこんなで何とか終了。この楽章が、結果的には一番の難物だった。

3楽章、4楽章はそれに比べるとまだテンポをつかみやすい音楽なので、難関をくぐった後、多少は気分を楽にして弾き進めることができた。

ともかくも、何とか4楽章までを「奏破」。
ふもとから臆し気味に見上げていた山頂に、疲労困憊で倒れ込んだ、という感じだろうか。

それにしても、ブラームス
私は、オケでは、シンフォニー4曲はひと通り経験していて、リズムの複雑さ、難しさは知っているつもりだが、指揮者がいない室内楽は本当に大変だ。
明確なビートパートがない状態で弾くには、私の場合、頭の中で、8分の6拍子なら8分の6拍子を常に数えていないといけないのだが、この長い曲、全楽章にわたってそれをやっていると、相当ストレスがたまってくる。頭がおかしくなってくる。
ほんとにくたびれた。
これを本当にちゃんと演奏しようと思ったら、すべてのパートの楽譜が頭に入っていないといけないのだろうと思う。アマチュアには相当に高い壁だ。

弾き終えて、口々に、「モーツァルトもいいけど、このブラームスも本当にいい曲だねえ」との話が。
本当に、曲がりなりにも、という形ではあっても、弾いてみて、作品のすごさに圧倒されたという感じだ。円熟しきった筆致というか、どのパートも本当に完璧だと思う。ヴィオラブラームスの常で、本当にいい音を出させてもらえる。

この五重奏は、ブラームスにしては珍しく、非常に主情的な音楽だと思う。
他のブラームスの作品でも、劇的な音楽はあるが、この五重奏はそれとは違う、個人的な感情の吐露があるように感じる。
一緒に弾いた弦のメンバーからも、「男の晩年」「むせび泣き」「落日」というような形容がされていた。
実際、ブラームスにとっては晩年の作品で、何とも言えない哀愁に満ちている。
今のような盛夏にはマッチしない、晩秋の趣である。

素晴らしい作品ではあるが、現時点で言うと、私にとっては、いささか「切なすぎる」音楽に感じられる。
少なくとも、モーツァルトの五重奏のように、気軽にレコードをかけて聴こうという気にはなれない。聴くにはちょっと覚悟というか決断が要る、私にはそんな音楽だ。
(でも、今はこれを書きながら、アルフレート・プリンツとウィーン室内合奏団の演奏をかけている。モーツァルトブラームスカップリングされたDENON盤だ)

それにしても、木管楽器と弦の組み合わせによる室内楽は、そもそもそう数が多い訳ではないが、その中で、今回演奏した2曲は、ずばぬけた傑作ではないだろうか。
やはり、クラリネットと弦の音色が、他の木管楽器に比べてよく調和するのだろうと思う。
この2曲に共通するのは、作曲家にインスピレーションを与えたクラリネット奏者がいたということだ。
モーツァルトには、シュタードラー。ブラームスにはミュールフェルト。
彼らがいなかったら、これらの傑作は生まれていなかっただろうと言われている。
ある演奏家が、作曲家にそれだけの影響を与えるというのはすごいことだと思う。

さて、2曲弾き終えて、まだ少し時間があった。それまでも2曲とも各楽章返しながら弾いてきていたのだが、それでは、最後にどれかの楽章をもう一度、ということになり、ブラームスの1楽章を改めて弾いた。
13時から18時まで5時間。
クラリネット五重奏を心ゆくまで堪能した。

集まったメンバーそれぞれ、自分の所属団体等、これ以外の演奏の場を持っているが、このように、クラリネット五重奏を合わせる機会はめったにないようで、本当に貴重な時間になった。

8月の練習会場の予約をしてから近くの店、Yに移動し、びんちゃんを囲んでの飲み会とした。
クラリネット五重奏の話、びんちゃんが今所属している豊橋交響楽団の話など、話題は尽きなかった。
TNC(豊響飲んだくれクラブ)のメンバーであるびんちゃん。初めての顔合わせだから遠慮したかな?
浦安で私が知っているほどの飲みっぷりではなかった(笑)。

「また帰省することがあったが、是非来て下さい。また合わせましょう」と話しながら散会。
午後から夜、演奏から飲み会と、密度の濃い時間だった。
朝、両親と病院に行ったのが、ずいぶん昔のように感じられた。