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69歳、公務員、ヴィオラ弾き。ビール大好き。毎日元気。

浅田真央選手が見せてくれたもの

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20日(木)未明、女子フィギュアショートプログラム、21日(金)未明、フリー。

ソチとの時差は5時間。

大変だったけど、観ましたよ、2日とも。とは言っても、会社があるから、さすがに全部は無理。キムヨナ選手と日本の3選手中心に。

一旦寝て、新聞に載っていた滑走予定時刻にアラームで起きて、観たらまた寝て、次の滑走予定時刻にまたアラームで起きて、の繰り返し。

金曜、土曜の夜にやってくれたらよかったのに。

何と言っても、今回は浅田真央

事前には、キムヨナとの再戦を制して、バンクーバーの雪辱を果たす金メダルがなるか、との注目を集めた。
バンクーバー後に母親を亡くしたこと、また、あの銀メダル以後、短くない不振に陥って、それを克服してきた経緯。
ドラマ的な意味でのストーリーは揃い過ぎるほどだった。

そのことが、もしかすると災いしたのか?

現実の結果は、まったく別の意味であまりにもドラマティックだった。

ショートでの最終滑走、55.51点。16位。

何度も書いているが、私は、フィギュアスケートの見方がわからない。
あの浅田選手の滑りが、そこまで不出来なものであったかどうか、自分ではわからなかった。
冒頭の転倒は、もちろん素人目にもわかったが、以後の滑りは、それなりに立て直して、さすが浅田真央、というもののようにも思った。
解説、実況も、途中のコンビネーションジャンプの失敗にはふれたが、さほどネガティブな感じはなかったし。
(今思えば、実況も八木沼(純子)さんも、黙ってる時間が結構あった。コメントできなかったのかな)

何となく、メダル圏内はちょっと厳しくても、4位か5位くらいかな、と思っていたので、55.51点、16位には、目を疑った。日本選手の中でも最下位だ。

「まさか」という言葉が、これほどぴったりくる出来事はない、と思った。

私のようなスケート素人が、数字に驚いたという低次元の話は脇に置く。

しかし、日本中、世界中の多くの人が、上記のようなストーリーを、多かれ少なかれ頭に置いて観ていたことだろう。
正に、「浅田真央、悲願の金」からすれば、「まさか」だ。

フリーの後のインタビューで、浅田選手本人が「ショートでは取り返しのつかないことをしてしまったが・・・」、と言っていたが、確かに、首位キムヨナとの20点近い大差は絶望的。

ショートで出遅れたが、フリーで挽回して! とはよく言うことだが、あまりの大差。
この時点で、すべてのストーリーはしぼんでしまった、終わってしまったと思った。

一方のキムヨナは、ノーミスであっさりと首位。

うーん、あんまりじゃないか、と思った。

情緒的な部分で言うと、以前から書いているが、私は、浅田選手よりキムヨナ選手の方が好きだ。

ただ、今回については、両者のバンクーバー後の歩みの違いから、やはり浅田選手に勝ってほしいと思っていた。

それがこの結果。4年間、スランプと苦闘の末に、やっとそれを克服して上り調子でオリンピックを迎えた浅田選手が、無惨な結果(今季の出場試合、ショートはすべて1位の成績だったのに)。一方、競技を離れてブランクのあったキムヨナ選手が、事も無げに1位を占めたことには、何か理不尽ささえ感じた。

ショート終了後のインタビューでも、どこがどう失敗したかなどのコメントはなく、「わからない」という発言に、事態の深刻さがうかがえたし、翌日の公式練習でも精彩を欠いたとのテレビ報道に、そうだろうな、と思った。

そして、フリー。

厳しい世界だなあ、とつくづく思った。

誰も助けてくれない。コーチさえ助けてやれない。自分で、自分が、やるしかない。

フリー進出24選手中、浅田選手は第2グループ、12番目。

6分練習でリンクに散って行く第2グループの選手たちの中に浅田選手がいるのを観て、元大関が平幕に陥落して、幕内土俵入りの前から4、5人目を歩いているような痛々しさを感じた。

関連して、かつて憎まれるほど強かった横綱北の湖が、力が落ちた晩年、同情の歓声を浴びるようになったことを思い出した。

浅田真央を同情しながら観ていることの異例さ。そう、浅田真央はそれじゃいけないんだ。私がかつて、こわいものなし、小生意気で気に入らない、と思っていた浅田真央でなければ。

大丈夫か? どうなんだ? なんて目で観るような選手じゃないんだから。

しかし、浅田真央とは、何という人だったことか!

別人のような滑りで6種類の3回転ジャンプを決めてみせた。オリンピックの女子史上初の快挙だそうだ。
(競技前に、3回転ジャンプを全部飛ぶとの決意は報じられていた。正直、もうヤケになっているのかな、と思ったものだった)

そして、142.71点は、フリーでの自己ベスト。
私は、ここに価値を感じる。

あの惨憺たるショートから僅か1日。自己ベストを出せるとは。
試合後のインタビューで、「昨日の結果からどう立て直したのか」と問われ、「色々あったんですけど」と答えた浅田選手。
本当に色々な思いがあったんだろう。きっとそれは本人にしかわからない。
私のような凡人なら、逃げ出したくなるような状況の中で、人間とは、こういうこともなしうるものなのだ。23歳の若い人間が。

滑り終わった直後、堪えていたものが噴き出たような泣き顔には、こちらも泣けた。

バンクーバーで、キムヨナに敗れた直後のインタビューでの、彼女のこわばった表情は今でも忘れられない。泣きたいが泣き顔を見せたくない、と必死に堪えているのがわかった。それまでに見たことのない、浅田真央の顔だった。

あの時の表情と、この泣き顔。

たぶん、嬉し涙なんだろうな、と思った。いや、嬉し涙70%、何故昨日これができなかったんだろう、という悔し涙30%。

試合後のインタビューでは、すがすがしさと満足感が伝わってきた。
銀メダルだったバンクーバーでのあの表情よりは、6位であっても今回の方が、観ているこちらにも嬉しいものだった。

きっと、本人にしてみれば、周囲が期待する金メダルとかの成績自体よりも、自分が望む滑りができたかどうかの方が大切なのだろう、と思えた。

それゆえの嬉し涙だっただろうし、前日を振り返っての悔し涙だったのだと思う。

トータル198.22点は、もしかしたらメダルに絡めるかも、とさえ期待した。

しかし、さすがにそれはならず、6位。埋められぬ大差だったことを再認識。
でも、ショート16位から6位への巻き返しは驚異的だ。

終わってみると、全体がハイレベルな戦いだったということだろう。

浅田選手のフリーは、全体の中では3位。浅田真央ほどの選手が自己ベストを出しながら、さらにその上を行く選手が2人(ソトニコワ、キムヨナ)いたということだ。
仮に浅田選手がショートで失敗せず、ショート上位3選手が出した74点台を出せていたにせよ、メダルに届いていたかはわからない、そういうレベルだったわけだ。

ロシアとして初優勝のソトニコワ選手。美しい滑りだった。ジャンプの高さが際だっていたと思う。終始笑顔で滑っていたのが印象に残る。

銅メダルのコストナー選手は見事な滑りの一言。

7位のワグナー選手も印象に残った。滑走直後に、八木沼さんが「強い」と思わずもらしたが、私も同じことを思って観ていた。強い滑り。

そして、最終滑走のキムヨナ選手。
浅田選手に色々なことがあった中、また、直前までに各選手が見事な演技をくりひろげてきた中、キムヨナ選手には、「誰が何をやろうと関係ない。自分は自分のベストを出すだけ」という感じがうかがえた。彼女の場合、いつもそうだ。明鏡止水。

以前のような、観る者をうならせる、観ている側にビンビンと響いてくるものは、もしかすると少し影を潜めたかもしれないが、乱れのまったくない、キムヨナのスケーティングだった。

連覇も充分可能な内容だったと思うが、結果はソトニコワに5点余り及ばず、銀メダル。
採点について、その後色々言われているようだ。確かに、ソトニコワがキムヨナを明らかに上回っていたかどうかは微妙。ホームタウンディシジョンの面もあるかもしれない。

いずれにせよ、キムヨナのスケートがもうこれで観られないのか、と思うと、誠にさみしい。

他の日本選手についても一言。

村上佳菜子選手は、フリーの滑走直前、高見盛の最後の塩みたいな動作をしたのが面白かった。
今回は残念な結果だったが、年齢的にもちろん次がある。荒川静香安藤美姫など、過去の名選手も、最初からオリンピックで結果を残せたわけではない。
次、またその次のオリンピックで花開くことを期待したい。
この人を観ていると、得難い華があると思う。

現役を退くことが報じられている鈴木明子選手。
今回も、この人には独特の表現力があると実感した。
成績は今ひとつに終わったものの、本人にはこれまでの競技人生を含めて満足感があるのではないだろうか。
この人は、演技後のインタビューでは、いつも控えめで淡々とコメントするのが、好ましかった。

さて、浅田真央。キムヨナ同様に、現役引退を表明している。

ショートがああいう結果になったことで、引退を思いとどまって、次の平昌にチャレンジしてくれないものか、と思った。

年齢的にもまだまだ充分できるのではないだろうか。

今後、日本選手がフィギュアで誰か金メダルを取ることはあるかもしれない。しかし、多くの日本人にとっては、「浅田真央が金メダルを取ること」が必要なのだろう。

本人にとっても、「忘れ物」を残したままでの引退は心残りではないのか? などと思った。

しかし、あのフリー。

浅田真央選手にとって、「金メダル」がほしいのでなく、オリンピックの場で自分の満足のいく滑りができることの方が最大の目標であるならば、ソチ・オリンピックは、彼女にとって悔いのない結果だったと言えるかもしれない。
「忘れ物」はないのだ。

そうであれば、彼女はこのまま引退することになる。それはそれで納得だ。

今回のフリーで、浅田真央が見せてくれたのは、そういうものではなかっただろうか。

※女子フィギュアについての過去記事
    荒川静香選手とラジオ体操
       http://blogs.yahoo.co.jp/naokichivla/27557585.html
    週刊文春堀井憲一郎氏になるほど
       http://blogs.yahoo.co.jp/naokichivla/27607255.html
    キム・ヨナ選手と「あげひばり」
       http://blogs.yahoo.co.jp/naokichivla/43670038.html
    浅田真央の世界選手権初優勝
       http://blogs.yahoo.co.jp/naokichivla/54184802.html
    自己ベストは偉いよね
       http://blogs.yahoo.co.jp/naokichivla/60896033.html
    女子フィギュアスケートSP終了
       http://blogs.yahoo.co.jp/naokichivla/60910912.html
    勝者と敗者と~女子フィギュアスケートフリー
       http://blogs.yahoo.co.jp/naokichivla/60918151.html
    ヨナ派なのに・・・
       http://blogs.yahoo.co.jp/naokichivla/60918996.html