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浅田真央選手の引退

昨10日(月)の夜遅く、浅田真央選手の引退がテレビで速報された。

第一印象としては、「とうとうこの日が来たか」であった。このところの競技成績からすると、意外な感はなかった。

日頃、生活の中で、自分より高齢の人を見ていて、また、60代になった自分自身を振り返って、しばしば思うのは、「歳を取るということは、「それまでできていた何かができなくなっていく」ことだ」である。「それまで持っていた何かを失う」こととも言える。

そして、スポーツ選手についても、同じことが言えるのではないか、と、これも常々思う。

短い競技生活の中で、歳を重ねるにつれて、以前はできていたことができなくなる。それをスポーツの世界では、「衰え」と呼ぶことが多い。

自分が興味を持って観戦する相撲あるいは野球の分野で、そういう人を古くからたくさん見てきた。

スポーツ選手の場合、競技種目によって、選手寿命が違うのが興味深い。

競馬の騎手だと、50代くらいでも現役で活躍している人はいる。野球は、昔に比べると選手寿命が長くなってきた感じがある。40歳までくらいはできる人も少なくない。相撲はそれより短いか。

そして、フィギュアスケートや水泳は、それらに比べると、遙かに若くして現役が難しくなるようだ。浅田選手の26歳、というのは、長く世界第一線で活躍した方にあたるだろう。

ところで、浅田真央選手について、私は、常に怖いもの知らずの小生意気な感じがして、そんなに好きではなかった。ライバルのキム・ヨナ選手や、安藤美姫選手の方がよっぽど好きだった。

しかし、浅田選手は、ファン以外の者をもうならせるドラマを、しばしば見せてくれた。そういう意味では、他のどの選手にもない「華」があったと言える。

そうした印象から、いわゆる「記録より記憶に残る」選手のイメージもあるが、彼女の戦績は誠に輝かしいものであって、記録の面からも文句なく第一人者だった。

ただ、冬季オリンピックに2回出場して、金メダルを獲得できなかったことが、そういう印象につながっているかもしれない。画竜点睛を欠いたのは事実だろう。

思ってみれば、2006年のトリノに、ほんの僅かの差で年齢制限に引っかかって出場できなかったのが、惜しまれる。確か、特例で参加させられないのか、という話すらあったように記憶する。

バンクーバーで、キム・ヨナに敗れての涙の銀から、ソチへ。

ソチではきっとリベンジの金メダルを獲り、ファンの溜飲を下げさせてくれるものとの期待がふくらんだが、あのショートプログラムの出遅れ(16位)。

しかし、ドラマ、華、記憶に残る、の真骨頂は、あのフリーだ。浅田真央と言えば、誰もが、ソチのフリーを思い出すことだろう。

結果としての6位には、その意味で順位そのものを超えた価値があるとの評価が一般的だろうが、金メダルを獲ってほしかった、という思いも残る。

それにしても、あのフリーで使われた、ラフマニノフのピアノ・コンチェルト(2番の1楽章)。けさ、浅田引退を伝えるニュース映像でたびたび流れたが、鬼気迫るあの演技に何とぴったりだったことか。改めて感じ入った。

浅田選手のスケーティングと言えば、トリプルアクセルを始めとするジャンプが評価されているが、フィギュアスケートに詳しくない私が、さらにすごいといつも思って見ていたのは、ステップだった。あれは誰も真似ができない世界だったのではないか。

ソチの敗戦から間もなく行われた世界選手権では、見事に優勝。

以後の去就については、「ハーフハーフ」の表現で、長く明確にされなかった。

結果、現役続行となり、1年余りを経ての復帰戦、中国杯で優勝を飾り、さすが浅田真央、現役続行で正解だったか、と思わせた。しかし、以後はややふるわぬ成績となり、今回の引退に至る。

彼女にとって、復帰から引退へのこのプロセスは、必要なものだったのだろうか。きっとそうだっただろう、と思う。ただ一方で、「私のフィギュアスケート人生に悔いはありません」とする言葉が本心なのか、とも思う。

けさのニュースで、街の人たちのインタビューが映り、「もったいない、まだできるでしょ」という趣旨のことを語っていた男性がいた。しかし、それは絶対言ってはいけないことではないか、と感じた。あの現役続行、今回の引退には、本人にしかわからないこと、あるいは本人にもわからないことがたくさんあるはずだし、たくさんの自問自答や葛藤の末に出した答えだと思うから。

我々ができるのは、去って行く彼女に、惜しみない拍手を送ることだけだ。

浅田真央ファンだったわけではない私が、今、心からそう思っている。そして、やっぱり、ありがとう、と言いたい気持ちでいる。

スケーター浅田真央とは、そういう選手だったんだ。

長い間、お疲れさまでした。

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※引退を伝える浅田真央ブログ
    ご報告致します。
       http://mao-asada.jp/mao/news/2017/04/10/1025/