naokichiオムニバス

68歳、ヴィオラ弾き。ビール大好き。毎日元気。

9月場所千秋楽~白鵬の深刻さを憂う

7勝7敗の舛ノ山高安を破って勝ち越し。高安は条件つきだった敢闘賞を逃した。
熱戦と呼べる相撲は毎場所いくつかあるが、そうした中でもこの一番は、本当に両者必死の攻防。誠にいい相撲だった。
勝ち越しに向けての舛ノ山が、「なりふりかまわない度」で、敢闘賞がほしい高安にまさった。
それにしても、舛ノ山、過呼吸の症状があるらしき話を聞いたが、毎日の取組後も息が上がって本当に苦しそうだった。その点が心配だ。

豪風若荒雄も、まれに観る、いい突き合いだった。勝敗などは関係ない。

買った方が来場所の小結を手中にするという、豊真将魁聖は、豊真将が制した。
従来守りの相撲と言われていた豊真将だが、今場所は、今日の相撲に象徴されるように、前に出る相撲に変わった。力をつけた、と思わせる内容だ。
今日の一番などは、あまりにもまわしをとりに行かなすぎると思うくらい、攻めに徹した相撲ぶりだった。
これで一皮剥けた、と言えるなら、来場所も三役での活躍が期待できそうだ。

安美錦妙義龍をうまくさばいて、既に確定していた三役復帰を一層確かなものにした。
安美錦という人は、曲者とよく言われるが、相手をごまかすような技能相撲を持っている一方で、突きもあり、前に出る正攻法の相撲もとれる。この相撲の幅が、過去の曲者力士たちとは大きな違いだ。
今場所中に一度書いたが、この人がいなくなったら、土俵はさぞさみしいことだろう。
一方の妙義龍、上をめざすなら、こういう相撲を落としていてはいけないのだが、とりあえず新関脇での2ケタ、3場所連続の技能賞なのだから、まあよしとしよう。
相撲のうまさと力強さを兼ね備えた貴重な存在。来場所も期待したい。

鶴竜稀勢の里は、予想外の一方的な内容。鶴竜が一気の突きで勝負をつけた。
鶴竜は、今場所、この人らしい相撲を久しぶりに何番か観ることができた。11勝は大関としてはまずますだが、これをきっかけに来場所以降に期待したい。
それにしても稀勢の里、この情けない負け方は・・・。
初日からの8連勝で、今場所こそは優勝争いか、と思わせておいて、結果10勝。
新聞によると、昨日の白鵬戦についてのコメントで、「弱いから(はたきに)落ちたんでしょう」と言ったそうだ。
その通り、と言いたい。この人は、自分の相撲には何かが足りないのだと、まずは痛烈に自覚する必要がある。
以前から書いているが、稀勢の里という力士には、根本的に、反省とか研究とかが足りないように見えて仕方がない。
こんなに気合いを入れて、自分の相撲をとっているのに、何故勝てないんだろう、と思っていないか?
それでは、毎日毎日相手に転がされる負け方を重ねながら、毎日毎日そのたびに首をかしげている臥牙丸と一緒だ。
大関に対して失礼か?
稀勢の里にとって「ベストの相撲」とは、どういう相撲なのだろうか。私には見えない。本人にはわかっているんだろうか。わかっていてそれができないなら、やはりそれは反省と研究が足りないんだろう。

さて、結びの大一番、全勝の日馬富士と1敗の白鵬は、熱戦にはなったものの、そして、結果はめでたい新横綱誕生となったものの、白鵬側からすれば、深刻な内容の相撲だった。
私としては、予想できぬ相撲内容だった。

まず相撲そのものをふりかえる。
立ち会いからの攻防は五分。右四つに組んで互いに上手がとれない体勢。とりあえず、白鵬有利、と思った。ただ、そこからの流れが・・・。
かつての白鵬であれば、少なくとも、右差し手をつきつけるように返して、相手を不利な体勢にさせたはずだ。それがなかったこと。
先に動いたのは日馬富士。左まきかえ。
白鵬も当然左をまきかえて、左四つ。白鵬としては最初から左四つをねらうべきだと思っていたくらいなので、これでさらに体勢はいいか、と思った。
しかし、白鵬の右上手は深く、一枚まわし。
ここも、かつての白鵬であれば、上手を手前にとり直すところだ。
白鵬が左下手をとっていなかったことも気になった。
つまり、最初の右四つ、まきかえられての左四つも、「自分に有利な体勢を作っていく」という動きが見られなかった。本来なら、先に先に動いてそれをするのが白鵬なのに。
そして、この一番、結果からすると一番のポイントは、この状況の左四つから、白鵬が寄って出たことだと思う。深い一枚まわしでは、体勢低く食い下がっている日馬富士を攻めきることはできない。
しかも、残されたところで、あごの下に頭をつけられてしまい、体勢を悪くした。
そこからの蹴返しも、それで体勢を崩したとまでは行かなかったにせよ、余計な動きだ。
そして、最も理解に苦しむのは、左の差し手を抜いたことだ。そこから何かの攻め手につなげたかったということでもなさそうで、つまりは前さばき負け、辛抱できずに抜いただけと言わざるを得ない。
五分かそれより少しいい体勢から始まりながら、有利な体勢に持っていけず、むしろまずい攻めで相手有利な体勢を作らせた、という流れだ。
以後の攻防は、確かに熱戦ではあったものの、日馬富士が一方的に攻めまくった相撲だった。
あれだけゆさぶられて残したのは、さすが白鵬、という見方が、あるいはあるかもしれないが、私は、ゆさぶられる相撲になってしまったこと自体がありえない、と考える。

日馬富士は、控えでの表情が、ちょっと昨日までとは違い、大勝負を前に平常心を欠いているようにも見えたが、それはなく、全身全霊を賭けた相撲をとった。ぶれはなかった。
一方の白鵬も、力を出し尽くした相撲ではあったと思う。
それでありながら、先場所に続いて日馬富士に勝てなかった、という事実。
ここに、白鵬の深刻さを思う。栃煌山戦での気の抜けたような敗戦の後、気合いの入った相撲が続いていた。それでも、この日馬富士戦に勝てなかった。
深刻と受け止めざるを得ない。

そもそも、先場所、横綱として、番付下位である大関との全勝対決で敗れたこと自体が、並みの横綱ならともかく、白鵬ほどの横綱にとってはありえないことだった。あってはならないことだった。
その悔しさからすれば、今場所はそもそもが絶対に雪辱しなければならない場所だったはずだ。
それが、自分が先に、それも平幕相手に星を落とし、星一つビハインドの状態での千秋楽結び。
この展開自体も不本意な状況なのだから、ここに至っては、決定戦に持ち込んでの逆転優勝以外のシナリオはありえない。
白鵬としては、それこそ何が何でも、逆転優勝しかない状況だったはずだ。
このことは、NHKの放送で、北の富士さんも言っていた。
精一杯の相撲をとりながら、なお日馬富士を食い止められず、自身もできなかった、双葉山貴乃花以来の大関での連続全勝を果たさせてしまったこと。
これは、白鵬としてはありえない、いてもたってもいられない屈辱ではないのか。
3場所続けて優勝を逃したこともさることながら、ここ2場所で、日馬富士に一矢を報いることができずに連続全勝をされたことに、白鵬とあろうものが、という面目丸つぶれがある。

あの63連勝からまだ2年なのだが・・・。

白鵬が、支度部屋で、「悔いはありません」と言ったと伝えられる。
額面通りの言葉であるならば、落胆を禁じ得ない。

日馬富士の昇進については、もちろん決定的であり、連続全勝であれば、文句のつけようもない。
ただ、私は、先場所の千秋楽、日馬富士の今場所での昇進については懐疑的だと書いた。
1年前の優勝の後、昇進に失敗しての1年間、8勝7敗が3回あったことを懸念材料と考えたからだ。
急に日馬富士という力士が強くなったとは思えず、調子がよければ優勝ができるレベルであることは否定しないとしても、横綱たる力量があるとは思えなかった。
その私が、今場所の日馬富士を観てどうかと言えば、依然、大きく地力が伸びたとは思えない。
ただ、体重が増えたことが、今場所のどの相撲についてもプラスに働いた点は認める。加えて、場所の後半、隠岐の海戦が代表だが、これまでだったら負けていた相撲をしのぐ気力の部分も評価できる。
連続全勝である以上、昇進自体に異論をはさむ余地はない。1人横綱時代が終わるのは何よりだし、6大関が5大関に減ることも望ましい(陥落によって減るのでなく昇進で減るのははるかに健全だ)。
日馬富士自体については、来場所以降も、今場所の気力を失うことなく、体重も維持して、心技体の水準を保って、毎場所は難しいかもしれないにせよ、横綱らしい成績をおさめてくれることを願う。
そもそも、個人的には日馬富士は昔からひいきなのだ。

今日のNHKの放映では、日馬富士主体の論評に終始した。連続全勝、新横綱なのだから当然なのだが、角界全体への見方からすると、白鵬が来場所以降どうなのか、という懸念にも話題を向けてほしかった。
白鵬も来場所はまきかえしてくるでしょう、というような発言は聞かれたが、それは、全勝対決を落とし、初めて2場所連続で賜杯を逃した先場所の千秋楽にも言われていたことだ。その今場所、またこの結果だったことこそが問題なのだから。

日馬富士が伸びての横綱昇進であることを、完全に否定はしないが、白鵬が本来の力を維持していたらそれは実現していなかった、との見方に私は立つ。
基本的に、白鵬が落ちての実力接近であり、それが横綱昇進のハードルを越えさせた、というのが事実関係であろう。

横綱の誕生が喜ばしいことではあっても、今後の角界にとっては、少なくともベストのあり方ではないと考える。