私の場合、高校時代に始めたクラシックのレコード鑑賞は、オーケストラ中心に進んだ。
大学でも、サークルがオケだったので、買うレコードはオケ曲が多かった。
室内楽というのは、何か世界の違う音楽という感じがしていた。
大学オケで、オケ練の合間や合宿とかで仲間で集まってカルテットをやったりというのは、周囲に見かけたが、楽器を始めたばかりの自分には縁遠いものと感じてもいた。
ということで、室内楽のレコードを買って聴くようになったのは比較的遅く、大学3年になってから、クラシックを聴き始めて6年目のことだった。
これには一つきっかけがあった。
スメタナ四重奏団である。
70年代、スメタナ四重奏団は、弦楽四重奏団のチャンピオン的存在だった。
これについては、「レコード芸術」誌で、室内楽曲の月評を担当していた大木正興氏(後に小石忠男氏に交代)がオピニオンリーダーであった。
ということで、一番最初に買った弦楽四重奏曲のレコードは、彼らの「アメリカ」である。ハイドンの「ひばり」とカップリングのEMI盤。
そのスメタナ四重奏団が、当時私の大学の大学祭に、演奏にきてくれたのである。
私の大学のキャンパスには、兼松(かねまつ)講堂という建物があり、ここは入学式や卒業式に使うのだが、ステージがあって、コンサートホールとしても使える。
経緯はよく覚えていないのだが、この講堂を、彼らが来日した際に気に入って、大学祭運営委員会の働きかけを快諾して、ここで演奏会をやってくれたのである。
確か記憶では、私の在学中に2回きてくれた。
彼らの十八番である、「アメリカ」「我が生涯より」はもちろん、ベートーヴェンの「セリオーソ」、ヤナーチェクなども聴いた。
当時彼らが特徴としていた暗譜演奏を現実に自分の目で見て驚嘆したものだ。
この生演奏体験で、私個人にとって、カルテットといえばスメタナ、という回路が確立する。
(私の在学中、大学祭でこの兼松講堂に来たアーティストとしては、グレープ、アリスがある。私がこれらのグループのライブに初めて接したのは大学祭でであった。また、私は入らなかったが、当時山下洋輔が中心になってやっていた「全冷中連」?(だったか正確には覚えていないが、ともかく1年中冷やし中華を食べられるようにしようという運動)のイベントも兼松講堂で行われた。山下洋輔はもちろん、当時世に出始めていたタモリも来て、この運動のテーマソング「ソバヤ」をやったと聞く)
そんなことで、大学時代の後半、少しずつだが弦楽四重奏曲のレコードを買い集めるようになる。
やはり、当時、スメタナのベートーヴェンというのは定番中の定番だったので、スプラフォン録音の後期作品から入った。
また、ちょうどその当時、DENONレーベルで、PCM録音によるスメタナ四重奏団のベートーヴェン全集再録音が開始された。こっちは初期作品からだった。2番と4番のカップリングが1枚目に発売され、特に好きな曲でもあった4番には圧倒された。
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の全曲を揃えたのは、就職してからである。
私の場合、接する順序として、まず後期から入り、初期が並行し、最後が「ラズモフスキー」だったのだが、普通は「ラズモフスキー」から入る人が多いだろうから、割合特殊だったかもしれない。
昔話が長くなってしまった。
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲でどれが好きかというと、やはり断然後期作品ということになる。
自分がそこから入ったからということもあるが、やはり、最後の5曲は、ピアノソナタの最後の3つと並び、ベートーヴェン晩年に到達した境地として、やはり言語に絶すると思う。
5曲の中で、更に強いて選ぶと、14番か15番。これはどっちとも言い難い。すごすぎる。
僅かの差で13番。
これ以外だと、初期では4番。先日カルテット練で久しぶりに弾いた。
中期では、「ラズモフスキー」よりはむしろ「ハープ」「セリオーソ」の方が好きである。
演奏は、そんなことで、学生時代からスメタナのお世話になった。
CD時代に入って、前記スメタナの再録音版の全集を買った。当時は26,000円もしたが、今やクレスト1000シリーズで3分の1の値段で買える。
その後は、アルバン・ベルク四重奏団や、東京クワルテットなどを聴いてきた。
(アルバン・ベルクは、モーツァルトのハイドンセットの最初の録音をセットで聴いた時に、スメタナに比べると少しひんやりとした引き締まった音が気に入った。今に至るまで、カルテットといえば、スメタナとアルバン・ベルクが私にとっては両横綱である)
最近は、昨年廉価盤で出た、ズスケ四重奏団の全集を聴いている。オーソドックスで充分に美しい。
今もこれを書きながら、13番と「ハープ」を流している。