naokichiオムニバス

66歳会社員。ヴィオラ弾き。ビール大好き。毎日元気。

「昔はなかったもの」~ファクシミリ

「昔はなかったもの」シリーズ、前回は電話と携帯電話について書いたが、通信つながりで、今回はファクシミリ

今では一般家庭にも普通にあるファクシミリだが、昔は、企業にすらなかったのだ。
これも、若い人は信じられないんだろうな。

私の会社について言えば、ファクシミリが導入されたのは、81年(昭和56年)のことだったと記憶する。

それまで、企業間の連絡方法の一つに、「テレックス」というものがあった。
当時、会社の封筒や名刺には、電話番号と並んで、テレックス番号というのが書いてあったものだ。

自分で実際に打ったことはない。どういう仕組みかまったくわからないが、当方で打ったカナやアルファベットの文字が、先方で、カタカタと紙に印字されて出てくる、というものだ。

私の場合、テレックスと自分の仕事のかかわりは、銀行からの入金通知。
78年入社の私は、入社から3年間、本社の経理部で財務を担当していたのだが、取引銀行の預金口座に何かの振込があると、それが、テレックスで通知されてくるのだった。
庶務課の女子社員が、その都度持ってきてくれた。

で、81年である。
私は、品川の支店(この4月から3回目の勤務をしている)に転勤していた。
で、ある時、我が社でもファクシミリというものを導入する、という話が聞こえてきて、本社から担当者がきて「説明会」を開いた。説明会ですよ。今から思えば、何とおおげさな、という感じだ。
でも、それまで社内にまったくなかったものが、業務上の連絡のために導入されるのだから、やっぱり説明会は必要だったんだろうと思う。
ファクシミリとは何なのか、社内の業務でどう使うのか、説明があり、質疑応答(笑ってしまうが)もあった。

今振り返って言えることは、ファクシミリの導入に、社内を挙げて「構えていた」ということだ。
それを最も象徴的に示すエピソードになるが、ファクシミリの開通当日、本社では何と「開通式」が行われたのだ。
このことは、後日社内報で知ったのだが、本社から、何かの紙をどこかに送るのに、社長が送信ボタンを押している写真が掲載されていた。
やはり、一大プロジェクトだったのだ。

私の会社だけだろうか、こんなことしたの。いや、他にもそういう会社はいくつもあったと思う。

(余談になるが、それから少し後、労働組合の本部事務所に「ワードプロセッサー」が導入された、という記事が、労働組合の月刊の機関紙に載ったこともあった。当時の委員長が、ワープロの画面をにらんで何か打っている写真が掲載されていた。そんな時代だったのだ)

さてこの時、ファクシミリが導入されたのは、本社と、全国10カ所の支店の間だけだった。
支店の傘下にある出先事業所のすべてにファクシミリが設置されるまでには、相応の時間を要した。

2年後、私は千葉の工事事務所勤務になったが、事務所にファクシミリが設置されたのは、私が赴任した後だったと記憶する。
ファクシミリの機械の脇には、黒いダイヤル式の電話がつながっていて、書類を送る時には、相手の電話番号をダイヤルでまわし、受話器で相手側の応答音を確認したら、自分で送信ボタンを押していた。
プリセットボタンで一発送信とか、自動リダイヤルとか、まして複数送信先への同報、などという便利な機能は、まだ想像もできなかった。
当然、普通紙ではない。感熱式のロール紙であった。

ところで、出先の工事事務所で総務事務をやっている者にとって、ファクシミリの導入は、一つの脅威であった。
何故なら、支店に提出する書類について、「蕎麦屋の出前」みたいなごまかし方ができなくなったからだ。

毎月提出する書類にはたいてい締切がある。
ファクシミリができる前は、速達郵便か宅配便で現物を送るしかない。
支店から督促の電話が入った時、例えば「すみません、最終の集配が終わってしまったんで、明日の発送になります」とか「さっき投函したところです」とかの言い訳ができた。実際はまだその書類は手元で作成中だったりするんだけどね。

しかし、ファクシミリができてからは、「できてるんだったら、とりあえずファクシミリで送ってよ」と言われるようになった。
これは恐怖だった。ほんとに。

今はもっと悪いよ。電子メールというものがあるんだから。
ファクシミリだったら、「さっき送ったんですけど、届いてませんか?おかしいなあ」とかとぼけたことを言って時間をかせぐこともできたが、メールだと、瞬時に届かなければいけない。
厳しい時代になったものだ。

導入当初、ファクシミリによって、業務の効率化が図れる、といううたい文句があった。
しかし、これはパソコンの導入についてもそうなのだが、確かに効率化したことは事実であっても、そこで生じた余裕は、決して個々の従業員の労働時間短縮や生活のゆとりには結びついていない。
そうした機器によって効率的になった分、例えば、決算の早期開示の社会的要請につながったりして、結局のところ、決算担当者は締切が早くなっただけで、決してラクにはなっていない。
また、当社を含めて多くの企業では、OA化で効率化された分、直接利益を生まない管理部門、間接部門の要員は削減されて、営業部門や生産部門にまわされる。結局、管理部門、間接部門は、減らされた要員で同じ量の仕事をこなすことになり、やはりラクにならない。

確かに昔に比べると、個々には信じられないくらい便利になっているのだが、オフィスワークにおける労働時間はそういう状況にあると思う。
いわゆるホワイトカラーエグゼンプションが、すんなりと受け入れられなかったのは、どこの企業でもそういう状況があるからではないだろうか。

さて、仕事の話ばかりしてしまったが、今や、ファクシミリはたいていの家庭にもある。
便利なものは普及する、ということだ。
もちろん私の家にもある。
パソコンもそうだったが、会社の仕事に使うもの、と思っていた道具が、自分の家に入ってきた時のインパクトは、結構なものだった。

とはいえ、私の家のファクシミリは、いまだ感熱紙でちょっと恥ずかしい。そろそろ普通紙に買い替えないと。