naokichiオムニバス

68歳、ヴィオラ弾き。ビール大好き。毎日元気。

勝者と敗者と~女子フィギュアスケートフリー

26日(金)、女子フィギュアスケートのフリーが終わった。
結果は、日中にネットで知っていたが、帰宅後、録画で有力選手の演技を観た。

1位 キム・ヨナ       228.56
2位 浅田真央        205.50
3位 ジョアニー・ロシェット 202.64

4位 長洲未来        190.15

5位 安藤美姫        188.86
8位 鈴木明子        181.44

滑走順で早い、鈴木選手と安藤選手が、順次暫定1位となり、どこまで順位を下げずにメダル圏内にとどまってくれるか、と思っていたが、結果としては、200点台に乗せた3人がメダル獲得となった。

SPの結果から、キム・ヨナ浅田真央の女王対決とされ、浅田の逆転も充分期待できる得点差と言われたが、最終結果は、明暗を大きく分けた。

先に滑ったキム・ヨナ選手の完璧。
彼女のジャンプは、格段に高さがある。いや、他にも同じくらい高く跳んだ選手がいたかもしれないが、素人の目には、キム・ヨナのジャンプは、ひときわ高く見える。

最初から順調に技をこなし、余裕のある表情で滑っていたが、演技終了直後、大きくガッツポーズをして、次の瞬間に涙をあふれさせたのを観て、うなった。
常にクールなイメージのある、キム・ヨナ選手には珍しく、「素の心情」がほとばしり出たように感じた。
「余裕の表情で完璧に滑ること」の背後で、彼女の内部に、どれだけの重圧があったかを見た思いがした。

それでいながら、この大舞台で、歴代最高得点。これには誰もが黙らざるを得ない。

浅田選手は、その直後の滑走。

6分間練習の時から、彼女の表情は、緊張感で引き締まった、という以上に、余裕がなく、こわばったもののように感じられた。

トリプルアクセルを3回決めたことを始め、浅田選手の滑りは、今季の不調を脱するものだったと思う。ただ、このフリーでは、中盤で、左足のエッジが氷にひっかかったのが大きかった。それ自体はミスというよりはアクシデントと思われたが、よほどの動揺があったのか、短時間で立て直すことができなかった。

しかし、その後、終盤にかけては、鬼気迫るものがあって、さすが浅田真央、と満場をうならせたと思う。
だって、浅田選手自身も、自己ベストだったのだ。

ただ、キム・ヨナ選手があまりにもすばらしすぎた。

フリーでの差は、20点近いものになってしまった。あのアクシデントがなかったら、逆転は無理でも、もっと追いすがれたところだったが、そこが大いに残念。

リンクから上がった直後のインタビューは、天真爛漫、こわいものなしのイメージが強い浅田選手にはかつて見たことのない、痛々しいものになった。
表彰式の時も、その後のリンク一周の時も、暗い表情が続いた。
気持ちの整理がつかなかったのだろう。
数々の修羅場を既に経験している浅田選手であれば、「やるだけやって負けた」なら、もっと切り替えが早かっただろうが、おそらく彼女の中では、ありえないことが起きたことでの不完全燃焼の感覚が、トリプルアクセルを始めとする、成功の部分を打ち消してしまったのだと思う。
そうした意味での悔し涙だったのだろう。

勝負は残酷なもので、必ず勝者と敗者を分ける。勝者は常に一人だ。

二人とも、血を吐くような練習を重ねてきたはずで、その練習量に差があったのかどうか。しかし、仮に、相手を上回る練習をしてきても、負けることもあるのが勝負かもしれない。

とにかく、SPでは、浅田真央、存分の演技の直後に登場したキム・ヨナが、それをも上回った。そして、フリーでは、圧倒的な滑りを見せたキム・ヨナの直後の浅田選手は、それに及ばなかった。
それが事実だ。キム・ヨナという人のすごさをそこに感じた。

私はヨナ派、と書いた、前の記事と論調が違ってしまっているが、キム・ヨナ選手の金メダルは予想通りまた期待通りでありながら、やはり日本の浅田選手の負けは悔しい。そんな、勝手で複雑な気持ちがある。

安藤美姫選手は、大きなミスなく、存分に滑ったと思う。暫定1位から順位を下げていく中、何とか銅メダルは、と思っていたが、ロシェット選手が200点台を出した時点で、望みがついえた。
ミキティ大好きの私としては、残念だったが、ロシェットとの得点差は大きく、やむを得ないところではある。
それでも、4位で終われれば上々と思っていたが、最終滑走の長洲未来に上に行かれてしまったのは、本当に無念!(ファンとして、ね)
今回のクレオパトラ、本当に、彼女としてはめいっぱいの出来だったと思うが、基本的に、この音楽、地味だ。そこも敗因の一つか?
SPもモツレクだしなあ。

その点、鈴木明子選手の「ウエスト・サイド・ストーリー」はとてもよかった。音楽自体に、観る者をひきつけるものがある。鈴木選手自体が乗れる音楽だし。
鈴木選手、8位ではあったが、自己ベストを出したのは立派。すばらしかった。

立派と言えば、何と言ってもロシェット選手。フリーの滑りも、安藤選手以上に存分に力を出したものだったと思う。
この状況下で、200点台に乗せたのは、本当にすごい精神力だと思う。フリーでは、演技後の涙もなかった。

浅田選手に話は戻るが、オリンピック初出場での銀メダルは、荒川静香選手、安藤美姫選手の初出場での成績を大きく上回る立派なものだ。
時間はかかっても、そのように彼女自身が思えるようになってほしい。
そして、次回のソチがどうこうというよりも前に、また次のシーズンから、キム・ヨナ選手との名勝負をくりひろげてほしいと思う。
(キム・ヨナの今後の去就については、あれこれ報じられていて気になるところだ)

今回の女子フィギュア、キム・ヨナ選手の完勝という結果だった。
しかし、繰り返すが、彼女の演技直後のガッツポーズと涙には、彼女にして、あるいは彼女だからこそ、抱えていた重いものがあったことを感じ、これが、私にはとても大きく、尊いものに受け止められた。
そして、浅田選手の結果も併せて、「期待された選手が期待通りに勝つこと」が、いかに難しいかも、感じさせられた。

勝者は一人しかいない、と書いた。

しかし、ロシェット選手、安藤選手、鈴木選手は、それぞれの意味で、敗者とは言えないかもしれない。もしかすると、一人一人の心の中には、それぞれの意味で、勝者の実感があるかもしれない、とも思う。

そしてしかし、競技直後の時点では、浅田真央選手ただ一人だけが、自分をとことん敗者だと思ってしまっているように思われた。
彼女だけが、このオリンピックに、他の選手とは何か違うものを意識していたということなのだろう。
それは、たぶん、キム・ヨナ選手が意識してはいないものだったのではないだろうか。