読み始めれば止まらない面白さだったが、もったいないので一気に読むことはせず、時間をかけた。
東村アキコという漫画家を知ったのは、「ビックコミックスピリッツ」連載の「雪花の虎」だった。
きれいな絵だなあ、と思いながら読んだ。
(つい最近、完結)
今年の春には、「美食探偵 明智五郎」既刊6巻を読んだ。ちょうど、テレビドラマとしても放映していたので、それも併せて観た(小芝風花、小池栄子が好演)。
そして、さらに「偽装不倫」全8巻を、これは一気に読んだ。東村アキコという人が作る物語の面白さに感じ入った。また、この作品全体に流れる幻想性も、独特の魅力だと思った。
この間、NHKの「あさイチ」に東村アキコその人が出演し、人物にもふれた。
こうなるとさらに探索したくなる。今回の「東京タラレバ娘」に至った。
全9巻をゆっくり読み、ここに至って完全にとどめを刺された感じだ。
まず、ここでも物語、ストーリーの面白さ。展開や伏線が実に緻密だ。
一例を挙げると、「先生」。
KEYが自己のドキュメンタリー映画の撮影で、亡くなった妻を語る場面で、監督が、「「妻」、「彼女」、「先生」とその女を呼ぶ中で、「先生」が一番自然だった」と言う(7巻)。
(妻はKEYの主治医だった)
そのKEYが、北伊豆で酔いつぶれているのを、倫子たちが迎えに行くことになる。北伊豆の人たちが、「先生が迎えに来てくれるって」と告げると、彼は「先生・・・?」と反応する(8巻)。
(倫子は脚本家として北伊豆の人たちとローカルドラマを撮影した)
KEYの妻と倫子をつなぐ、「先生」というワードの用い方には、つくづく感じ入った。
ストーリー作りの巧みさでは、柴門ふみを思い出す。
それから、ここでも絵の上手さ。時代劇である「雪花の虎」よりも、彫りが深い印象を受ける。
そして、何と言っても、全ページにわたって、構図がすごい。
かつて、高橋留美子の「めぞん一刻」で、構図の妙を感じさせられたことがあるが、あれ以上だと思う。
結果、語られるストーリー、そのマンガ表現があいまって、上質の映画あるいはドラマを観ているような気にさせられる。この点では、浦沢直樹の一連の作品に匹敵する。
消防隊、軍隊、過去への回想等々、仮想、架空、空想をはさむ演出も絶妙である。
読み終わって、この漫画は、「思想の表現」だと感ずる。その思想に賛同するかどうかは別だが。
文学のレベルだとも思った。
さて、次は何を読もうか。