naokichiオムニバス

68歳、ヴィオラ弾き。ビール大好き。毎日元気。

「おはようございます」

私のマンションでは、不燃ゴミの回収は毎月第1・第3火曜日と決まっている。
前夜あたりから、蛍光管や乾電池を始めとする不燃ゴミがゴミ集積場所に置かれる。

以前から気になっていたことだが、この不燃ゴミを外部からあさりに来ている者がいるのだ。
夜遅く会社から帰ってくると、ゴミ集積場所の前に自転車が停めてあって、不燃ゴミの入った袋を何やらごそごそとかきまわしている。朝出勤時見かけることも多い。
何かを持ち帰って金に換えているのだろうが、住民としてはいかにも薄気味悪い。
折を見て管理組合に申し出てみるか、などと思っていた。

さて今日、第1火曜日である。
このところ、朝出勤のために家を出るのは6時過ぎなのだが、1階の玄関を出ると、例によって男がごそごそやっている。
冬至も近いこの時期なので、まだあたりは薄暗い。
その男は、懐中電灯で照らしながら、作業している。

またか、と嫌な感じを持ちながら歩いて行った。
駅に行くには、ゴミ集積場所の脇を通過しないといけないのだ。
私がそこへさしかかった時、男は作業を終えたようで、腰をかがめて姿勢から立ち上がり、自転車にまたがって立ち去るところ。
通り過ぎる私とすれ違うような形になった。ますます嫌だなあ。

・・・その時だった。

「おはようございます」

!!!
その男が私に向かって挨拶したのだ。さわやかな、という口調ではなかったが、丁寧な挨拶だった。

びくっとしてしまった。
日頃何かうさんくさいなと思っていた(いつも同じ人物かどうかはわからないが)、ゴミあさりの男から、丁寧に朝の挨拶をされるとはまったく夢想だにしていなかったから、まったく驚いた。

驚きの余韻が続く中、挨拶を返すことも思いつかずにそこを通り過ぎ、駅に向かった。

それにしても、彼は何をさがしているのだろうか。