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68歳、ヴィオラ弾き。ビール大好き。毎日元気。

西脇義訓指揮 デア・リング東京オーケストラ 第2回公演

4日(水)、東京オペラシティコンサートホールで行われた、デア・リング東京オーケストラの演奏会を聴きに行った。

 

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プログラム冊子から。

 

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西脇義訓氏が、このオーケストラと、通常の配置でない形で、いくつかの楽曲を録音したことは、以前から「レコード芸術」を通じて知っていた。

 

7月24日(水)、日本経済新聞の文化面に、西脇氏が、このオーケストラの試みに関して寄稿していたのを読んだ。記事の中に、9月に演奏会を予定していると書かれていたので、興味をひかれてチケットを買い求めた。

 

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●西脇義訓指揮 デア・リング東京オーケストラ 第2回公演

日 時 2019年9月4日(水) 18:30開場 19:00開演
会 場 東京オペラシティコンサートホール
指 揮 西脇 義訓
管弦楽 デア・リング東京オーケストラ
曲 目 シューベルト 交響曲第7番ロ短調「未完成」
    ブルックナー 交響曲第7番ホ長調
    [アンコール] J.S.バッハ 「マタイ受難曲

           第62番コラール「いつの日か私がこの世に別れを告げる時」

 

私の席は、2階C3列8番。空席がだいぶ目についた。

 

ステージを見ると、これまで見たことがないような形で椅子と譜面台が並んでいる。

 

開演時刻になると、無人のステージに西脇氏が一人で登場してMC。

 

「今日は、半円形の配置でなくても演奏できることを、一緒に体験したい」とし、シューベルトブルックナー、それぞれの配置がどういうものかを説明した。

 

3階席で聴くのも面白いので、休憩の時に空いている席に移動しても可、との話もあった。私は移動しなかった。

 

楽員が登場した。

 

「未完成」の配置だが、ステージの写真を撮るのが禁じられていたので、文章でしか説明恵できず、なかなか伝わらないのではないかと思う。

 

ステージ前面、左右にひろがる形で、馬蹄形(∩)に5つの譜面台が並んだグループが、8つ配置されている。前列4つ、後列4つ。

 

1つのグループは、弦楽四重奏木管1人。中央が木管奏者で、客席方向を向く。その両側に弦奏者が2人ずつ、互いに向かいう形。五重奏のグループが4つずつ2列に並んでいる格好だ。

 

前列の木管は、下手側から、1番フルート、1番オーボエ、1番クラリネット、1番ファゴット

 

後列の木管は、下手側から、2番ファゴット、2番クラリネット、2番オーボエ、2番フルート。

 

弦の4人も、並びは統一されていない。

 

ステージの四隅に、コントラバスが1本ずつ。

 

奥中央にティンパニ、その左右に金管。下手側から、ホルン、トロンボーン、トランペット、ティンパニをはさんで、トランペット、トロンボーントロンボーン、ホルン。

 

チェロ以外の奏者は、全員立って演奏する。管楽器には椅子が用意されており、吹く時に立ち、吹き終わると座る、という作法。

 

チューニングはなく、演奏が始まった。

 

奥の金管ティンパニは、客席方向を向いているので、指揮者が見えるが、全面の五重奏8組については、立ち位置によって完全に指揮者に背を向ける楽員もいるし、そこまでいかないにせよ、指揮者を視界に入れることが難しい楽員も出てくる。

 

アンサンブルの要たるコンサートマスターがどこにいるのか、客席から見ていて、視覚的にもわからないが、この指揮者が、旧来と違うオケのあり方を求めているからには、おそらくそもそもコンマスはいないのだろう。

 

そうした中、アンサンブルをするのは、困難を伴うと思われるが、レベルの高いメンバーが集まっているから、そこは、私には想像のつかない方法で合わせているのだろう。

 

とは言え、縦線がぴたりと合わない場面はいくつかあった。

 

また、指揮からの指示として、細かなテンポの動かし方や、溜めなどを作ることは、難しいように思われた。もともとそういうものは意図していないのだろうが。

 

さて、そういう特異なオーケストラから発せられる音楽は、どういうものであったか。

 

上に文字でわかりづらく書いたが、この配置は、要するに、同じ楽器、同じ楽器群がまとまって座る、旧来のオーケストラとは対極にある。

 

「セクション」というものを、できるだけ分解した上で音楽を作ろうとしていることは、一目瞭然だった。

 

その結果、聴こえてくる響きは、私には、色彩のない、モノクロームなものに感じられた。

 

例えば、1楽章の第2主題、チェロが奏でるあのメロディ。普通ならステージ前面の右手方向から聴こえてくるところ、このオケでは、舞台のあちこちからばらばらに立ち昇ってくる。

 

このステージの空間で、どこかに何か特定の音が固まらないことに意味があるということなのだろうか。ばらばらに配置されたすべての楽器が、渾然一体となって響くことに意味がありということなのだろうか。

 

それが、この指揮者の言う、「空間力」なのか。

 

その結果の一つの現象として、私には下手側の方が大きな音に聞こえたのだが、これは私の席が下手寄りだったからだろう。

 

この指揮者の意図は、私なりにはわかった気がした。では、そうした音楽をどう感じたか。これは大変難しい。

 

旧来のオケ配置ではいけない、と考え、こういう配置なら、と指揮者が考えたとして、では、「この形でこそ聴くことができるもの」を、私はつかむことができなかった。この形のオケの実演を、今後繰り返し聴けばわかるのかもしれないが、初回の今回は、私には難しかった。

 

昨年6月、この同じホールで、レ・シエクルの演奏を聴いたときは、もっと腑に落ちるところがあったと記憶するのだが。

 

西脇氏は、指揮者とは権力者、独裁者であり、いない方が良い、と考えるそうだ。西脇氏の求めるアンサンブル、あるいはオーケストラのあり方がどういうものか、またそのためにこうした配置を必要とする理由が理解できるまでには、私には時間が要りそうだ。

 

西脇氏が、もともとプロの指揮者でないことと、彼の考え方には大きな関連があるだろうとまではわかる気がする。

 

20分間の休憩。この間、ロビーに置かれたスピーカーからは、今、演奏されたばかりの「未完成」が流されていた。

 

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休憩の間に、ステージ配置が変更された。

 

弦楽器は、1列に横に直線型に広がる形で4列。全員が客席の方向を向く。

 

最前列がチェロ、2列目がヴィオラ。3、4列目がヴァイオリンだが、上手半分がファースト、下手半分がセカンド。西脇氏が理想とする、バイロイトの祝祭劇場では、ファーとが上手側なのだそうだ。

 

譜面台は1人1台で、プルトという概念はないようだ。ボウイングは自由と聞いていたが、割合統一されているように見えた。

 

奥中央のティンパニは変わらず、その上手側にワーグナー・チューバ、下手側にホルンが、これはそれぞれ固まって配置。

 

その手前に、金管が横1列、更にその手前に、木管が横1列。但し、金管内部、木管内部では、「未完成」同様、個々の楽器をばらばらに並べた。

 

下手奥にシンバル、上手奥にトライアングル。

 

この配置だと、「未完成」よりは、セクションがまとまった形になっているせいか、聴いていての違和感は少なかった。

 

もっとも、弦の並び方がこうで、左右の区別がないので、聴こえ方が違う、ということはあったし、1楽章の終結などは、やはり余りにも渾然とした響きに、ちょっと違うのでは? などと思ったりもした。

 

しかし、このブルックナーの7番、やはりいい曲だと思った。実演で聴くのは初めてだっただろうか。

 

この曲は、10月に横島勝人先生のワークショップで勉強し、来年6月のオーストリア公演旅行に持って行く。事前の予習になった。

(翌5日(木)に、新日本フィルサントリーホールで同じ曲を演奏する(シューベルトの「悲劇的」との組み合わせ)。ワークショップ参加メンバー有志で、その演奏会を聴きに行く企画もあったが、私はこちらの演奏会をチョイスした)

 

再度、指揮者のMC。9月4日は、ブルックナーの誕生日であること。また5日は、ブルックナーがこの7番をリンツで完成した日であることが紹介された。その5日には、改めてこのホールでこの日の曲目のレコーディングを行うのだそうだ。

 

アンコールとして、このオケが折にふれて練習しているという、「マタイ受難曲」のコラールが演奏された。西脇氏は演奏を始めると、下手へ退場し、以後は指揮者なしで演奏された。

 

ともかく、貴重なものが聴けた演奏会だった。

 

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<追 記>

レコード芸術」2020年6月号に、西脇氏へのインタビュー記事が掲載され、この演奏会のものと思われるブルックナーの配置図と写真が載っていたので引用しておく。

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