先週リリースされた上白石萌音のアルバム、「あの歌 1と2 <特別盤>」を買った。
上白石萌音という人は、ほとんど知らない。
女優としての彼女については、「恋はつづくよどこまでも」や、今年の大河、「青天を衝け」など、数々のテレビドラマに出ていることは知っているが、ちゃんと観たことがない。
歌手としての彼女については、以前買ったオフコースのカバーアルバム「オフコース・クラシックス」の1曲目、「さよなら」を歌っているのを聴いて、きれいな声だなと思ったのが唯一の聴体験である。
今回、「あの歌」を買おうと思ったのは、その上白石萌音が歌っているのが、昭和歌謡のカバーであることに興味をひかれたからだ。
収録曲は、以下の通りである。
今回は、2枚のアルバムが同時に発売された。
「あの歌-1-」は、「70年代カバーアルバム」と表記されている。
1.年下の男の子
2.キャンディ
3.君は薔薇より美しい
4.夢先案内人
5.木綿のハンカチーフ
6.グッド・バイ・マイ・ラブ
7.ガンダーラ
8.勝手にしやがれ
9.みずいろの雨
10.オリビアを聴きながら
11.さらば恋人
「あの歌-2-」は、「80~90年代カバーアルバム」と表記されている。
1.世界中の誰よりきっと
2.ダンデライオン〜遅咲きのたんぽぽ
3.AXIA 〜かなしいことり〜
4.Diamonds<ダイアモンド>
5.制服
6.まちぶせ
7.ブラックペッパーのたっぷりきいた私の作ったオニオンスライス
8.いかれたBABY
9.青空
10.PRIDE
女性歌手の歌が多いが、とりあげられている男性歌手の曲目が面白い。
「あの歌-1-」、「あの歌-2-」と、ダイジェストムービーなどを収録したDVDをセットにしたボックスが「特別盤」で、私はこれを買った。
今日、通勤の往復に聴いてみた。
「オフコース・クラシックス」の「さよなら」同様、清潔感のある歌声だ。
印象としては、淡彩な水彩画。
そんな彼女の歌は、一聴して強い印象を受けるものではなく、それは上白石萌音その人の顔貌が決して「濃い」ものではないことと通じるところがあるように感じた。
しかし、少し聴く内に、決して無個性な歌でもないことに気づく。
1曲、1曲と聴き進める内に、この人の歌はすごく巧い、とその魅力にひきこまれてしまった。
ただ淡々と歌っているように見えて、それぞれの曲に細かい表情づけがされていることに驚かされる。
濃い表情づけや技巧を前面に押し出すのではないが、よくよく聴く内に、大変な非凡さを感じさせる、そういう歌だ。
カバーしたオリジナル曲は、布施明、沢田研二、ユーミン、松田聖子と、個性の強い歌手のものばかりなのだが、2枚のカバーを聴いてみると、上白石萌音はすべての曲を自分のスタイルに引き寄せている。そこがすごいと思った。
昨年の紅白歌合戦について、このブログで、こういうことを書いたのを思い出した。
Superfly「愛をこめて花束を」は、上手いなあと思いながら聴いた
が、大トリのMISIA「アイノカタチ」ともども、「がんばり過ぎている
歌」という印象がある。もう少し力の抜けた歌で、彼女たちの魅力が聴き
たい。
そう、SuperflyやMISIAは、巧さを感じさせ過ぎる(突きつけてくる)タイプの歌だと思ったのだった。
今回聴いた上白石萌音の一連の歌は、それと対極にある。
いやあ、これはすばらしい。
一つ気になったのは、鼻濁音が使われていないことだ。これは誠に惜しいと思った。
ヴォーカルのことばかり書いたが、これらのカバーアルバム、選曲、個々の曲のアレンジがまたすばらしい。
繰り返し聴いて味わうに足る名盤である。
「MUSIC MAGAZINE」の最新号は、1970年代の昭和歌謡を特集しているが、その特集の冒頭に上白石萌音のインタビューが載っており、アルバム制作の過程などについて語っている。
※上白石萌音「あの歌」特設サイト
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