10月25日(水)に発売された、さだまさしデビュー50周年記念トリビュートアルバム、「みんなのさだ」を聴いた。
プロデューサーの寺岡呼人氏と、さださんのライナーノーツ。
さださんから寺岡氏には「好きに料理してくれ」。寺岡さんのコンセプトは「さださんよりも一世代二世代下のミュージシャンによる新しい解釈」。
ラインナップは以下の通り。
道化師のソネット / ゆず
案山子 / 槇原敬之
雨やどり / 福山雅治
精霊流し / 高橋優
主人公 / 折坂悠太
修二会 / 木村カエラ
新約「償い」 / MOROHA
まほろば / T字路s
関白宣言 / wacci
防人の詩 / 琴音
虹~ヒーロー~ / MISIA
オリジナル曲は当然先刻承知の耳で聴いてみて、様々な感想を持った。
最初の2曲、ゆずの「道化師のソネット」、槇原敬之の「案山子」あたりは、さだオリジナルに忠実な音楽になっている。「案山子」は槇原さん自身の編曲なので、意図的な作り方なのだろう。
槇原さんは「案山子」をとても丁寧になぞって再現し、丁寧に歌っている。カバーというよりもコピーの世界のように感じる。
私個人としては、それでは面白くないと感ずる。それでは、ヴォーカルが槇原さんになっただけ「案山子」を聴く形になるからだ。
(もっとも、この点は、槇原さんのファンの立場からすると、彼が「さだまさしオリジナルの「案山子」」を歌うことにたまらない魅力を感じるだろう。そうした角度からの評価は別のこととして理解できる)
つまり、オリジナルはさださんで聴けば良いので、そこから何か違った形に、まさに「料理」してくれたものが聴きたい。あくまで私個人のスタンスとしてだが。
その意味で、三浦大和の「風に立つライオン」は大変聴きごたえがあった。詞も曲も原曲がベースだが、医師の手紙の文面のあの歌詞が、2つの声部に分けられ、音楽も変拍子(あるいは不規則な単位のフレーズ)で再構築されている。
このアルバムで、料理の一番の極致は、MOROHAの「新約「償い」」だ。MOROHAというラップグループはまったく知らなかった。
ラップなので、さださん作曲のメロディは聞こえてこない。詞についても、ほんの骨格となる部分だけを残して、まったく別の物語になっている。
(ある裁判官が判決時の説諭に用いて話題となった、交通事故加害者の物語ではない)
原題「償い」だけを残し、「新約」と称されるにふさわしい換骨奪胎である。
福山雅治の「雨やどり」。さださんならではのコミックソングを、現代日本を代表する二枚目が、原曲のテイストに寄ることなく、「桜坂」を歌うのと同じように、福山様式で歌っている。大変逆説的な面白さがある。
その人らしい歌、という点では、上白石萌音の「秋桜」も、とても清潔感のある純白な歌で、山口百恵オリジナルとは別の世界を作っている。
さらに気に入ったのは、木村カエラの「修二会」。私が特に好きな曲なので、期待を持って聴いたが、詞・曲そのものはオリジナルのままでも、そこにこの人ならではの別のテイストを持ち込んでいて大変面白い。まあ、女性がこの歌を歌ったというところも大きいと思うが。
この「修二会」、そしてT字路sの「まほろば」などは、それぞれの曲に実はロック要素が内在することを感じさせる(ヴォーカル自体は格別ロック的ではないが)。
高橋優の「精霊流し」のイントロがギンギンのエレキギターであるところも同様。ただ、これもヴォーカルはきわめて普通。
葉加瀬太郎の「北の国から~遙かなる大地より~」は、美しいヴァイオリンによるインストだが、まあ意外性には乏しい。葉加瀬さんが歌っていたら、などと思う。
トリの位置に置かれたMISIAの「虹~ヒーロー~」は、予想通りの立派な歌唱であるところが評価としては却って微妙。「MISIAの歌」になっているので、申し分ないとは言えるかもしれない。少なくとも以前の「歌を歌おう」よりは、作品と歌唱が合っているように思った。
トリビュートアルバムは世にたくさんあるが、大変面白く聴いた。
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素材の味を大切に?
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各アーティストコメント、「さだ研究会」考察など