14日(土)、夕方、宇奈月オペラ、「コシ・ファン・トゥッテ」の本番が終了。
焼肉屋「七厘」でのオケの有志打ち上げがアナウンスされていたが、今回、これには不参加。
演奏会場だった、宇奈月国際会館セレネの中で、19:00から古澤巌さんのコンサートがあるからだ。
オープニングオペラのフライヤーが配られた時、その裏面に古澤さんのコンサートの情報が載っており、宇奈月で古澤さんを聴けるなんて! と、一も二もなくチケットを予約したのだった。
宇奈月音楽祭で古澤さんのコンサート!
https://naokichivla.hatenablog.com/entry/66319342
音楽祭の各種情報では、この古澤さんのコンサートは、ひっそりと紹介されており、広く配布されているコンサートガイドには、「限定80席」と書かれている。
また、会場も、「セレネ内」とあるだけで、具体的にセレネのどこかは秘密らしい。実際、チケットを買う時に、電話で質問したが、答えてもらえなかった。
そして当日。我々の楽屋がある3階に、このような表示を発見。同じフロアの小ホールなんだ。
オペラ終演が17時半過ぎ。古澤さんの方は、18:30開場とのことなので、楽屋で急いで着替え、楽器を持って、フロア奥の小ホールに急いだ。
10人ほどの人がたむろしていた。やがて行列ができ始めたので、並んだ。
定刻開場。中に入る。最前列はとれず、2列目中央あたりに座ることにした。
これが、入場時に配られたペーパー。
ホテルで、母、叔母と夕食を済ませた妻が合流。開演を待った。
このコンサート、1時間程度のものかと思っていたら、場内アナウンスでは、終演予定は21時とのことだった。
●音楽祭10周年記念特別企画 古澤巌 ヴァイオリンソロ~モーツァルトとぼくと~
ニューシネマパラダイス
ショーロインディゴ
Limpida
Mojave
バッハのソナタより
いい日旅立ち
愛の讃歌
Mr.Lonely
ピアノソロ
マドリガル
美しきロスマリン
愛の悲しみ
ボカリーズ
モーツァルトのソナタ
アベマリア
ブエノスアイレスのワルツ
チャルダッシュ
[アンコール] タイスの瞑想曲
2部構成で、第1部は古澤さんのソロ、第2部は金益研二さんのピアノとのデュオだった。
第1部、古澤さんが1人で登場。ピアノの上に置かれたラジカセのような機械を操作すると伴奏のオケが鳴り響き、これに合わせて弾いた。
小さな機械だが、かなり豊かな音場のひろがりがあったので、どうやらこれはラジカセでなくスピーカーのようだ。音源は、この機械につないだ、ウォークマンのような小さな機器と思われた。
モリコーネの「ニューシネマパラダイス」からスタート。
思ってみれば、このところ聴いている古澤さんの演奏は、葉加瀬(太郎)さん、高嶋(ちさ子)さんとの3大ヴァイオリニストのコンサートなので、いつもPAを通している。古澤さんの生音を客席で聴くのは、初めてだ。
チェロの弓を使っていることは以前から聞いているが、相当短く持っているのが、前から2列目なので、よくわかる。
曲間には、MCが入った。
品川カルテットのコンサートでは、必ずモーツァルトを演奏するが、1人のレパートリーにはないので、モーツァルト音楽祭だが、ちょっとしか弾かない(笑)とのお話。
ザルツブルクで、シャンドール・ヴェーグに師事してモーツァルトの勉強をしていた時、「ヴァイオリンはピアノのように弾け」と言われたそうだ。弦楽器は、色々音をこねくりまわすことができるが、叩いたら後は何もできないピアノのように弾きなさい、との教えだったとのこと。
ただ、ザルツブルクから帰ってきて、すぐ葉加瀬さんとバンドを始めたので、それを使う機会がなかった(笑)とも。
ベルリン・フィルのメンバーとやっている、マリーノの作品を2曲。
そして、バッハのソナタが演奏された。私は、バッハの無伴奏にはまったく不案内だが、イ短調の曲だった。
この曲、弾いている古澤さんの顔が、それまでの笑みをたたえながらの柔らかい表情とまったく違って、真摯なものに変わったのが印象的だった。
次の「愛の讃歌」は、フィギュア・スケートの鈴木明子選手が、ソチオリンピックで滑った際に使われたもの。
「第1部のアンコールに」と、「ジェット・ストリーム」の「Mr.Lonely」。ラジオ番組のオープニングで、古澤さんの演奏が使われているが、弾き出すと、DJのしゃべりが入ってくるので、なかなか自分のヴァイオリンを聴いてもらえない(笑)が、今日は聴いて下さい、と。
15分の休憩となった。
ピアノの蓋が開いた。ベヒシュタインのピアノだった。
金益氏が登場し、ソロで、アルゼンチンの音楽で、「ノクトゥーナ」という曲を演奏した。
古澤さんが合流。
モーツァルトの話になった。
自分は、色々な曲を弾いているが、すべての基礎は、モーツァルトをどう弾くか、習ったところにあるとのこと。
「モーツァルトを聴かせて作ったビール」など、色々あるが、それは、モーツァルトの心が、飛び抜けて綺麗だからだと思っているとの話もあった。
このクライスラー、金益氏のピアノは、作曲家、編曲家ならではのピアノ、という気がした。音楽の作り、構造がとてもよく見える。
そして、ラフマニノフの「ヴォカリーズ」。とても美しかった。
またモーツァルトの話に。
モーツァルトの弾き方の基本は、先ほどのヴェーグの教えの通り、音を作らないこと。
モーツァルトのヴァイオリン・ソナタは、ピアノがすべてを弾いていて、ヴァイオリンは添え物なのだそうだ。すべてを弾くピアノに合わせて、ヴァイオリンは自由に動くだけとのこと。
これからモーツァルトのソナタを弾くが、ただピアノに合わせて、弾きます、と話して始まったのが、K304のホ短調のソナタだった。
このモーツァルトでの古澤さんの表情に、また驚いた。バッハの時は、真剣な顔だったが、モーツァルトでは、何と言うのだろう、もっと鬼気迫る、獲物を捕らえようとする動物のような、野生の顔だった。私にはそう見えた。
奏でられているモーツァルトの音楽の清澄さと、まったくマッチしない表情が、とても不思議に思えた。モーツァルトの何が、古澤さんをあのような顔にさせるのだろう。
曲の後のMC。
モーツァルトの音楽はどれも同じに聞こえるように思えるが、実はそこに感情がずっしりと入っており、それを読み解く醍醐味がある。
かつて、モーツァルトはともかくピアノを聴けと言われた意味が、わかった。ただヴァイオリンでメロディを弾くだけではだめなのだ。
そのようなお話だった。
モーツァルトは、この1曲だけ。
そして、金益氏のソロで「ブエノスアイレスのワルツ」。
最後に、モンティの「チャルダッシュ」。この曲は、3大ヴァイオリニストのコンサートでも毎回演奏されるが、ピアノとのデュオでは初めて聴く。持ち前の名技はもちろんだが、センスあふれる演奏だった。
アンコールに、と「タイスの瞑想曲」。美しかった。
予告の21時を15分ほどまわっての終演だった。
いつも感服している、古澤さんのすばらしいセンスのヴァイオリンを、生音で間近に聴けた、本当に貴重な機会だった。
また、トークもとてもよかった。演奏されたモーツァルトは1曲だけだったが、古澤さんにとってのモーツァルトが、よくわかるお話だった。
退場の際に見かけたセットリスト。
表に出ると、空には美しい月。前日が中秋の名月だった。
妻とホテルの方へ歩き、前日の昼食で入ったわらびやで感想戦。
ヴァイオリンはもちろんだが、ピアノがとてもよかった、という点で一致。
また、妻は、ダウンボウの逃がし方と、薬指がすごく柔らかいのが印象に残ったとのこと。
閉店時刻が近づいたので、店を出てホテルに戻った。
ところで、オペラのオケメンバー有志は、「七厘」で焼肉の後、「河鹿」での二次会に流れていたが、一部のメンバーが、その後、古澤さんと会っていることが、判明した。
Facebookに、複数のメンバーが、古澤さんと一緒に撮影した写真を投稿しているのにびっくり。
うーん、何か釈然としないなー。
焼肉を見合わせて、古澤さんのコンサートを聴きに行った私が、古澤さんに会えず、コンサートをよそにひたすら飲んでいた人たちが会えるなんて・・・(笑)。
もし、古澤さんと話せたら、演奏を聴いて感じたことや、チェロの弓のことなど、聞きたいことはたくさんあったのに。残念。
古澤さん、また来年、来てくれないかな。