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68歳、ヴィオラ弾き。ビール大好き。毎日元気。

「ニーベルングの指環」ハイライト特別演奏会

16日(日)、東京文化会館で行われた、「ニーベルングの指環」ハイライト特別演奏会を聴きに行った。

 

演奏会のタイトルに「飯守泰次郎傘寿記念」と添えられている。

 

ワーグナーのオペラには定評のある飯守氏は、2015~2017年に新国立劇場で上演された「リング」を4作とも指揮しており、私もそのすべてを聴いた。生まれて初めての「リング」実演体験だった。

新国立劇場では、今年3月に「ワルキューレ」が再演され、当初飯守氏が指揮する予定だったが、健康上の理由で降板した。

その飯守氏が、東京シティ・フィルを振ってのハイライト演奏会。これは是非行きたいと思い、チケットを買い求めた。

 

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が発出され、宣言対象である東京都でのこの演奏会はおそらく中止だろうと覚悟したのだが、宣言期間延長に際してイベントの規制が緩和されたことを受けてか、予定通り開催された。

 

2月に東京二期会オペラ劇場の「タンホイザー」を聴きに来て以来の東京文化会館

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私の席は2階4列4番。正面下手側の最後列だ。

 

東京シティ・フィルの演奏会を聴くのは、もしかするとこれが初めてかもしれない。

 

プログラム冊子から。

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ジークフリートを歌うシュテファン・グールドは、前記新国立劇場での「リング」チクルスのすべてに出演した人だ。「ラインの黄金」ローゲ、「ワルキューレジークムント、「ジークフリート」「神々の黄昏」ジークフリート

 

3月の新国立劇場の「ワルキューレ」で、ブリュンヒルデを見事に歌った池田香織さんが、この日の演奏会ではブリュンヒルデのカヴァーに名前を連ねている。
また、浦安オケで何度かご指導いただいた指揮者の松川智哉先生のお名前が副指揮の一角に載っている。

 

飯守=東京シティ・フィルのコンビは、2000~2003年に、「リング」4部作を演奏会形式で上演している。

 

今回の演奏会は3部構成。「ラインの黄金」「ワルキューレ」が第1部、「ジークフリート」が第2部、「神々の黄昏」が第3部。30分ずつの休憩が入る。

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開演前、13:40、13:50に、ステージに金管奏者8人が出てきて、「ラインの黄金」のファンファーレを吹奏した。以後、休憩時にもファンファーレの演奏が行われた。

このファンファーレは飯守氏の選曲による各楽劇のライトモティーフで、楽譜はバイロイト祝祭劇場から借りたものだそうだ。

 

ステージには大編成のオーケストラの座席が設置されている。ハープ4台。オケピットだともっと狭苦しく座るのだろうが、演奏会形式なので、マーラーのシンフォニーでも演奏するかのような感じだ。

 

弦は、遠目に見たところでは、17・16・12・11・7のようだが、プログラム冊子のメンバー表によると、14・16・12・12・8。
チェロに、クァルテット・エクセルシオの大友肇さんの名前を発見。客員首席奏者と表示されており、トップサイドにおられた。

ヴィオラ外配置。譜面台はプルトに1台。

 

楽員はほとんどがマスク着用。何人か着用していない人が見られた。男性楽員は棒タイ。

 

ステージ前面にソリスト用の譜面台が4本立てられている。下手側に3本、上手側に1本。最初に歌うラインの乙女たちとアルベリヒだ。

 

歌手の飛沫を考慮してか、1階席の前4列(中央のブロックは5列)は売らなかったようで、空席になっていた。

 

ステージ下手から登場した傘寿の飯守氏は、指揮台までの足取りが少々心もとない感じだった。指揮台には椅子が置かれていたが、座って指揮をする場面はほとんどなかった。

 

ラインの黄金」の序奏からスタート。ラインの乙女たちとアルベリヒのやりとりの後は、「ヴァルハラへの入城」と、この序夜については最初と最後を抜粋した形。

 

ワルキューレ」に入ってから、急にオケがよく鳴るようになった感じがした。それまでは、ワーグナーにしてはちょっと物足りない響きのように感じていたのだが。

 

ワルキューレ」の終幕は、ブリュンヒルデの出番はなく、ヴォータンのみ。
ワルキューレ」は2ヶ月前に観たばかりだが、やはりこの幕切れの音楽は余韻があってすばらしい。

 

休憩30分。演奏会形式だし、舞台転換があるわけではないのだが、ワーグナーの場合、歌手あるいはオケにとってはこれくらいの休憩が必要なのだろうか。

 

休憩中に、「ジークフリート」のファンファーレが吹奏された。

 

ジークフリート」最初の鍛冶の歌では、ジークフリートの前に「鍛冶屋のポルカ」を思い出させる楽器(金床?)が置いてあり、シュテファン・グールドが歌いながらそれを叩いた。

 

オケは尻上がりに調子を上げてきたように感じた。

 

ジークフリートブリュンヒルデと出会ってから終幕までのこの場面は、実に圧巻だった。「リング」全曲の中でも、ここが一番の名場面かもしれない、と思いながら聴いた。
ほどなくこの後、2人には悲劇が訪れるのだが。

 

16:40頃、2回目の休憩。

 

実はこの演奏会、14:00開演なら16:30くらいには終わるかな、と勝手に思っていた。「リング」名曲集の普通の演奏会だと思っていたのだ。

プログラム冊子の飯守氏のメッセージに、「約15時間を濃密な3時間余りに凝縮し」と書かれていたので、では17時はまわるのか、と考えを改めた。しかし、30分の休憩と第3部の「神々の黄昏」を残して既に16時半を過ぎているに及んで、18時までには終わらないなとさらに修正。
帰宅後、会場でもらった演奏会のチラシを確認したら、「終演予定18:40」と書いてある。チラシが手元にない状態で、ネット画面の情報もろくろく見ずにチケットを買ったので、当日までうかつにもわからなかったのだ。

それに、入場時に見た演奏会ポスターの上にも、「終演予定18:40」とある(上の写真)。写真を撮りながら、これも見逃していた。

 

17:00頃、「神々の黄昏」のファンファーレ。

 

男声合唱がステージ奥に整列した。合唱団は全員白いマスクをしている。

 

2幕3場、4場、5場、3幕2場と、充実した音楽が続く。歌にもオケにも圧倒されるばかりだ。

 

この演奏会形式で、背中を刺されて死んだジークフリートはどうするんだろう、と思っていたら、立ったまま自分で歩いて下手にはけて行った。

 

葬送の音楽は大変聴きごたえがあった。この葬送、c-mollで作曲されているが、ワーグナーとしては、ベートーヴェンの「エロイカ」を意識したのだろうか。

 

そして、ブリュンヒルデの自己犠牲。ブリュンヒルデが歌い終わった後、下手からハーゲンが出てきて一言歌って引っ込んだ。そうか、この長いオペラで一番最後に歌うのは彼だったんだっけ、と思った。

 

際限のないカーテンコール。客席の多くが立ち上がって拍手を送っていた。心配な足取りでゆっくりと出入りを繰り返す飯守氏が気の毒にも思えた。

 

その末に、オケが突然「ハッピーバースデー」を演奏し始め、合唱団が歌った。

飯守氏の誕生日は5月16日ではないようだが、傘寿のお祝い、という意味らしかった。私にはこれは余計なことに思えた。

 

以後、規制退場。ホールを出たのは18:50頃だった。長い演奏会だったが、めったに聴けないものが聴けた喜びは大きかった。

 

歌手は皆すばらしかったが、特にと言えば、ブリュンヒルデジークフリート、ハーゲン。

 

3月の新国立劇場での「ワルキューレ」の時も思ったが、もう一度、「リング」全作の実演を観てみたい。

やっと私には、この巨大な作品がおぼろげにわかってきたところだ。実演にふれることで、さらに理解を深めたい。

現実にはそういう機会が当分にありそうにないので、せめて音源で。
取り寄せていたカイルベルトバイロイト盤が無事入手できたので、さしあたりこれを近い内にひと通り聴くことにしたい。

 

上野駅の公園口。以前の改札より鶯谷寄りに移動した。

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飯守泰次郎氏のオフィシャルサイト。「Message」のページに、この演奏会

 について、事前のリハーサルから本番までの様子が写真入りで掲載されている。

    https://www.taijiroiimori.com/03message/msgf.html