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小菅優プロデュース 武満徹「愛・希望・祈り」~戦争の歴史を振り返って~ Ⅰ

15日(火)、サントリーホールブルーローズで行われた、小菅優プロデユースの演奏会を聴きに行った。

 

毎年この時期に行われている、「サントリーホールブルーローズ チェンバーミュージック・ガーデン」の一環である。2回のシリーズで企画された演奏会の1回目。

 

プログラム冊子から。

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小菅優プロデュース 武満徹「愛・希望・祈り」~戦争の歴史を振り返って~ Ⅰ

日 時 2021年6月15日(火) 18:30開場 19:00開演
会 場 サントリーホール ブルーローズ
ピアノ 小菅 優
ヴァイオリン 金川真弓
チェロ ベネディクト・クレックナー
クラリネット 吉田 誠
曲 目 武満 徹 「2つのメロディ」より第1曲「アンダンテ」
    武満 徹 カトレーンⅡ
    メシアン 世の終わりのための四重奏曲

 

この演奏会に行こうと思ったのは、メシアンの四重奏曲を一度実演で聴きたかったからだ。

 

18:30の開場が少し遅れた。入場すると、ピアノの調律が行われている。リハーサルが延び他のだろうか。調律は開演7分前まで続いた。

 

私の席は、C6列5番。

 

この演奏会に限らないが、クラシックの演奏会って、業界人の社交の場になっているところがある。この日もたとえば、指揮者っぽい風貌、身なりの男性がいて、知り合いらしき人何人もに声をかけたりかけられたりしてしていた。そんな人たちが多い。
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、会話は控えめにしてくれとアナウンスされていても、そういう人たちは結構しゃべっている。私の前の席の女性2人は、1ベルが鳴ってもずっとしゃべり続けていた。これから始まる演奏を聴くことに気持ちを向けるべきではないのか? と思った。
「○○さん元気かなあ」などの会話が聞こえてくるにつけ、この人たちには、これから演奏されるのがメシアンであろうとバロックであろうと関係ないのかな、と思えてくる。

 

最初はピアノのソロ曲だが、演奏者4人全員が出てきた。

舞台上のスポットライトが落ちて、ピアノの小菅さんにだけライトが当たる。

 

武満徹17歳作曲のこの作品は初めて聴く。ドビュッシーみたいだと感じた。調性感はある。

 

ピアノのスポットも落ちてステージが真っ暗になったが、すぐ4人の奏者にライトが当たり、アタッカの形で、次の「カトレーンⅡ」が始まった。

 

こちらは、聴き慣れた武満徹の響きに感じる。「カトレーン」は、タッシ=小澤征爾=ボストン響の演奏でしばしば聴くが、「カトレーンⅡ」を聴くのは初めてかもしれない。

 

小菅さんは自分で譜めくりをしていた(メシアンでは譜めくりの人がついた)。

 

クラリネットの吉田さんは、初めて聴く演奏家だと思う。黒シャツを着ていたこともあってか、「半沢直樹」でベンチャー企業の社長、瀬名 洋介を演じた尾上松也を思い出した。

ホワイエでCDが販売されていたが、吉田さん小菅さんのコンビでのブラームスクラリネットソナタがあったので、買い求めた。

 

20分間の休憩後は、お目当てのメシアン

 

この曲は、大学時代にメシアンのピアノ、パスキエ・トリオのモノーラル盤を買って聴いたのが最初なので、結構つきあいは長い。CD時代の今は、タッシの演奏で聴いている。

 

1楽章が始まり、やっぱり武満徹とは響きが違うな、と感じる。

 

間もなく2楽章に入ってピアノの強い和音が鳴らされて、ああそうそう、メシアンってこういう暴力的な音が出てくるんだった、と思った。武満にはこういう音響はない。
その後の、ピアノ、ヴァイオリン、チェロの弱音の進行がとてもきれいだった。

 

3楽章のクラリネットのソロは本当にすごかった。息の長さ、強弱の幅。クラリネット1本だけで大きな世界を作り上げていた。

 

次の4楽章はしゃれた音楽だ。終結部分のウィット。

 

5楽章のチェロのソロは本当に美しかった。

 

6楽章はユニゾンの鋭い切れ味が印象に残った。この楽章のリズムを聴いていて、ふとバーンスタインの作品のイメージが浮かんだ。そう言えば、「トゥーランガリラ交響曲」の初演を指揮したのはバーンスタインだった。

 

ここまで充実した楽章が連なってきた後の7楽章は、また聴きごたえがあった。これでもか、という感じだった。全曲の構成としてのクライマックスはこの楽章にあるように思う。

 

最後の8楽章は浄化。ヴァイオリンのソロが虚空に舞い、消えていく。チェロのクレックナーさんが、演奏している金川さんの方をずっと向いて見つめていた。

 

音がなくなり、小菅さんが鍵盤から静かに手を下ろしたところで拍手。小菅さんは、「あー、拍手が来ちゃった」というような、残念そうな表情を浮かべた。
(2013年に浦安オケでチャイコフスキーの「悲愴」を演奏した時、指揮の横島勝人先生が、「4楽章が終わって30秒拍手が来なかったら成功です」とおっしゃっていたが、来てしまったのを思い出した)

 

とにかく、このメシアンの演奏には本当に圧倒された。

「実演で聴く」ということの大切さを改めて実感した。

聴けてよかった。

 

このプログラムを通して聴いて、やはり面白さ、つかみやすさではメシアンだと思った。

 

アンコールはなく、短めの演奏会だったが、十二分だった。

 

2回にわたるこのプロデュースコンサートについて、小菅三がサントリーホールのサイトに連載コラムを書かれているので引用する。

 

   ①武満徹との出会い、このプロジェクトについて
       https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/article/detail/000601.html
   ②メシアン:『世の終わりのための四重奏曲』の初演までのお話
       https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/article/detail/000618.html
   ③メシアンの『世の終わりのための四重奏曲』に気づかせられるもの
    吉田 誠(クラリネット) × 小菅 優(ピアノ)
       https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/article/detail/000619.html
   ④武満徹のピアノ付き室内楽作品
       https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/article/detail/000629.html
   ⑤ストラヴィンスキーと「兵士の物語」
       https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/article/detail/000636.html
   ➅ショスタコーヴィチの謎
       https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/article/detail/000646.html

 

小菅優さんのTwitterを引用する。

 

それから、野平一郎氏がメシアンについて語っているネット記事を見つけた。それによると、野平氏は「世の終わりのための四重奏曲」を、メシアンイヴォンヌ・ロリオ夫妻の前で演奏したことがあるのだそうだ。知らなかった。併せて引用しておく。
調べてみると、野平氏によるこの曲の録音が出ていることがわかったので、HMVのサイトに注文した。

   『伝記 オリヴィエ・メシアン』で振り返る大作曲家、晩年の足跡
       https://ontomo-mag.com/article/column/messiaen-nodaira-202106/?fbclid=IwAR1r8Wr9qrKDziQjswnaU4mvJCOhF0HpENaEwc9XH0cbLZGnID7UpKF0iBo