naokichiオムニバス

68歳、ヴィオラ弾き。ビール大好き。毎日元気。

何でこんなめんどくさい作業を

今回、浦安オケで取り組んでいるブルックナーの3番。

 

指揮者の指定で、1889年第3稿ノヴァーク校訂版で演奏することになっている。当初、パート譜ペトルッチからダウンロードという話があったが、当該の版のものは入手できないことがわかり、レンタル譜を使うことになった。

 

そのレンタル譜というのがね、とんでもないしろものだったんですよ。

 

配られてびっくり。前に使った人の書き込みだらけなのだ。

ボウイングやらフィンガリングやら、指揮者の指示と思われるダイナミクス記号の書き換えやら、とにかく全ページにびっしり書き込みがある。

ヴィオラだけでなく、他のパートもそうらしい。

 

コンミスからは、この書き込みは消した上で練習に臨むようにとの指令があった。

 

当初、個人的にはそんな楽譜しか提供されないことに納得がいかなかった。

楽譜係への批判ではない。ビジネスで楽譜のレンタルをやっている業者が、こんな楽譜をよこし、お金を払っているこちらが、書き込みを消す作業負担をしなければならないのはおかしいのでは? とついつい団内のメーリングリストでつぶやいてしまった。

 

そうしたら、楽譜係のFさんから返信をいただいた。

 

原譜に同梱されていた「レンタル譜使用上の注意」に、こう書かれていると言う。

①ボールペン、サインペン、色鉛筆などでの書き込みはNG。必要な場合は芯の柔らかい鉛筆を使用し、記入した部分はきれいに消して返却すること。
②既に書き込まれているボウイングや演奏メモなどは、そのまま消さずに返却すること。

 

Fさんの見解によれば、

・書き込みをした人が①に反し、消さずに返却した。
・それ以降に借りた人は、②によってそれを消すことができなくなった。

それが繰り返された結果を我々は眼前にしているのだろう、とのことである。

さらに、レンタル譜の書き込みはよくある話だが、今回は気にせず使えるレベルのものではないので、返却時に申し入れはしてみるとのことだった。
(ただ、レンタル業者は取り次ぎのみで、原譜の所有管理権は海外の出版社に帰属すると思われるとのこと)

 

そういうことなのか。その世界のことをよく知らずに文句をわめいてしまった。

 

ヴィオラパートにおいては、どの程度消すかはプルトごとに相談して決めることにして、これまで練習に臨んできた。

私の場合、トップサイドなので、最終的にはトップのIさんの楽譜を見ることになるが、現時点では、練習時に譜面台は1人1台なので、自分の楽譜で弾いている。基本的に書き込みを消すことはせず、ボウイングの必要な修正等は鉛筆でグチャグチャと乱暴に書き直したり消したりして使ってきた。

 

ただ、当初から課題だったのが、エキストラに送る楽譜である。書き込みだらけの楽譜をコピーしてお送りするのは、実用性以前にやはり失礼というものだろう、ということになった。そこで、エキストラの顔ぶれが決まって楽譜を送る時期になったら、エキストラ用原本は書き込みの一切を消し、それをコピーした上で、ボウイング等を記入し、製本する方針とした。

エキストラの顔ぶれが順次決まってきたので、原本準備にかかる時期になった。消し込み作業はトップのIさんと私で分担することにした。1、2楽章を私が、3・4楽章をIさんが担当。ページ数としてはほぼ均等となる。

 

19日(金)、いよいよ消し込み作業にかかった。

 

1楽章、1ページ目。

 ↑ 一番下の段の1小節目。ボウイングに合わせた手書きのスラー。

   2小節目。本来はpだが、pを足してppにしてある。

   3小節目。「cresc.」を消し、3拍目から松葉(クレシェンド)になっている。

 

どんなにひどいか、他にもいくつかご覧いただきましょう。

 

2楽章。2段目、Aの1小節目は、8分音符2つずつにスラーとテヌート。五線に入り込んでの書き込みは、修正液で消す難度が高い。五線の上にあるボウイングなどは簡単だが。


同じく2楽章。これもなー。

53~56小節とか、Cのテヌートとか。

書き込みだから仕方がないが、Cみたいに、文字とボウイングが重なってたり。

 

これは1楽章。

手書きの松葉やppを消すのは当然だが、「pocp a poco cresc.」が消してあるので、これは一旦修正液で消した後、手書きで復活させなければならない。

 

東急ハンズで買ってきておいたぺんてるの修正液を使って、消していく。
修正液、懐かしいなあ。会社でこういうの使ったのっていつ頃だっただろう。少なくともここ20年くらいは使っていないような気がする。

 

それでなくとも修正液作業自体久しぶりで不慣れなので、最初の内は手が震える思いだったが、だんだん慣れた。書き込みは五線や音符に接近して、時にはかぶって書かれている。消すべきでない音符や記号はできるだけ消さないようにしなければならない。

 

これを。

こうする。

付箋は、やむなく消してしまったスラーを後で復活手書きする目印。

 

これを。

こうする。

 

それにしてもひどいなあ、この書き込み。
消しながら改めてその思いを深める。

 

これなんか、どうにもならない。上に既に写真を載せた箇所だけど。

52小節目の3拍目のスラーは消せたが、その後4小節は原譜無傷で消すのは不可能だ。

 

終わったページは並べて乾かす。

 

実は、この一連の書き込み、フィンガリングを始めとして、参考になる内容が少なくない。

あるいは、4分の4の小節の上に、拍子を示す縦棒を4本書いてあるとか、小節途中の音符に臨時記号をつけるとか、演奏上、そう書き込んだ気持ちがよくわかる、というものもある。そのままにしておいても、と感じないでもない。
しかし、ヴィオラにおいては、エキストラさんに送る楽譜はまっさらなものをベースに、と打ち合わせたことでもあり、必要なものもすべて消していった。

 

書き込み内容が参考になる反面、強く思うのは、自分のものでない、借りた楽譜、つまり貸してくれた人に返さねばならない楽譜なのに、こんな書き込みができる神経がわからない、ということだ。
いかに音楽的に有用な書き込みであろうと、この非常識で大きく相殺されておつりがきてしまうと感じざるを得ない。

 

そもそも、どこの誰だかわからない奴が書き込んだもののために、どうして私がわざわざ修正液を買ってきて、お盆休みの1日を費やして、こうしてシコシコと消さねばならないんだ?
作業時間が経過するにつれ、そういう憎しみのような感情が自分の中に堆積していく。

(どこの誰だかわからないこいつは、フィンガリングの数字の感じからすると、外国人ではないか、という感じがある。この点、Iさんに話してみると、同じように思われていたとのこと。ヴィオラパート内では、ドイツ人説も流れている)

 

ところで、昔の修正液は、瓶の蓋が刷毛になっていて、それで塗っていたものだが、長いこと使わないでいた間に、商品は進歩したようだ。

今回は2種類買ってきたのだが、特に、「極細」と書かれたペン型のものなどは、まさにこういう楽譜みたいな細かいものを消す作業に威力を発揮する。
このペン型のものを使って、狭い余白部分に書かれたものをチマチマと消していると、まったく想像でしかないが、ネイリストの人って毎日こんな作業をしてるのか? などと思ったりする。ネイルなんてもちろん未経験、人がされているのも見たことがないが。

 

とりあえず、消すべきものは全部消したので、作業終了。ひと晩置いて乾かすことにした。

 

明けて今日20日(土)は、作業の続き。

どうしても消さざるを得なかった五線などを、シャーペンや定規を使って書き込んでいく。

改めて確認すると、消し忘れが結構あるのに気づいたりもした。

 

1時間あまりですべての作業が終了した。やれやれ、終わった。

 

明日21日(日)の高弦分奏に持って行き、Iさん作業の後半分と併せて修正内容の確認をした上で、それをエキストラ用楽譜の原本とする。

私も参考資料として一式手元に持ちたいと思う。