naokichiオムニバス

68歳、ヴィオラ弾き。ビール大好き。毎日元気。

逸ノ城という力士の相撲について

逸ノ城。新入幕力士として、41年ぶりの金星、初土俵からの最速金星。
13日目終了時点で、白鵬と優勝争いのトップに並び、異例の割り崩しで、今日は直接対戦。

相撲ファンとして、逸ノ城の存在は、幕下付け出しでデビューした時点から、一応知ってはいたし、その後の成績、順調な出世ぶりも知っている。

ただ、彼の相撲を実際に観るようになったのは、新入幕の今場所から。

だから、逸ノ城という力士の相撲については、まだわからないところがあるのだが、現時点で感じるところを書いておく。

・相撲のパターンが一定でない。逸ノ城の相撲はこれ、という型はまだ見えない。

・左上手を取ると一番の強みを発揮するようだが、今場所これまで唯一の黒星である勢戦では、その左上手を取って、寄りの攻勢に出る中で、無用の上手投げを打って相手を呼び込んだのが敗因となった。基本通りの四つ相撲が身についているかどうか、まだわからない。

・立ち会いから攻め込んで勝負をつける、自分ペースの相撲が乏しい。相手の攻めをしのぎつつ、勝機を見いだす相撲が多い。

・相手の攻めをしのげるのも、その中で勝機を見いだすのも、この巨体あって、という要素が大きいが、とりわけ、腰の重さと腕力の強さが光る。特に腕力は、相手のまわしを切ったり、かいなを返したりするのに生きている。

・そんな巨体でありながら、立ち会いの変化もあるのは、従来の相撲の価値観(変化は小兵力士が勝ちを求めて行う策。あるいは上位力士に対しては失礼)からすれば望ましいことではないが、ものおじせずにそれをやるところに、規格外のメンタリティはあるかもしれない。

・少なくとも、逸ノ城の相撲には、精神的な落ち着きを感じる。相手の攻めをしのいで勝つパターンは、要するに後手にまわった受けの相撲であって、効率は悪いはずだが、常にあわてず、勝機をつかめる点は、非凡と言ってよいかもしれない。

・対稀勢の里戦では、2回の待ったの過程で変化を考え、対鶴竜戦では、最初から変化を決めていたというが、そうした割り切りも、新人離れしているのは確かだ。

・仮に変化相撲を批判して切って捨てるとしても、私が最もうなったのは、対豪栄道戦での左からの攻めで、これは、まともな相撲を通じて、フロックでなく力で新大関を破ったと評価できる内容だった。立ち会い、大関がすばやく自分充分の体勢を作った。おそらく豪栄道としては、考えに考えた相撲が取れたはずだ。しかし、逸ノ城は、右下手をがっちり取った上で、そこから自分で攻めることを考え、左をのぞかせた。豪栄道が、それを許さずに右をまきかえようとしたところを、すかさず出ての勝利だったわけだが、逸ノ城の左攻めがよほど強く、またまきかえに乗じて出たスピードが、大関にとっては予想外だったのだろうと思う。ここは、先に書いた、攻めに乏しい、という評価とは違う見方をせざるを得ないわけで、こんな相撲も取れる力士なのか、という驚きがあった。

・相撲が固まっていない、という見方も当然できるが、こういう相撲も取れれば、変化に来るかもしれない、となると、なかなか相手力士としては、立ち会いに迷う面も出てくる。

・昨日、NHK正面実況の吉田アナが、「新入幕力士をどう攻略するかという話になっている」と冗談交じりに言っていたが、確かにそういうところはある。昨日の鶴竜にせよ、横綱と新入幕だから、地力の差は歴然で、通じないだろう、という感じがしない。そう思わせるものが、逸ノ城にはある。横綱大関であっても、がっぷり四つに渡り合うのは避けたい。左を取らせず、半身にさせるのが得策か。あの巨体、腰の重さを崩すには、スピードが最も有効だろう。精神的な落ち着きが光る逸ノ城を、単に受けに回らせるだけではだめなので、何とかあわてさせる場面を作る、ということだろう。こう考えると、本当に「攻略」方法、というニュアンスになってくる。

これまで、長く相撲を観てきて、「度肝を抜く新人」は、たくさんいた。一発屋的に、その時限りの活躍に終わった力士も少なくない。
一方で、北の湖千代の富士貴花田(貴乃花)の新入幕場所は、散々な成績で、翌場所は十両に逆戻りしている。

逸ノ城が、今後、大関、あるいは横綱をうかがえる器であるのかどうか、それはまだわからない。

しかし、スター性、人気が先行気味の遠藤、充分な地力を感じさせる照ノ富士に加え、きわめて楽しみな若手が出てきたことは間違いない。

さて、ともかく、注目は今日の白鵬戦だ。
白鵬だけは、怪物と呼ばれるようになった、この新入幕力士を、完膚無きまでに退けてほしいと思うが、昨日豪栄道に負けたことの影響はどうだろう。