2週間前にネットであたって、残券僅か2枚というすべりこみで入手したチケットである。
ポリーニの来日公演の広告があった。
食べに入ろうと思っていた米楽も閉まっていたので、え、ここも閉店しちゃったの? と思ったら、厨房設備の故障による臨時休業だった。
さて、どこへ。
結局、スープ・ストックで食べた。満席だったので、外のテーブルで食べたけど、今日はすごく暖かかったからよかった。
会場時刻も過ぎ、ホールへ。
プログラム冊子の表紙。充実した内容のプログラムだ。1,500円。
●東芝グランドコンサート35周年特別企画
日 時 2016年2月13日(土) 13:30開場 14:00開演
会 場 サントリーホール
指揮・ピアノ ダニエル・バレンボイム
管弦楽 シュターツカペレ・ベルリン(ベルリン国立歌劇場管弦楽団)
曲 目 モーツァルト ピアノ協奏曲第26番ニ長調「戴冠式」
ブルックナー 交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
会 場 サントリーホール
指揮・ピアノ ダニエル・バレンボイム
管弦楽 シュターツカペレ・ベルリン(ベルリン国立歌劇場管弦楽団)
曲 目 モーツァルト ピアノ協奏曲第26番ニ長調「戴冠式」
ブルックナー 交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
楽員がステージに登場すると、客席から拍手。楽員は、自分の席に到達しても座らずに、客席方向に向かって立ったまま。最後にコンミスが入場してきて、客席に一礼したところで、全員が着席した。
モーツァルトの弦は、10・8・6・4・3の編成。対向配置だった。
バレンボイムのピアノは、水っぽい音という第一印象。休憩時の妻の話では、ペダルを使い過ぎとのこと。
聞こえてくる音はそんな感じだが、打鍵自体は大変クリアで、力強いものであると思えた。
音の聞こえ方は、ホールの大きさ、座った席の位置のせいかもしれない。また、スタインウェイの蓋は完全に外してあったので、その影響もあったのだろうか。
2楽章。平明きわまりない音楽だが、凜とした空気(しかし冷たいわけではない)がピアノのまわりに凝縮していたように感じられた。
3楽章は、手の内に入った演奏。融通無碍というか、自由闊達というか、非常に自在なピアノと感じた。
この楽章の終わり近くで、主題が戻ってくるところで、2楽章のテーマの断片が回想されるように演奏された。楽譜を確認していないので、はっきりとは言えないが、カデンツァではない場所だった。楽譜にはないアドリブだっただろうか。
コンチェルト全曲を通じて、場面場面で、時に木管、時に低弦と、オケのパートのきわだたせ方が素晴らしかった。
休憩後、後半は、ブルックナーの4番。
この曲を実演で聴くのは初めてだ。3年前に、自分でも弾いた曲でもあり、大変楽しみに聴いた。
コンチェルトでは、広々と感じられたステージが、ブルックナーでは、ところ狭しと椅子が並べられる。
弦は16型だった。
バレンボイムは、今度は指揮棒を持って登場。拍を常に几帳面に振る、という指揮ぶりではない。時には、まったく指揮をせずにオケにまかせる場面もあった。
その点、2楽章にも2回出てくるヴィオラのソリは、とてもよかった。また、この楽章の「逍遥」の雰囲気は、本当にこたえられないと感じた。
楽章間で客席が咳で包まれるのは、別に珍しいことではないが、今日の3楽章の後の咳はものすごかった。そんなに我慢してたのか? と言いたくなる。
4楽章は、一つギアが上がった感じで、実にダイナミックな力演だった。
この中で、バレンボイムについては、毀誉褒貶が分かれている。70年代、バレンボイムを絶賛していた宇野氏は、今や彼をまったく評価していない。一方、中野氏、福島氏は評価している(福島氏は、最初は批判的だったが評価を変えた)。
初めて実演で聴く、このオーケストラの音は、はたしてどうだろう、と思っていた。
私には、古き佳き時代のドイツの音、というものが明確にイメージできないので、何とも言えないが、金管が存分に活躍するブルックナーであっても、金管が突出することはなく、金ピカ、テカテカとしたサウンドにはならない。オケ全体が、ほどよい節度を保ちつつ、しかし、力感は充分にある、という印象だった。
先月聴いた、ムーティ=シカゴ響と比較すると、シカゴ響の方が、機能的なオケだったと思う。ただ、シカゴ響が、アメリカのオケだから、金ピカだったかというとそうではなく、むしろしっとりとした落ち着きを感じた記憶がある。つまるところ、アメリカ的、ドイツ的、という色分けは、両オケを聴いて、私には感じられなかった。
話は戻って、4楽章のコーダ、練習記号で言うとVからは、ヴァイオリンが6連符のリズムを強調したのが耳についた。帰宅後、この日の演奏で使われた、ノヴァーク版(1878/80)のスコアを見ると、ヴァイオリンもヴィオラも、ここはトレモロの刻みになっている。しかし、ステージ上では、ヴァイオリンが、1小節6つの音符にアクセントをつけているように聞こえたし、全員ではないが、刻まずに弾いている楽員もいたように見えた。
そのことが気になったからでもあるが、ここから曲尾に向けての長いクレシェンド、気持ち的には、音楽の歩みにぴったり寄り添いつつ聴けたとは言えなかった。こういうタイプの、徐々に盛り上がって行く音楽って、聴いている自分のテンションを合わせていくのが、結構難しいものだ。今日は、少々失敗した。
それはともかく、最後の音がホール内に響いて、消えていくまで、拍手もブラボーの声も出なかったのは、とてもよかった。
ブルックナーの4番を初めて実演で聴けてよかった。また、対向配置で演奏してくれたおかげで、その面白さも味わうことができた。
しかし、この曲を実際に演奏したんだなあ、と何度も思った。もう一度演奏したいか、と言われると、ちょっとためらうものがあるが、こんな曲を演奏できたんだ、いい経験だった、とは改めて思った。
アンコールはなかった。まあ、そうだろうな。浦安の時も、我々にしては珍しくアンコールなしにしたし。
数え切れないくらい、何度もカーテンコールが繰り返された。
やっと楽員が退場し始めたので、席を立ったが、一部のお客さんが拍手を続けていて、最後にバレンボイムだけがステージに出てきた。
しかし、普通、外来オケと言うと、せいぜい3~4種類のプログラムを持って歩く形だが、今回は、コンチェルト6曲、シンフォニー9曲で、9種類のプログラムだ。指揮者・ソリストも、オケも大変だろう。
とにかく、めったに聴けないものを聴くことができてよかった。