9日(土)、札幌で行われたユーミンのツアー「深海の街」を聴きに行った。
アルバム「深海の街」は、2020年12月に発売された。アルバム名をタイトルとするこのツアーは、2021年9月に横須賀で始まり、今年7月の神戸までの63公演という大規模なものだ。
アルバムに、先行予約のシリアルナンバーが入っていたので、ツアースケジュールを見ながらどこへ行くか妻と相談し、札幌を選んでチケットを入手した。
ユーミンのライブは、2019年3月に日本武道館での「TIME MACHINE」ツアー以来だ。
●松任谷由実 コンサートツアー 深海の街
日 時 2022年4月9日(土) 17:30開場 18:30開演
会 場 札幌文化芸術劇場hitaru
札幌文化芸術劇場に来るのは2回目。ここでは昨年4月に葉加瀬太郎のオーケストラコンサートを聴いている。
電子チケットでの入場。我々の席は1階1-21列29・30番。
1階席ではあるが、ビルの5階である。
入場に際して、ツアーグッズのチラシと一緒にフェイスシールドが配られた。これを組み立てて装着して下さい、というのだ。
最近のコンサートでは、マスクの着用は当然求められるが、このようなものを配って着けさせるのは初めてだ。
フェイスシールドにはツアーのロゴが入っているし、ユーミン側(主催者側)としての措置だろう。
当然全員がマスクを着用しているわけだが、その上にフェイスシールドをすることに、実際問題どの程度の意味があるのか、ちょっとわからないところもある。
開演前の場内アナウンスでは、「声援は良識の範囲でお願いします」という趣旨のことが言われていた。昨今、クラシックのコンサートでは「「ブラボー」などの掛け声は控えて下さい」というようなアナウンスがされるのが普通だが、声出しをある程度認めるアナウンスは初めて聞いた。
さて、ステージ上は潜水艦の中を思わせるようなセット。
場内にはチェンバロで奏でられるバロック風の音楽が流れている。
18:33、ほぼ定刻に開演。
セットリストはこちら。
翳りゆく部屋
グレイス・スリックの肖像
1920
ノートルダム
深海の街
カンナ8号線
ずっとそばに
What to do ? waa woo
知らないどうし
(MC)
あなたと 私と
REBORN~太陽よ止まって
(MC)
散りてなお
雨の街を
ひこうき雲
NIKE~The goddess of victory
LATE SUMMER LAKE
Hello,my friend
ANNIVERSARY
水の影
[アンコール①]
青い船で
(MC) メンバー紹介
空と海の輝きに向けて
[アンコール②]
(MC)
二人のパイレーツ
本編19曲、アンコール3曲、計22曲。
アルバム「深海の街」からは全12曲中9曲が歌われた。
買い求めたツアーパンフレットに、ステージセット、映像、照明、衣装、振付の解説が書かれていて、帰宅してから読んだのだが、最も興味深かったのは選曲について。
ツアーの選曲は、プロデューサーが行うのだそうだ。ユーミン本人が曲を挙げることは、通常1~2曲しかなく、今回のツアーでは1曲も挙げなかったらしい。これにはちょっと驚いた。
開演前のチェンバロの音楽を引き継ぐように、キーボードがオルガンの音色でc-mollの音楽を奏で、それが「翳りゆく部屋」のイントロに流れ込んだ。
この曲、オリジナルはA-durだが、キーを下げてF-Durで演奏された。
かなりの聴衆が、2曲目の「グレイス・スリックの肖像」から立った。
以後、そろそろMCが入るかな、と曲が終わるたびに思ったのだが、それがなく、一気に9曲が立て続けに演奏された。
やっと入った最初のMC、事前に読んでいたアルバムに関するインタビューでは、コロナ禍にあっての様々な思いが語られていたので、そういう話があるかと思ったが、それはなく、短い挨拶だけで次の曲へ。
全体に、パワフルな曲が多く、ロック系のステージという印象。そんな中に配置された「雨の街を」や「ANNIVERSARY」など、往年のバラードが大変染みた。
「雨の街を」を聴きながら、さっきの短かったMCを振り返って、ふとこんなことを思った。
事前に読んだインタビューにあるような、コロナ禍に対するユーミンの思い、アルバムを作ろうと思い立っての制作過程でのあれこれの思い。
アーティスト側には本当に色々な思いがあったはずだが、改めて考えてみると、そうした思いのすべては、我々聴衆に対して語りきれる、伝えきれるものではないのだろう。
そもそもそういうものなのだ。伝えきれないし、聴衆側も受け取りきれない。
結果としてできあがった個々の楽曲(そしてその集合体としてのアルバム)という、「作品」を通じて、ユーミンと我々は基本的につながっている。
アーティストは、言葉で語り切れぬものを楽曲に詰め込んで、後はその楽曲を通じて伝えていくしかない。いかに天才ユーミンと言えども、そこから先、それがどれだけ伝わるか、届くかは、聴衆側にゆだねるしかない。
単に「この曲、好き」「あんまり好きじゃない」といった感じでとらえられることもあるだろう。それにそもそも、ユーミンに関心のない人は、彼女の楽曲を聴くことさえしないわけだし。
音楽に限らず、作る側と聴く側には、そうした埋まらぬ距離があるのだ、と思った。
そして、それは人と人との関係や営みのすべてに言えることかもしれない、と。
あっと言う間に時間は過ぎ、20:07、本編終了。
20:10、最初のアンコール。
「青い船で」を歌った後、メンバー紹介があった。「今日のクルーを紹介します」との言葉があったから、やはり船の乗組員というイメージでのステージだったのだろう。メンバーの服装も海兵隊風だった。
ここでのMCでは、ユーミンからコロナ禍にあってのアルバムやツアーに向けての思いが少し長めに語られた。
買い求めたツアーパンフレットにも、そうしたことが綴られているのを、帰ってから読んだ。
続く「空と海の輝きに向けて」が終わって、メンバーがステージ前面に集合して挨拶。
一旦全員がステージからはけた。20:23。
20:24、すぐユーミンと武部(聡志)さんだけが出てきて、「この曲で今日の物語を締めくくります」と、「二人のパイレーツ」が歌われた。
今回のステージは、全22曲、ユーミンはマイクを持ってのヴォーカルに専念。弾き語りはなかった。
20:33、終演。
前回、3年前の武道館の時は、同じ18:30開演で、終演は21時半前だった。それに比べると今回は1時間弱短い。曲数では、前回が28曲、今回が22曲だった。
規制退場の指示に従って席を立ったが、ホールを出るまでにフェイスシールドの回収箱は見当たらなかった。
さて、3年ぶりのユーミンのライブ。誠にすばらしかった。「すごかったねえ」と妻と話した。
圧倒されたパワフルなステージ。音響を電気的に増幅するバンドのサウンドに力感があったのは当然だが、それ以上に、ユーミン本人のパフォーマンスから伝わってくるものが大きい。ここで言うのは、耳に聴こえてくるヴォーカルももちろんだが、それよりも目で見て伝わってくるもののことだ。
1954年1月生まれの彼女は68歳。私より暦年だと1つ、学年で言うと2つ上だ。
68歳ですよ、68歳。歌もダンスも、そして容色の面でも、若い頃とまったく変わらず僅かの衰えも感じさせないことの驚き。いや、ほんとにすごい。
1980年代から90年代にかけて、ツアーのたびに足を運んでいた頃、例えば「LOVE WARS」の圧倒的なステージを観て、もう30代後半に入ったこの人は、いくつくらいまでこういう派手なライブができるんだろう、と思ったものだった。
そして、50代くらいになったら、さすがにこういうライブは無理だろうから、小さな会場で弾き語りのコンサートとかやって、長く活動してもらえるといいな、などと勝手なことを思っていた。
まったく的外れでしたね。これなら70になってもこの調子でツアーをやるんだろうな。恐れ入りました。
目で見て伝わってくるもの、と書いた。
ユーミンは自分のステージのことを「ショー」と呼ぶ。この日の舞台上での所作を見ていると、二千余りの聴衆、一人残らず全員の視線が自分に注がれることへの照れ、あるいは臆するところが微塵もない。むしろ、さあ私を見て、私だけを見て、という熱量が伝わってくる。
つくづく舞台人なんだなあ、と思う。芸人、という言葉があてはまるかもしれない。そうした点では葉加瀬太郎さんと通ずるものを感じる。
さてこういうステージにふれると、やはりもう1回観たい、と当然思う。
実はこのツアーの最終日、7月9日(土)の神戸公演のチケットは現時点で確保できているのだが、同日の札幌で行われる小田(和正)さんのライブのチケットがその後抽選に当たり、そちらに行くことにした。神戸のユーミンのチケットは、主催者のトレード制度を通じて手放す予定。現時点でチケットが販売されている他の公演を改めて調べてみたが、どれもスケジュールが合わない。残念。
次のツアーを待とう。
※演出面の詳細な記録もついているセットリストがある。
https://yuming-kobe.com/21tour/2021tour_setlist.html