３月場所13日目

鶴竜は低く当たって右から栃乃洋の左をおっつけ、右上手をとって出し投げで崩し、正面に寄った。
いい流れの相撲だったが、栃乃洋も左差し手で相撲をとる力士なので、その差し手を突きつけてついていった。鶴竜も腰が崩れそうになったが、栃乃洋が一瞬先に落ちた。
鶴竜は勝ち越し。

８勝４敗同士の安美錦と若の里は、過去若の里の７戦７勝と意外な対戦成績。
安美錦は左四つから上手をとって頭をつけて食い下がり、若の里に両まわしを与えない。一旦切られた上手もまた取り直し、何とかこの対戦初勝利を、という気持ちが伝わってきた。
しかしやはりあいくちの悪さか、その格好から若の里の肩すかしに落ちてしまった。

２敗の一角栃煌山に露鵬は、右相四つの対戦。
昨日までの栃煌山の相撲があまりにすばらしかったので、この一番にも大いに期待したのだが、露鵬が思い通りの相撲をとった。
立ち合い左から張って横を向かせ、左上手をとってすぐに上手投げで崩して寄った。
栃煌山は今日は左右ともまわしに手がかからぬまま土俵を割った。
栃煌山は、前に出ようという場面を作れなかった。
露鵬に、そうはいかんぞという気持ちがあったのだろう。

３敗の黒海と豊ノ島は、豊ノ島会心の相撲。
立ち合いすぱっと二本入り、いっぺんに出てわたしこんだ。
黒海は半端な立ち合い。向正面舞の海指摘のように、頭から当たってかちあげるべきだっただろう。
豊ノ島は初の上位挑戦で７勝６敗。勝ち越しが見えてきた。

時天空と高見盛は、時天空が徹底して突き、組まれるのを嫌った。やや張りすぎでえげつない感じもあったが、ともかくこれで高見盛の顎が上がった。吊り屋根カメラからのリプレイがあったが、カメラの方をまともに向いてしまっている。
いくら突かれても、もっと顎を引かなければ。
時天空がその後引きをみせたが、高見盛も後手にまわっていたので、体勢を立て直せない。時天空がうまく入っての切り返し。
両者７勝６敗。時天空も新三役での勝ち越しが見えてきた。

安馬が、過去６戦６勝の豪風に勝って三役で初の勝ち越し。
今日の安馬は、頭で当たらずにすぐ引いた。以後もばたばたした動き。勝ち越しへの意識があったか。
最後ははたいて勝ったものの、ちょっと内容はよくなかった。

琴奨菊に普天王は、琴奨菊の左差しが速く、右からおっつけてのがぶり寄り。
本当に持ち直した。４連勝で５勝８敗。前半とは別人のようだ。腰がよほど回復したのだろう。

昨日栃煌山に悔しい負け方をした豊真将が、かつての柏戸、千代の富士を思い出させる目のさめるような相撲で、琴光喜に完勝。
低い立ち合いで当たり負けず、接触した瞬間に左前まわしをとり、引きつけて一気に走った。
本当に攻めの相撲が身についてきた今場所だが、ましてこういう破壊力のある出足が毎日出るようだと、少なくとも三役定着は望める。
とりあえずあと２日で２ケタには乗せてもらいたいところだ。
本当は、琴光喜の方がこういう相撲をとらないといけないのだが。これで８勝５敗。またまた後半負けが混んで、２ケタが危うくなってきた。

さて１敗の白鵬は千代大海との対戦。まあ、今の状態ならば、千代大海が突いても下がることはあるまいと思ったが、なかなか立ち合いが合わない。最初は千代大海が作戦的にやっているかと思われたが、結局は白鵬の方が堅くなっていたようだ。
４回目でやっと立ったが、白鵬の立ち合いは乱れた。右足が流れ、踏み込みもない。
しかし、悲しいかな千代大海もそこをついて攻め込むことができない。
押し込まれて、やや苦しまぎれの白鵬のはたきに落ちた。
明日の朝青龍との直接対決に向けて、今日は絶対落とせないという意識が強かったのだろう。
明日の一番に、弾みがつくという内容ではなかったので、これをひきずらなければいいと思うが、まあ、今日とは違って、チャレンジャーの気持ちで思い切ってとれるだろう。

５勝７敗同士、魁皇と稀勢の里は、魁皇が勝ってふみとどまった。
当然に左四つでの相撲とはなったが、攻め込んだのは魁皇。稀勢の里も一旦上手はとったが、そこから前に出られない。
浅くもろ差しの魁皇が、攻めきった形だが、内容としては、両者とも今一つ。
それにしても、大して好調でもない大関に、気鋭の若手が終始攻められっぱなしというのは情けない。
逆にならなければ。
稀勢の里の攻めの弱さがこのところ気になっているが、今日も、当たりは弱いし、前に出られない。基本的に下がるだけの相撲には、本当に首をかしげてしまう。どこか悪いのか。

朝青龍に琴欧洲は、琴欧洲がやはり通じなかったかという相撲。
琴欧洲も思い切って低く当たり、立ち合いが高かった朝青龍をぐらつかせた。ここで左右からすくうように二本差すチャンスがあったと思うが、琴欧洲の足の運びがばたばたしていて余裕がない。
横綱にいなされ、後は押し込まれて何もできなかった。
琴欧洲に余裕がなかったという印象。もっと落ち着いて、相手をよく見てしっかり動ければ勝機はあったと思うのだが、基本的にどうも横綱に対する苦手意識あるいはコンプレックスがあるのではないか。
一方の横綱だが、今日はあまりいい内容ではなかった。相手の動きに対応したという感じの相撲であって、自分のペースで動いて勝ったものではない。
朝青龍も、明日の白鵬戦に向けて、負けられないという意識が強かったのか。
勝負が決まった後、ひじを気にしていた。懸賞金を受けてもひじをまっすぐ伸ばさずに土俵を下りた。
明日にひびくものでなければいいが。

１敗　白鵬
２敗　朝青龍

これで優勝争いは２人に絞られた。
明日の直接対戦に向けて、両者今一つの相撲だったのは残念だが、ここ３場所の優勝争いを思うと、盛り上がる展開になったことは何よりだ。
どちらが勝つにせよ、両者思い切ってぶつかって、いい相撲をとってもらいたい。
予想としては、今場所の内容から見て、白鵬が若干有利。明日優勝を決める可能性が60％くらいだろう。
ただ、こうした場合の横綱の気力、執念はすごいものがあるので、白鵬が気持ちの面で負けないことが必要だ。
両者並んだ場合、優勝決定戦の可能性が高いが、そうなると予断を許さなくなる。この展開で白鵬が優勝を逃した場合は、結構来場所以降に大きな影響が残ると思う。
当面の角界のためには、今場所白鵬が優勝することが、どうしても必要だと個人的には思う。

それにしても、関脇、小結が健闘し、豊ノ島、豊真将、黒海、玉乃島など、元気者が多い今場所、大関が物足りないのが残念だ。
千代大海、琴欧洲がこれで７勝６敗。魁皇は６勝７敗。栃東は勝ち越しながら休場。
５人もいるので、全員が常時２ケタ勝つのは難しいが、やはり優勝争いに大関から最低２人は顔を出してもらいたいものだ。今場所の大関は序盤から負けすぎた。