会社から帰って、風呂に入る時、浴室に置いてある防滴タイプのラジオをつけるのが習慣だ。
プロ野球を聞くこともあれば、20時台はFMでクラシックをやっているので、それを聴くことも多い。
そのクラシック番組は、特にジャンルを固定しておらず、その時々で、さまざまなものを流している。
オーケストラの場合もあれば、ピアノ独奏の場合もある。
オーケストラの場合もあれば、ピアノ独奏の場合もある。
だから、スイッチを入れたら、ちょうど聴きたいと思っていた「悲愴」をやっていた、なんて嬉しい偶然がある一方、知らない曲で、この曲、何? みたいなこともある。
こういう番組ででもなければ聴かないだろう、なじみのない曲、なじみのないジャンルの曲にぶつかると、むしろ貴重な機会と思ったりもする。
さて、今日。
湯船につかってラジオをつけたら、オルガンの音。独奏だ。
確信はないが、たぶんバッハ。
確信はないが、たぶんバッハ。
聴きながら、バッハのオルガン曲というのは、こういう形でなかったら、自分から進んで聴くことはたぶん死ぬまでないだろうな、と思った。
そういう曲、そういうジャンルってあるよね。
自分で、わざわざレコードを買ってきて、あるいはテレビやラジオの番組表でさがして、聴くことはないだろう、という音楽。
クラシック音楽を聴き始めた高校から大学の頃、レコードを買い集めるにあたっては、レパートリー主義的な買い方をしている友人が多かった。私自身もそうだった。
また、私も、ある時期には、当時夭折したデヴィッド・マンロウの演奏を中心に、中世ルネサンス音楽のレコードばかり集めたり、また別の時期には、ロマン派のピアノ独奏曲ばかり集めたりしたことがある。
レファレンス的な意味で、どんな曲でも自分のレコード棚に揃っている、という姿が、当時から今に至る、40年以上のレコードコレクター人生の基本にある。
そうしたレファレンスの、どの曲もが、自分にとっての「常食」であるわけではない。
その一方で、そこまでの存在ではないながらも、ある間隔を置いてだが、定期的に聴きたくなる音楽もある。
喩えるなら、クセのあるエスニック料理だとか、身体にいいとされる薬膳料理などのようなものだ。
自分の根源的な好みからは離れていながらも、別の本能や欲求にかられて時々食べたくなるのが前者。
たまにはこういうものも食べておいた方がいいな、など別の価値判断や心がけ的なものによって、食べるのが後者だ。
喩えるなら、クセのあるエスニック料理だとか、身体にいいとされる薬膳料理などのようなものだ。
自分の根源的な好みからは離れていながらも、別の本能や欲求にかられて時々食べたくなるのが前者。
たまにはこういうものも食べておいた方がいいな、など別の価値判断や心がけ的なものによって、食べるのが後者だ。
で、冒頭の話に戻るのだが、わざわざ進んで聴かないジャンル、というのは、そうしたレベルにも入ってこない音楽のことだ。
しかし、同じバッハでも、オルガンはなあ・・・。まあ、要らないなあ、と、風呂の中で思ったのだった。
再び学生時代の話になるが、大学オケの親友で、ヴァイオリン弾きのMと、アパートの自室で音楽談義をしていた時、Mが「リートってのは、結局最後まで残るんだろうな」と、ぽつりと言ったことがある。
Mが言いたかったのは、これから先、長い人生の間に、色々なジャンルの曲を知りたい、聴きたいが、それでも最後まで手がつかずに残りそうなのは、リートではないか、ということだったと思う。
Mは、私をオペラの道に引き入れてくれたオペラ通だったので、クラシックの声楽が嫌いなわけではなかった。
ただ、同じ声楽でも、独唱とピアノ、というリートの様式が、いかにも遠いものに思えていたのだろう。
私も同感だった。
ただ、同じ声楽でも、独唱とピアノ、というリートの様式が、いかにも遠いものに思えていたのだろう。
私も同感だった。
あれから40年近くが過ぎ、人生の残り時間も意識するようになってきたが、それでも私はいまだリートに手を出そうという気にはなっていない。
マーラーやR.シュトラウスの、オーケストラ伴奏の歌曲は、聴くことがあるが、歌とピアノの形のものは、依然として未知の領域だ。
マーラーやR.シュトラウスの、オーケストラ伴奏の歌曲は、聴くことがあるが、歌とピアノの形のものは、依然として未知の領域だ。
この点では、大学時代の我々の会話は先見の明(?)があったことになる。Mが今でもリートを遠ざけているか、既に足を踏み入れて知悉しているかは知らないのだが。
これまで親しむ機会に恵まれなかった音楽でも、これからの人生で、チャレンジしてみたい、知らずに死ぬのはもったいない、と思うものはある。
その逆に、風呂の中でバッハのオルガン曲に感じたように、別にこの先、聴かずに終わってもかまわない、という音楽は何だろう。
改めてざっと思いめぐらしてみた。
時代で言えば、バロック以前の大方の音楽。
ジャンルで言うと、やはりリート全般。
手元の、名曲名盤選びの本などに列挙されている、いわゆる名曲の類を対象とすると、そんなところか。
とは言え、この歳になっても、未知の音楽にふれる楽しみがまだ残っているのは貴重なことだ。
そんなことは言わずに、まだまだ未踏の領域にチャレンジしてみるべきなのかもしれない。