naokichiオムニバス

68歳、ヴィオラ弾き。ビール大好き。毎日元気。

「レコード芸術」創刊800号

レコード芸術」の最新号、5月号が、創刊800号ということで、「「レコード芸術」の過去・現在・未来」と称する記念特集を組んだ。

イメージ 1


1852年、昭和27年3月が創刊で、今回の号には、別冊付録として、その創刊号の完全復刻版がついている。

イメージ 2


私が、クラシック音楽を聴き始めたのが、高校1年の秋。1971年のことだった。

そして、「レコ芸」を毎号買うようになったのは、翌1972年の1月号からだ。当時は、表紙が新譜レコードのジャケット写真で、この号の表紙は、カラヤンドレスデンの「マイスタージンガー」のジャケットだったと記憶する。

以後、今日まで欠かさずに買ってきた。

バックナンバーがほしくなって、高校卒業間際に、「読者のページ」を通じて、1968年1月号から1971年12月号までの号を入手した。1968年1月号から最新号までは、自宅もしくは木更津の実家に揃っている。

今回の号のグラビアを見ると、1967年12月号が、通巻200号となっているので、私が持っている中で一番古い1968年1月号は、通巻201号。つまり、「レコ芸」800号の内、4分の3を所持していることになる。

レコ芸」については、これまでもたびたびふれてきたが、なかなか簡単には語り尽くせないものがある。

主に、大学時代から、社会人になって、30代くらいまでが、一番没頭した時期だろうか。

大学時代、親しくしていたオケ仲間の友人たちは、みんな「レコ芸」を読んでいた。

レコードが、今に比べれば高価だった時代、貧乏学生にとっては、そうそう何枚も贅沢に買えない中、「レコ芸」に載る批評は、大切な道しるべだった。

誰かが買った新しいレコードを、友人たちで集まって聴き、欲しくなれば自分も買う、お互いにそんなふうにしていた記憶がある。また、そうした時には、「レコ芸」の月評も併せて話題にして、批評に賛同する、いや、この評にはだまされた、などと、語り合ったものだ。

大学の頃は暇だったことも手伝って、月刊誌である「レコ芸」の最新号は、次号が出るまでの1ヶ月、繰り返し繰り返し読んだものだ。

○年の○月号は、どういう表紙で、何のレコードが月評で推薦盤になっていた、などは憶えてしまった。

私の場合だと、交響曲の大木正興氏、管弦楽曲宇野功芳氏、オペラの髙崎保男氏あたりの月評だと、批評文自体を諳んじてしまうくらい読んだ。柴田南雄氏の連載なども同じだった。

ところで、「創刊×00号」の節目と言うと、これまで何度もあったし、そのたび特集が組まれてきたわけだが、私個人にとっては、1975年9月号、創刊300号の時のことが、突出して記憶にある。

たまたま、手近なところにその号があった。これである。

イメージ 3


大学2年生、20歳の時だ。

これは、「創刊×00号」としては、私が読み始めてから最初の節目号だったことが、強く印象に残る要因だった面もあると思うが、それ以上に、この1975年9月号の誌面構成の特異さが、突出した記憶につながっている。

この号、新譜月評と広告を除くすべてのページが、創刊300号の特集にあてられており、他の連載や定例企画は一切ないのだ。

「歩みと提言」と称する特集は、当時の重鎮、村田武雄氏(通常号でも、毎号「巻頭言」を書かれていた)の「300号の思い出」に始まり、吉田秀和氏の特別寄稿、また、レコード批評をめぐっての、当時の月評担当評論家の論考や座談会など。

また、創刊号、通巻100号、200号の抄録も載っている。

そして、後半、全体の3分の1程度のページ数が、創刊号からの総目次に費やされている。

400号以降の節目の号でも、こうした特別な誌面構成はなかったこともあり、この300号記念の特集が、いまだに強く記憶に残っているわけである。

ところで、誌面構成はさておき、この300号の特集号の内容の中で、一つ自分にとって印象に残ったのは、「推薦盤」「準推薦盤」についてである。

前記の通り、レコード批評をめぐって、当時の月評担当が自分の考えを述べているページがあるが、その中で、大木正興氏は、「本誌月評欄に推薦という表示が出はじめたのは、いつのころ、だれの発想によってだかは知らないが、(中略) 新譜評をそれ自体強く生きさせるためには、私の個人的な気持ではあれはあまり好ましいものではない。もっと正確に読者に受けとってもらえるものが、批評の文章のなかに、だれもが押しこめている」と記している。

また、髙崎保男氏も、「推薦盤、準推薦の表示制は、筆者にも読者にも百害あって一利ないもので、すみやかな廃止を望みたい」と書かれている。直接引用が長くなってしまうことは控えるが、趣旨としては、人は良友とのつきあいばかりで育つのでなく、悪友の影響も生長の糧になるのであり、推薦盤だけ聴いていればそれでよいものでない、とのことだった。

大学当時、前記の通り、あるレコードが、推薦盤になったかどうか、は、友人たちも含めて大きな関心事であり、その盤を買うかどうか判断する際の基準の一つだった。特に自分が熱心にその批評を読んでいた大木氏、髙崎氏がそう言われていることに、当惑した。

後年、鑑賞歴を積むに連れ、両氏の言われている意味が理解できるようになったが、「すみやかな廃止」を、と髙崎氏が提言されて既に41年余、いまだにそれは実現していない。

(1980年1月号から、複数批評がスタートした時に、準推薦は廃止されたが、その後復活)

昔話はさておき、今回の800号記念特集は、300号の時に比べれば、ボリューム的にも軽量な感はあるものの、創刊号の復刻版ともども、興味深く読んだ。

私も、さすがに若い頃とは違って、昨今は、会社帰りに書店で買って、電車の中でざっと読んだらそこまで、という感じになってきている。興味深い特集などは読み返すことがあるものの、あの頃のように、繰り返し穴が開くほどに読むことはなくなった。

それでも、「レコ芸」が、自分にとって大切な情報源であることに変わりはないので、おそらくこれからも、欠かさず買って行くことだろう。