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68歳、ヴィオラ弾き。ビール大好き。毎日元気。

5ヶ月ぶりの生の演奏会!~新日本フィルハーモニー交響楽団 ジェイド#621

2日(木)、サントリーホールに、新日本フィルの演奏会を聴きに行った。

 

前回、サントリーホールに来たのは、2月21日(金)。チョン・ミョンフン指揮東京フィルの「カルメン」。

 

生の演奏会としては、その翌日、2月22日(土)に、J:COM浦安音楽ホールで聴いた、イリーナ・メジューエワのリサイタルが最後だった。

 

サントリーホール、生の演奏会とも、約5ヶ月ぶりとなる。

 

いつものように溜池山王から歩いて行く途中、中止になった演奏会のポスターがそのままになっているのを見た。何だかせつないものがある。

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サントリーホールに到着。

   やってまいりました、サントリーホール
      https://naokichivla.hatenablog.com/entry/2020/07/02/183125

 

私にとって5ヶ月ぶりのこの演奏会は、6月に、活動再開に向けての試演を行った新日本フィルとしても、再始動となるものだったようだ。

 

●ジェイド<サントリーホール・シリーズ>#621

日 時 2020年7月2日(木) 18:00開場 19:00開演
会 場 サントリーホール
指 揮 下野竜也
管弦楽 新日本フィルハーモニー交響楽団
テューバ 佐藤和彦
曲 目 フィンジ 弦楽オーケストラのための前奏曲
    ヴォーン=ウィリアムズ テューバ協奏曲ヘ短調
    [ソリストアンコール] ヴォーン=ウィリアムズ イングランド民謡による6つの習作より第2曲 andante sostenuto
    ベートーヴェン 交響曲第6番ヘ長調「田園」
    [アンコール] J.S.バッハ(ストコフスキー編曲) 管弦楽組曲第3番ニ長調より「アリア」

 

当初の予定と、日時は変わっていないが、指揮者と曲目(前プロとメイン)が変更になっている。

 

ダンカン・ワードの指揮で、ブリテンの歌劇「ピーター・グライムズ」の「4つの海の間奏曲」、ホルストの「惑星」が演奏されることになっていたが、指揮が下野さんに代わり、曲目も、コンチェルト以外が差し替えとなった。

 

また、開場が、開演1時間前の18:00に変更された。密を避けるために入場を分散させようということだろうか。

 

この演奏会のことは、前から知っていたわけではなかったのだが、6月27日(土)の朝、浦安オケでいつもお世話になっている、チェロの桑田歩先生が、これに出演されるとツイートしていたのを目にした。桑田先生からチケット販売についてのメッセージもいただいたことから、急遽購入して聴きに行くことにしたのだった。

 

コロナ禍の演奏会開催ということで、普段とは色々と異なる対応だった。

 

まずホールへの入場からして、1階席に行く人、2階席に行く人とで、入口が違い、動線を分けている。

 

入場時の手指消毒はもちろんだが、サーモグラフィが置いてあって、入ってくる来場者が映し出されるモニターを、3人の係員がチェックしている。おそらく、熱のある人がいれば、そこで呼び止めるのだろう。

 

私の席は、2階LC4列3番。

 

2階に上がるエスカレーターの手前では、チケットを係員に見せた上で、自分で半券をちぎって箱に入れる。プログラム冊子も、積んであるものを、自分で取る。

 

2階の廊下。ここには、普段ならびっしりとポスターが貼られているのだが。

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ドリンクコーナーはクローズ。ホワイエのCD販売もなかった。

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うがいと手洗いをしてから、席へ。

 

客席は、見たところ、どのブロックも一つ置きに座らせている。一つ後ろの列は、前の列で空席となる席に座らせる形だ。座った前後左右が空席となる。市松模様のような形と言えばいいのか。

 

空席だらけに見えるが、ステージ裏の席も含めて、きれいにその市松模様に埋まっているので、たぶん、この方式での満席に近いのだろう。

 

前回来た、2月の時には、客席にはマスクをしていない人が結構いたものだが、今回は、さすがに全員がマスクだ。

 

ステージを見ると、弦の譜面台は1人1台。プルトを組む団員同士の間隔は、普通より長い。1メートルくらいだろうか。管楽器も同様だ。

 

場内アナウンスで、終演時は、密集を避けるため、規制退場とするので、席で待つようにとの話があった。

 

プログラム冊子に、メンバーの座席表が挟み込まれている。弦は12型(但しコントラバスは5人)。ゲストプレーヤーの桑田先生はトップだった。

 

開演時刻、各所の扉はどうなるのか、と思って見ていたら、普通通り閉められた。換気のための開放はなかった。

 

楽員が登場すると、客席からは熱い拍手。全員が着席しても、鳴りやまなかった。そんな中、コンマスの豊嶋(泰嗣)さんが登場。

 

指揮の下野さんが出てきて、豊嶋さんと握手。見ると、二人とも右手に白い手袋をしての握手だった。両者、その手袋を外してポケットにしまい、ちょっと間。

 

下野さんの腕がゆっくり動き、静まり返った会場を、フィンジが静かに満たした。

 

あー、生の音だ・・・。

 

フィンジのこの曲は、初めて聴くと思うが、知っている曲であろうとなかろうと、5ヶ月ぶりのオケの生音(弦だけだが)は、非常に心を揺さぶるものがあった。

 

曲目解説では、短調から長調に転ずると書かれていたが、長調になるのは、5分ほどの曲のほとんど最後だった。

 

続いて、ヴォーン=ウィリアムズのコンチェルト。ソリストは指揮者の上手側。外配置のヴィオラが下がってスペースを作った。やはり、低音楽器だからということだろうか。

 

このコンチェルトは、実演では初めてだが、録音では聴いたことがある。と言っても、ずいぶん久方ぶりだ。

 

1楽章が始まった瞬間、これ、大河ドラマのテーマ音楽? と思った。どこか和のテイストが感じられる。下野さんが、以前「真田丸」のテーマ音楽を指揮し、そればかりかドラマそのものにもちょっと出演したりしたので、そう思った面もある。

 

2楽章は、この作曲家の一面である牧歌的な音楽。

 

3楽章は、一転してバルトークあるいはショスタコーヴィチを想起させる、苦味のある音楽。

 

全体としては、テューバという楽器の特性もあいまって、普通コンチェルトにつきものの爽快感はあまりない。

 

コロナ禍での演奏会、さすがに、楽章間の咳がほとんど聞かれない。(ほんの少数、我慢しきれなかった人の控えめな咳はあったが)。かつての、楽章が終われば、堰を切ったようにゲホゲホゴホゴホと会場を満たした、あの咳は、ほぼ無用のものだったということか。

 

カーテンコールの際、下野さんが、「ブラボー!」と書かれたうちわを持ってきて、客席、ソリストに向けて掲げていた。

 

指揮者、ソリストは直接握手せず、エア握手のみ。

 

20分間の休憩。いつの間にやら、どんな演奏会の休憩も、最近は20分になった。

 

妻からの指示もあり、室内で過ごすのを避けて、表に出る。

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さて、メインの「田園」。

 

冒頭のFdurの響きが、何とも心にしみる。まあ、DdurでもCdurでも心にしみたかもしれないが、私には、このFdurが本当に響いた。

 

しばらくして、トランペット、トロンボーンティンパニが空席になっているのに気づいた。密を避けるために、出番までは入らないということかな、と思った。

 

それはさておき、この1楽章には、かつてこの曲から聴いたことがない清冽さを感じた。

 

2楽章は、速めのテンポ。澱まない川の流れが心地よい。

 

この楽章に限ったことではないが、ベートーヴェン木管の使い方のすばらしさを、改めて実感した。

 

この楽章が終わったところで、トランペットとティンパニの奏者が入場。

 

そして、4楽章に移って、嵐が爆発したところで、トロンボーンとピッコロが入場。

 

この楽章では、ティンパニの決然とした打ち込みが快かった。

 

嵐が去っての5楽章。楽章冒頭、普通よりも抑えた音量で、「神への感謝の気持ち」が静かに表された。しかし、こみあげる思いが抑えられない、といった風情で、すぐに、充実した力強い響きに転じた。

 

この楽章では、セカンド・ヴァイオリンが実に雄弁で、すばらしかった。

 

全曲の大詰め、豊饒のきわみ、というべき充実しきった感謝の歌から、静謐な祈りへ。すばらしいコーダだった。

 

最後の音が消えて、しばらく間があって、拍手。

 

ブラボーはなかった。よかった。

 

合唱を伴う大編成の「惑星」が難しいとなって、何故「田園」が選曲されたのかわからないが、多少のこじつけも含めて言えば、5楽章の標題である「感謝」だろうか。聞こえてくる音楽からは、奏でる人たちの演奏できることへの感謝が伝わってきたし、曲が終わっての聴衆の拍手にも、ふだんの演奏会とは比べものにならない、音楽を聴けたことへの感謝がこもっていた。

 

こうした状況下で決行された演奏会に、アンコールはないものと思っていたが、弦のみでバッハの「アリア」が演奏された。

 

これはまた泣かせる曲を、と思いながら聴いた。

 

原曲とは異なる編曲だったが、後で知ったところでは、ストコフスキー版だった。敢えてこの版で演奏したのは、何故なのだろう。

 

この曲でも、終わった後に、長い沈黙。

 

最後、指揮者とコンマスが、また白い手袋を着けての握手。

 

ステージからはける楽員が、近い人同士でエア握手をする姿が、そこここで見られた。

 

舞台が無人になってからも、拍手は鳴り止まない。しばらくして、ひときわ拍手が大きくなった。

 

私の席からは死角だったが、下手の端に、下野さんと豊嶋さんが出てきたようだった(後に、新日本フィルTwitterに写真が載った)。

   ↓こちら
      https://twitter.com/newjapanphil/status/1278867897331249152

 

規制退場は、2階の聴衆から。

 

出口に、アンコールボードはなかった。これも密を避けるための措置だっただろうか。

 

特殊な状況下だからだろうが、聴けてよかったと本当に思った演奏会だった。

 

桑田先生のツイートがなかったら、この幸せな時間はなかった。本当にありがとうございました。

 

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