3月2日(水)、「タケミツメモリアル」の呼称を持つ東京オペラシティコンサートホールへ、オール武満徹プログラムの演奏会を聴きに行った。
ホールのホワイエには、武満氏のポートレートが飾られている。
●武満 徹 弧[アーク]
日 時 2022年3月2日(水) 18:20開場 19:00開演
会 場 東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
指 揮 カーチュン・ウォン
ピアノ 高橋アキ
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
曲 目 武満 徹 地平線のドーリア
武満 徹 ア・ウェイ・ア・ローンⅡ
武満 徹 弦楽のためのレクイエム
武満 徹 弧(アーク) 第1部
武満 徹 弧(アーク) 第2部
私の席は2階C2列9番。2階中央の前から2列目だったが、前の席に池辺晋一郎氏が座っておられた。この1列目は音楽業界の方々の席のようだった。
2週間前に、このホールで諏訪内晶子さんとN響の演奏会を聴いたが、その時よりもお客さんの入りは良いように思われた。武満ファンというのは多いんだ。
プログラム冊子から。
「指揮者の希望により、当初発表の曲順から一部変更となりました」との記載がある。フライヤーと見比べてみると、なるほど、2曲目と3曲目が入れ替わっている。
最初の「地平線のドーリア」は17の弦楽器のための作品だが、ステージ上には、この曲に使わない楽器や椅子がまわりの壁に寄せて置かれている。
譜面台はプルトに1台。最近はどこのプロオケもこの形に戻している。
弦楽器のマスク着用は任意。
プログラムの前半は、弦楽器のみの曲が並んだが、聴かれる響きはずいぶん異なる。
「地平線・・・」に比べると、「ア・ウェイ・ア・ローンⅡ」はずいぶんと豊穣な感じがする。しっとりとした響きだ。
そして「弦楽のためのレクイエム」は、また色合い、温度が違う。この曲はひんやりと冷たい。
私の場合、武満作品に限らず現代曲ではいつもそうだが、曲がどのように進むかをおぼえているわけではない(メロディや形式がつかめない)ので、響きに身をゆだねる感じになる。そういう聴き方だ。
指揮のカーチュン・ウォンは、1曲終わるたびに、譜面台に置いていた楽譜を客席に向かって掲げるような動作をした。作曲者への敬意を表現する意図なのだろう。
休憩の後、メインの「弧」。管や打楽器を含むオケとピアノ独奏の曲である。
プログラム冊子の解説によると、楽器編成が第1部と第2部で大幅に変わることや、図形楽譜が用いられることなどから、演奏回数が少ないそうで、今回は実演で聴けるめったにない機会となった。
それに加えてもう一つ。この曲の図形楽譜、「ピアニストのためのクロッシング」は、これまで実際に演奏された記録がなく、過去の演奏に際しては武満徹自身の指示で「ピアニストのためのコロナ」が用いられたのだそうだ。今回、ソリストの高橋アキさんが、自宅で「クロッシング」の楽譜を発見、この本来の楽譜で「弧」が演奏されるのは、世界初とのこと。この点でも誠に貴重な機会だった。
独奏ピアノは、通常のコンチェルトだと指揮者の背後に置かれるが、今回はそうでなく指揮者の前に配置された。
オケのチューニングで、ピアノからAの音をとらなかったのは珍しく感じた。
指揮者は途中でタブレットを用いて指揮をしていた。速度を管理するためのようだったが、作曲当時はこのような道具はなかっただろう。今日の技術を取り入れての演奏と言える。
1曲目は万華鏡のように多彩な響き。2曲目は大変美しい音楽。3曲目は苦い。
第1部の3曲が終わったところで客席から拍手が出た。それが正しいのかどうかわからないが。
指揮者が図形楽譜を掲げて見せた。
ここで転換のため休憩となった。
第2部。
4曲目は勁(つよ)い音楽。5曲目は、流れてしぶきを上げる水を想起するような音楽だった。そして最後の6曲目はピアノが加わらない弦楽器だけの音楽。第1部が弦で始まり、最後、弦に回帰して美しく静かに終わった。「弧」のタイトル通り。
思ってみれば、この演奏会全体が、弦で始まり弦で終わる形だった。
振り返れば、4曲(「弧」の第1部と第2部を別に数えると5曲)は、すべて静かに終わった。
そう言えば、武満作品で静かに終わらない曲ってあったっけ。
カーテンコールの際、指揮者が日本語で何かしゃべったが、2階席まではよく聞こえてこなかった。
アンコールはなし。
過去にもオール武満プロの演奏会は聴いているが、今回も独自の世界に浸ることができた。
何より「弧」の実演が聴けたことがありがたかった。