11日(木)、ちばマスターズオーケストラの練習を終えて、表参道に向かった。
マスミ・ロスタード先生のグループ・レッスンを受講するためである。
このレッスンのことを知ったのはまったくの偶然。年末に古澤(巖)さんの演奏会を聴きに銀座に行った時に山野楽器本店に立ち寄ったのだが、弦楽器売場脇のフライヤーのラックの中に、これがあったのをもらった。
「ロスタード氏が一番大切と考える、ヴィオラの構え方、姿勢、練習方法などについてグループ・レッスンを開催します」とある。
妻からも行ってみたらどうかと勧められ、申し込んでみたら、既に5人の定員は埋まっているが受講可との返事をもらった。
新小岩からJRで新橋まで乗り、銀座線に乗り換えて表参道へ。地上に出るともう暗い。めったに来ることのない場所なので、右も左もわからない。
持ってきた地図をたよりに、レッスン場所の表参道クラシックスペースをさがして歩き、無事到着。
秋月ビルという建物の中にあるようだ。
かなり早めに着いてしまったので、隣のPRONTOで軽く夕食。
19時までに入ってくれと言われていたので、それに合わせて3階に上がった。
J:COM浦安音楽ホールのスタジオのような部屋にグランドピアノが置かれていて、その脇に既にロスタード先生が座っておられる。
先生を囲むように受講生が座る。男性3人、女性3人の6人。私が駆け込み申し込みの6人目になるが、見たところ最年長に間違いない。
スタッフ、取材の方が計4人。
スタッフのMさんという方が、ネットでの配信をしながら、ロスタード先生の英語のお話を通訳される形で進行した。
配信開始前に受講者の自己紹介。
私は、「68歳だが、会社をリタイアしたので、第2の人生はヴィオラを学び直したいと思って参加した」と話した。
レッスンスタート。配信も開始された。
「Today’s Topic」は、「アスリートとしてのヴィオラ弾き」。
すべてのスポーツには、それぞれ必要な身体の動きがある(先生は、走ること、クロスカントリースキー、柔道などを経験)。
サッカーなら重心を低く、足をひろげる。自転車ならコンパクトに身体を縮めて前に傾く。
これらの動きは「効率」が目的である。
「ヴィオラもスポーツ」である。身体全体で弾くことが大事。
楽器にさわって音を出す前に、身体のコンディション、体勢を整える。音を出すのは最後。
まず足から始まる。どう立つか。
ボクサーは手でなく足で打っている。パワーは足から生まれる。ヴィオラも同じ。
(ここで全員立つ。楽器はまだ持たない)
しっかり足で地面を感じること。
身体の中心、重さを、足でしっかり支える。
頭は、脳天から糸でぶら下げられているような感じ。
腕はただぶら下がっている感じ。
頭は前に下がらないように。下がると腕もひっぱられて下がってしまう。頭は常に上げていること。
腰から下、足は動かす。
左足は前、右足は後ろに引く(斜めに構える)。左右平行だと、例えば武術で攻められたとすればすぐに崩れてしまう。
斜めに足を構えた状態で、前後、左右に動く。
腰から下はロックせず、ロールする。
しかし、腰から上はまっすぐに立てたまま動かさない(免震構造の建物のように)。
腕はだらんとさせる。肩の存在を感じずに、腕の重さにまかせてただぶら下がっているようにする。
その重さのまま、腕の力を使わずに腕の重さにまかせて下から上へ振り上げる。
(一同、言われた動作を行って、一旦全員座る)
先生が、脇に置いてあった譜面台を持ち上げた。片手で持ち上げたり、腰を入れて両腕で持ち上げたり、いくつものアプローチをしてみせた。
どれが正解ということはないが、譜面台の重さを予測して準備することが大切だとのことだった。そこでは直感を信じることが大事だとも。
(では楽器を出してみましょう、ということになり、まず弓は持たず楽器だけを構える)
構える時は、こちらから楽器をとらえに行くのでなく、楽器にこっちに来させる。
顎当てを首ではさむ場所はここ、と示して下さり、楽器を乗せた肩がテーブルであるかのようでありたい、と。
構えた状態で、先ほど教わった、立ち方、身体の動かし方、腕の動かし方を試す。
次に弓を出し、ハ長調のスケールを、C線の最低音から2オクターブ上がって下がる形で、みんなで弾いた。ヴィブラートはかけて良いと言われた。
「ヴィオラは難しい」、「このパッセージは大変だ」、「4の指がきつい」、などは忘れること。
まず、音を想像すること。自分はこういう音を出したい、と。音を出すのは最後。
頭を前に下げないこと。上から楽器を押さえつけてしまってはいけない。
このパッセージは難しい、大変だ、と左の指や弓を持つ腕に力を入れてはいけない。力が入って縮こまっては、同じ音符を弾いてもますます大変になってしまう。
頭を上げて、身体全体で楽に弾くように。
次に、ニ長調のスケールを弾いてみましょう、と同様に2オクターブ。
ここでは、先生が、特にC線で、左の親指を少しずらしながら弾くことを示された。それによって、4の指がきゅうくつにならないということのようだった。
お話中心です、とは始まる前に言われていたが、楽器を取り出した時間はこれだけ。おそらく10分もなかったと思う。
1時間余りでの6人相手のレッスンなので、1対1で構え方やボウイングなど、具体的なアクションを伝授される場面はなかった。
最後に質問タイムとなり、緊張した時には息を吐くことが大事、などのやりとりがあった。
20時半過ぎ終了。
先生と写真を撮りたい方はどうぞ、とのことだったので、真っ先にツーショットを撮らせてもらって、会場を後にした。
何分、英語中心のレッスンだったので、私の語学力ではレッスン内容を充分理解できたとは言い難い。通訳付きと言っても、話を止めての通訳でなく同時通訳的な感じだったので、先生の英語とその日本語ともども想像を交えて聞いた。
受講者側は英語が堪能な人が多く、レッスン中も質問タイムも通訳を介さずに先生とやりとりされていて、こうでないといけないのか、と唇を噛む思いだった。
そうではあっても、理解できた範囲で、充分に収穫はあった。
昨年、Y先生の個人レッスンを受けた時にも言われたことだが、「脱力すること」は大切なのだ、と再認識。
オケ練でも時々指導者に指摘されることだが、難しいところを自分で難しくしていることがある。大変だ、大変だ、と力ばかり入って、右手も左手も動かなくなってしまっているようなケース。
今回のグループ・レッスンでは、まずは楽器を弾くにあたっての身体全体の体勢を教わったことで、だいぶ視野がひろがった気がする。
日頃オケでは椅子に座って弾いているが、今後、家で基礎練をやる時には立ってやってみようと思った。
先生が音を出される場面はほとんどなかったが、1619年クレモナ製アマティの音を、それでも僅かに聴くことができた。すごかった。
※表参道クラシックスペースWebサイト
※グループ・レッスン往復に聴いた音楽
デュ・プレ、バレンボイム
ネルソンス=ボストン響
ブラームス 二重協奏曲
ワーグナー 「トリスタンとイゾルデ」前奏曲と愛の死
ニルソン=クナッパーツブッシュ=ウィーン・フィル
ワフマニノフ ピアノ協奏曲第2番