naokichiオムニバス

66歳会社員。ヴィオラ弾き。ビール大好き。毎日元気。

「ポリーニの音」~初めて実演を聴いて

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23日(火)、マウリツィオ・ポリーニの実演に初めて接した。


日 時 2012年10月23日(火) 19:00開演
会 場 サントリーホール
曲 目 マンゾーニ Il Rumore del tempo-
            ヴィオラクラリネット、打楽器、ソプラノ、ピアノのための
     ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第21番ハ長調「ワルトシュタイン」
     ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第22番ヘ長調
     ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調「熱情」
演奏者 マンゾーニ ニコラス・ホッジス(ピアノ) クリストフ・デジャルダン(ヴィオラ)
             アラン・ダミアン(クラリネット) ダニエル・チャンポリーニ(打楽器)
             チョー・ジョー(ソプラノ)
     ベートーヴェン マウリツィオ・ポリーニ(ピアノ)

ポリーニは、私が学生の頃からずっと好きで聴いてきたピアニストだが、実演を聴いたことが一度もなかった。

頻繁に来日していることが却って災いし、いつか行こう、いつでも行ける、と思いつつ、今日まで来てしまった。

今年の来日公演は、ベートーヴェンが柱だし、この機会を逃さず行こう、と決意して2回分のチケットをとったのだ。

   ※関連の過去記事
       ポリーニを一度聴かなくちゃ
          http://blogs.yahoo.co.jp/naokichivla/58003189.html
       行きたかったのに~ポリーニ来日公演発売延期
          http://blogs.yahoo.co.jp/naokichivla/62963138.html
       ポリーニベートーヴェンが聴ける!
          http://blogs.yahoo.co.jp/naokichivla/63111667.html

今回の「ポリーニパースペクティブ2012」は、4回の公演で構成されるが、すべて、現代音楽とベートーヴェンソナタという組み合わせだ。

もちろん、ポリーニの企画によるもので、現代音楽は、マンゾーニ、シュトックハウゼンラッヘンマン、シャリーノの作品。委嘱作を含む。
そして、ベートーヴェンは、21番から32番までのソナタを4回に分けて番号順に。

私と妻が行くのは、この内、ベートーヴェンソナタで言うと、21番~23番の回と、30番~32番の回。

そういうプログラム構成だから、ホールに入ると、ステージにはピアノだけでなく、打楽器も置いてある。なるほど、今日はそういうことなんだ。ポリーニのソロリサイタルではないからね。

通常、演奏会で席を選ぶ時には、前の方は避けるのだが、今回ばかりは、初めて見る「生ポリーニ」であり、近くで見たい気持ちがあり、1階6列の6番・7番をチョイスした。

満席でないことに少々驚いた。2階などは空席が少なくない。ポリーニの演奏会で、サントリーホールが満席にならないとは。

初日の今回は、まずマンゾーニの作品から。日本初演とのこと。

左から、ピアノ、クラリネット、ソプラノ、ヴィオラ、打楽器という配置。

ソプラノとヴィオラのデュオから始まり、ピアノソロ、ソプラノと打楽器のデュオ、ピアノソロと進み、やがてトゥッティでの演奏。

25分ほどの作品だった。
私は、現代音楽を聴かないわけではないが、格別詳しいわけでもない。その私にとっては、「いかにも現代音楽だなあ」という音響に聞こえた。
ヴィオラやピアノを使って、「敢えてこういう音を出す」というような。
貧弱な感想ですみません・・・。

マンゾーニも客席に来ており、演奏後は演奏者ともども拍手を浴びていた。

当夜の来場客の中で、「ベートーヴェンよりもこの作品をこそ聴きたい」と思って足を運んだ人はどれくらいいるのだろう、と思った。

ポリーニ自身の企画であることを承知しつつ申し訳ない言い方になるが、私自身は、一つの演奏会として振り返った時、マンゾーニ作品とベートーヴェンの作品を組み合わせた、このプログラムビルディングについて、共感を持つのは難しかった。

休憩後、いよいよポリーニの登場。
再三申し訳ないが、当方の期待はここからである。

ポリーニというピアニストは、私が高校の時に視野に入ってきた。あのショパンエチュードのレコードだ。
この盤のリリースは、1973年5月。「レコード芸術」の小石忠男氏の月評は「玲瓏たるショパン」という見出しだった。
(国内リリースとしては、その半年ほど前に、ストラヴィンスキープロコフィエフが出ているが、その時点で関心を持った記憶がない)

私が初めて買ったポリーニのレコードは、ショパンのプレリュード。それから3年後、大学3年の時だった。

以後、40年近くもの間、録音ではずっと追いかけてきていながら、一度も実演にふれたことがなかった、というのは、考えてみれば、鑑賞のあり方としてはずいぶんいびつな話だ。

例えば、ポリーニとほぼ同時期に、私はグレープを知った。グレープ、さだまさしについては、レコード、ライブ、並行して接してきた。
それより数年遅れるが、オフコース小田和正についても同様だ。

早い話、耳ではさんざん聴いてきたポリーニその人を生で見るのが初めてであること。

その点の興奮がいささかあった。

客電が落ちた。ふだんの演奏会よりも舞台下手を見つめた。
ドアが開く。

「これがポリーニという人か」。
初めて見るポリーニは、既に70歳になっていた。

舞台奥のセリを、合唱団が乗るような形に上げ、舞台の照明は暗めな状態。
演奏が始まった。

聞こえてくるピアノの音に、少なからぬとまどいがあった。
録音で聴いていた音とずいぶん違うからだ。

「私の知っているポリーニの音」は、力強い打鍵による明晰なもの。重くはないが、しっとりとした深みがある。そんなイメージだ。

そういう音ではない。

録音と実演の違い、という、昔からさんざん論じられ、また自分でも考えてきた問題を、これほど痛切に感じさせられるとは。

今回聴いたポリーニのピアノは、ずいぶん柔和な音に感じられた。

これは、たぶん、「ポリーニがそう弾いている」という「弾き方」の問題ではなくて、「聞こえ方」の問題ではないだろうか。そう思いながら聴いた。
実際に鍵盤に向かっているポリーニが弾いている音楽は、きっと明晰なものなんだろう、と。

録音とは異なる実演会場の残響。
少なくとも、ポリーニがペダルをずいぶん多用していたのは事実だ。これは妻も言っていた。
ペダルによって響きが濁る場面も少なくなかった。

ともかく、「弾いている音楽がどうだったか」は別にして、「聞こえ方」、もっと言えば、私の席での聞こえ方としては、例えば「ワルトシュタイン」の両端楽章などの細かい音符は、いわゆる「団子」になって聞こえた。
こちらの耳で補って聴かないと、どういう音楽かわからない、という聞こえ方のところも多かった。

その「ワルトシュタイン」。
1楽章は、速いテンポ。
2楽章は、少しこちらの耳が慣れたことと、ゆっくりした楽章なので、明晰さもあり、非常に心地よく聴けた。
3楽章は、どちらかと言うとじっくりしたテンポ。全体にもやっとした印象。
曲全体を通して感じたことは、少なくとも「豪快な演奏」ではなかったな、と。

22番のソナタは大きなソナタ2つにはさまれたインテルメッツォ的な位置づけ、という先入観を持って聴き始めたが、さすがにポリーニ、と思った。この2楽章しかないソナタも、大ソナタに聞こえた。
1楽章は、心地よい速めのテンポ。
2楽章で、団子に聞こえる部分もあったが、21番よりはとてもよかったと思った。

そして、メインの「アパッショナータ」。
1楽章は速い。2楽章も速めのテンポ。
この作品については、前2曲に比べて音が明晰に感じられ、黙らされるものがあった。
ポリーニ自身、この曲が一番弾き慣れているというか、手に入っているということなのだろうか。とにかく力演だった。
「悲愴」、「月光」とこの曲を、いわゆる3大ソナタという中で、個人的には、「悲愴」、「月光」の方を好んでいるのだが、このポリーニの実演を聴いて、「アパッショナータ」もベートーヴェンらしい名曲だなあ、と改めて思った。


意外にも、アンコールはなかった。
先週、北京で行われた演奏会の時には、ベートーヴェンのバガテルなどを弾いたとのことだったのだが。

妻は、「アパッショナータ」がとてもよかった、同じ曲をもう一度聴きたい、と言っていた。

私の印象では、「アパッショナータ」はもちろんよかったが、22番もよかったと思う。

結局、「ポリーニの音」に関するとまどいは残ったままで終わった。

これは、私の側の個人的条件によるものだろうと思う。
40年近く、録音だけで聴いてきて、初めて接した実演。
もっと早くから実演に接する機会があれば、ポリーニにおける、録音と実演の違いについて、違ったとらえ方ができたかもしれない。
また、少し前にリリースされたバッハの平均律では、ピアノの音が以前と変わった、と感じた記憶があるので、録音でのポリーニの音の変化について、私自身の追跡不足もあるかもしれない。

翌24日(水)の朝、通勤時に、前夜と同じ曲目をポリーニの録音で聴いてみた。
「そうそう、ポリーニはこういう音だよ」と即座に思った。

さて、このギャップはどうなるのか。

さしあたり、来月もう一度行く、30番~32番のソナタの日、今度は席も違うし、どのように聞こえるのか、興味深いところだ。

それから、23日の公演は、NHKがテレビ収録しており、後日放映される(放映日未定)そうなので、テレビではどのように聞こえるのか、これも楽しみだ。