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68歳、ヴィオラ弾き。ビール大好き。毎日元気。

藤原歌劇団・NISSAY OPERA 2021公演 蝶々夫人

昨26日(土)、日生劇場で行われた藤原歌劇団の「蝶々夫人」を観に行った。

 

蝶々夫人」は、もう30年以上前だと思うが、新宿文化センターで行われた公演に行った記憶がある(妻によると、その後文京区あたりのホールでの公演にも行っているというのだが、ちょっと覚えていない)。

 

久しぶりに実演に行きたいと思いつつ、なかなかその機会がなかった。

2019年6月に新国立劇場で上演があり、チケットも買っておいたのだが、小田(和正)さんのツアーの四日市公演のチケットと重なってしまい、小田さんを優先。新国立劇場のチケットは知人に譲った。

やっとこの藤原歌劇団の上演情報を得て、足を運ぶことができた。

 

久々の「蝶々夫人」、やはりすばらしいオペラだとつくづく思った。感激した。

 

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藤原歌劇団・NISSAY OPERA 2021公演 蝶々夫人
日 時 2021年6月26日(土) 13:00開場 14:00開演
会 場 日生劇場
指 揮 鈴木 恵里奈
管弦楽 テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ
演 出 粟国 安彦
曲 目 プッチーニ 歌劇「蝶々夫人

 

我々の席は、G.C(中2)階B列60・61番。上手側で、舞台を斜め横から見る形だ。
日生劇場はコンパクトなので、ホール全体の一体感があり、新国立劇場のような大きな劇場とはまた違ったよさがある。ホワイエも含めて、歴史を感じさせる劇場全体の雰囲気もまたいい。

 

プログラム冊子から。

表紙のこの写真は大村湾

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今回の公演の演出は粟國安彦氏である。藤原歌劇団の「蝶々夫人」は、1984年以来、一貫してこの演出で上演されているようだ。
その上演歴が掲載されている。

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千葉県文化会館では6回、浦安市文化会館でも1回上演されている。
(1988年11月に、新宿文化センターで上演されているので、時期的にはもしかするとこれを観たのかもしれないが、かすかな記憶では舞台装置が今回のものと違うように思った。妻も同意見)

 

緞帳が開いて目に入ったセットは大変美しい。赤い橋、満開の桜、和室、あずまや。さすがに日本人による伝統の演出だと思った。

 

蝶々さんの登場シーン、女声コーラスが夢のように美しかった。

 

以後は物語と音楽に引き込まれて過ごした。

 

ボンゾが乱入し、蝶々さんのキリスト教への改宗を非難して、結婚式に集まっていた親戚たちを引き連れて出て行くシーン。
ここで感じたのは、親戚たちは、ボンゾに言われたから仕方がなくついて出て行ったのか、彼らも全員が改宗に批判的な考えでついて出て行ったのかが、ちょっとわからないことだ。
改宗の事実はボンゾの登場前に蝶々さんがみんなの前で歌っているので、前者ということだろうか。
関連して、ピンカートンが帰国した後、蝶々さんの生活に対する親戚の援助はなかったようだが、それはボンゾが援助しないよう圧力をかけたからか、親戚たち自身に援助する気持ちがなかったからか。

 

そうしたことはともかく、1幕終盤の二重唱の美しさはどうだろう。
物語の上では、蝶々さんに対して誠実な愛情を持ち合わせないピンカートンが歌っているわけでが、そんなことはどうあれ、この場面はあまりに美しい。

(この場面は、2007年の浦安市民演奏会で演奏したことがある。この年と2009年の市民演奏会では、さまざまなオペラを演奏できて、本当に貴重な経験ができたのだが、この二重唱はその中の白眉とも言えるものだった。今、記録を確認したところ、その演奏会に出演されたテノールソリストの名前は藤田卓也。同姓同名の別人でないなら、今回の日生劇場公演で、キャスト変更によりピンカートンを歌った人、ということになる。驚いた)

 

休憩は20分。オペラにしては短いと思ったが、舞台装置の転換はそう大きなものではなかった。

 

悲劇が格段に具体化する第2幕。かわいそうに、蝶々さん、と常に思わずには聴けない。

 

「ある晴れた日に」には、本当に泣かされた。何と一途な思い。

 

それにしても、このオペラは、タイトルロールである蝶々さんの出番が多い。歌いっぱなしと言ってもいいくらいだ。
こういうオペラも珍しいのではないだろうか。トスカにせよ、ヴィオレッタにせよ、ブリュンヒルデにせよ、ここまでではないように思う。

 

蝶々さんとスズキが部屋に花をまくくだりは、このオペラ全体の中でも特に名場面だと思った。

 

その後のハミングコーラスの何と美しかったことか。

 

とにかく、プッチーニという人の書く音楽の耽美はきわだっている。
やっぱりプッチーニはいいなあ。
ワーグナーの毒」と言われるが、プッチーニにも甘美で危うい毒のようなものがある。

 

第2場に移っての間奏曲が終わった後の音楽で、ほんの一瞬だが、「ジークフリート牧歌」を思わせるような響きがあった。ワーグナーが愛妻のために書いた音楽を、プッチーニが意図的に混入させた?

 

以後、オペラは最後の悲劇に向けて突き進んで行く。

 

帰ってきたピンカートンが、靴のまま部屋に上がったのはちょっと衝撃的だ。日本人でないとわからない感覚かもしれないが。
この上演の中で、外国人が靴を脱がずに部屋に上がるのはここが唯一の場面だったように思う。演出意図だろう、と思った。歌では自分のしたことに悔いていると言いつつ、畳を靴で踏んでいる行為には、ピンカートンという人物の本質的な残酷さ、そして彼が結局は蝶々さんや日本を決して理解しなかったこと、ピンカートンと蝶々さんが交わることはなかったことが表現されている。

 

スズキは、まだ蝶々さんが知らない、ピンカートン側の事実を知ってしまう。そればかりか、子供を渡すように説得してほしいとまで言われてしまう。
ここでスズキ自身が、もっと悲しみ、蝶々さんの3年間は何だったのか、と怒り狂い、そんな説得はできない、と拒否してもいいのではないか、そういうストーリーもありうるのではないか、と思ったりもする。

 

それは事態を知ってしまった蝶々さんにしてもそうで、せめてこの子だけは手元に置かせてくれと泣き叫んでもいいとも思う。しかし、台本上は、子供を渡すことそのものについて、蝶々さんの言葉はない。何も語らずその運命を察して受け入れた形になっている。


まあ、最後に蝶々さんが自害するという結末に持って行くためには、スズキにせよ蝶々さんにせよ、抗えぬ(抗わぬでなく)流れで進む必要があるのかもしれない、と一応は納得する。
でも、あまりに残酷だよ、これは。

 

そのことは置いて、このオペラでのスズキという人物の存在の大きさは、この実演で改めて痛感した。
これは粟國演出とも関連するだろうが、スズキの演技、所作が非常によかった。動きだけで、蝶々さんに仕える彼女の内心がよく伝わってきた。だから、上のような、もっと怒っても、という感想が出てくる。

 

それにしても「蝶々夫人」、何故こんなに泣けるんだろう。ストーリーがわかっていても、ああかわいそうに、と感情移入してしまう。
ヒロインが死んでしまうオペラなら、他にもたくさんある。でも、トスカやヴィオレッタを見ていて、泣けてしまうということは私の場合、ない。

 

また、この物語を客観的に見た場合、その時代や社会背景等からすれば、仕事で遠い日本に赴いたピンカートンの蝶々さんへの扱いは必ずしも不当とは言えず、3年も本気でピンカートンを待った蝶々さんの方が愚かだと評することさえあながちおかしくはないかもしれない。

 

そう思いつつも、このオペラが何故極度に泣けるのか。扱われているのが日本人だからだろうか。

 

プッチーニの音楽の力によるところはあるな、と思う。

プッチーニのオペラは、オケが語るものが本当に大きい。ワーグナー以上かもしれない、と思う。

 

ともかく、「蝶々夫人」、またどこかで上演される機会があったら、できるだけ近い時期にまた観たいと思う。

 

日生劇場を出て、日本橋千疋屋総本店に行き、お中元の配送を手配した後、2階のフルーツパーラーに立ち寄った。

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日本オペラ振興会Twitterアカウントから写真を拝借しました。

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藤原歌劇団のWebサイトに載った、この日の公演のレポート
    https://jof.or.jp/performance/blog/2106_but/4440-210626_i