2021年は、演奏会に38回行った。コロナ禍で中止や延期になる演奏会もあった中、前年に比べて演奏家側の公演活動が活発になった結果を表した数字だと思う。
さて、8日(土)は2022年1回目の演奏会。
●東京芸術劇場コンサートオペラvol.8
日 時 2022年1月8日(土) 13:00開場 14:00開演
会 場 東京芸術劇場コンサートホール
指 揮 佐藤 正浩
管弦楽 ザ・オペラ・バンド
ソプラノ 森谷 真理
語 り 松重 豊、木山 廉彬、的場 祐太、藤井 咲有里
曲 目 プーランク オペラ「人間の声」
プーランクの「人間の声」は、レコードでも聴いたことがないまったく未知のオペラ。「アルルの女」の劇音楽としての全曲ともども、めったに実演では聴けないと思い、チケットを買い求めた。
プログラム冊子から。
私の席は1階C列21番。最前列のA列には客を入れないので、実質前から2列目。
自分で席を選べる時は、ステージ全景が見渡せる2階席を選ぶことが多い。前から2列目では、ステージ上のオケは手前の人しか見えず、奥の管楽器がどうなっているのかわからない。
たまたま2021年行った最後3回の演奏会は、すべて席が選べずしかも前方に座ることが続いた。
アレンジャーズ・サミット「音楽の料理人たち」
東京文化会館大ホール 1階2列
Off Course Classics Concert 2021
ザ・シンフォニーホール 1階B列
葉加瀬太郎 コンサートツアー2021 SONGBOOK
アクリエひめじ大ホール 1階1列
これで4回連続の前列となった。
開演前に、指揮者佐藤正浩氏のプレトークがあった。「人間の声」は電話をモチーフにしたオペラだが、作曲当時の電話は今の携帯電話とは違っていて、有線であり、電話交換手を介しての通話であり、時に混線も起きるものだった。今の電話よりも、電話線を通じて物理的につながっている感覚があり、そうした前提でジャン・コクトーが戯曲を書き、プーランクがオペラ化したものである、との話だった。
ステージの下手側、ファーストヴァイオリンの手前にソファとテーブルが置かれている。テーブル上には、上のフライヤーにあるような電話が載っている。
テーブル右手に譜面台があり、唯一の登場人物である女は譜面台の前に立って歌う。
ヴィオラは外配置。譜面台はプルトに1台。弦の楽員は全員黒のマスクを着用。
女役の森谷真理さんは、ネグリジェを連想させる衣装で登場。
初めて聴く「人間の声」は、従来プーランクのイメージとして持っていた軽さのようなものはなく、どこかひんやりとした、終始シリアスな響きの音楽だった。現代音楽寄りの音響と感じた。
最初から最後まで電話の会話。別れた恋人からかかってきた電話だが、時折電話交換手や混線で割り込んできた別の相手との会話が混じる。
精神的に不安定な女を演じた森谷さんの歌唱は圧巻だった。
最後には、電話線を首に巻いてソファに倒れ込み、死ぬ。電話が床に落ちて終わる。
約50分間、オケとともに歌いっぱなしの大変な難役だ。
登場してすぐ、ソファに座って靴を脱いで床に投げ出す動作があったので、カーテンコールの出入りは裸足だった。
休憩後は「アルルの女」。プーランクはステージ上の照明を落とし気味にして、オケは譜面灯を使いながらの演奏だったが、ビゼーは普通の照明。
ステージ前面、指揮者の両脇に椅子が2つずつ置かれた。
下手側から順に、藤井咲有里さん、松重豊さん、木山廉彬さん、的場祐太さん。
下手にハープとピアノが置かれた。
合唱団はマスクなし。
(昨年末、どこかのオケの「第九」で合唱団がマスクをしていることをめぐって、指揮の井上道義氏が本番を降りた話があったのを思い出した)
「アルルの女」の2つの組曲は昔から好きで、何度も聴いてきたし、演奏もしてきた。
劇音楽全曲も、もうずいぶん昔だが、プラッソンの盤を買って聴いたことがある。
今回の劇音楽全曲演奏は、元の戯曲を指揮の佐藤氏が朗読台本に翻案したもの。
第1幕から第3幕まで、休みなく演奏された。
音楽としては、組曲で日頃聴く以外の楽想はそう多くない。
この音楽としては弦の人数がやや少ないのが物足りなく感じる時もあった。
第2幕冒頭では、第2組曲1曲目のパストラーレの音楽が演奏されるが、中間部にあたる部分は、組曲だと当然オケが演奏するところ、オケでなく合唱が歌った。
こうした組曲との違いは他にもあり、聴いていて面白かった。
やはり「アルルの女」は、心に染みるいいメロディが多い。とりわけ、第1組曲の3曲目にあたるアダージェットは何と美しい音楽だろうと改めて感じ入った。
それにしても、これまで組曲を聴いてきて、これがもともとどういうお話なのか、よく知らずに来たが、ある村で起きる悲劇なんだね。男女の恋の部分と、母親と息子の愛情の部分の両方。
悲しい話を彩るのが、普段聴き慣れたあの美しい音楽であることに、心動かされながら聴いた。
一番最後の幕切れはしかし、フレデリの死の場面でありながら、Gdurの長調和音。最後の最後はGの単音だった。「カルメン」の最後もfisの単音だったと思う。
美しい音楽と、物語の悲しさ。重いものが胸に残った。
松重さんを始めとする4人の語り(お芝居)には、さすが俳優さん、と圧倒された。
彼らの声を近くに聴けた点では、最前列近い席もよかったと思った。
中では、フレデリの母親と、フレデリを慕うヴィヴェットを1人で演じ分けた藤井さんが特にすばらしかった。
貴重な演目が聴けて、やはりよかったと思える演奏会だった。