10日(日)、かつしかシンフォニーヒルズモーツァルトホールで行われた石田組の演奏会に行ってきた。
石田組は以前から一度聴きたいと思っていた。今年1月、市川市文化会館での公演を聴きに行く予定にしていたが、急な都合で行けなくなってしまった。
その後、アルバム発売を記念する大規模なツアーが組まれ、やっと今回初めて石田組の実演に接することができた。
●石田組2023/2024 アルバム発売記念ツアー
日 時 2023年12月10日(日) 13:30開場 14:00開演
演 奏 石田組
曲 目 シベリウス アンダンテ・フェスティーヴォ
チャイコフスキー 弦楽セレナーデハ長調
芥川也寸志 弦楽のための三楽章
E.バーンスタイン(近藤和明編曲) 荒野の七人
チャップリン(松岡あさひ編曲) スマイル
ローリング・ストーンズ(松岡あさひ編曲) 悲しみのアンジー
レインボー(近藤和明編曲) スターゲイザー
レインボー(松岡あさひ編曲) キル・ザ・キング
[アンコール] ファリャ 「恋は魔術師」から「火祭りの踊り」
ビゼー 「アルルの女」から「ファランドール」
クイーン ボーン・トゥ・ラブ・ユー」
プログラム冊子。
我々の席は1階11列9番10番。
編成は、石田組長を含めて3・3・3・3・1の13人。ファースト・ヴァイオリンは前のプルトが石田長1人、後ろが2人。セカンド・ヴァイオリン以下は前が2人、後ろが1人。ヴィオラは外配置。
最初はシベリウスの「アンダンテ・フェスティーヴォ」。これが聴けたのは嬉しかった。強面の石田組長始め男性ばかりのヴィジュアルに反して清澄な演奏だった。ティンパニは省略。
次はチャイコフスキーの弦楽セレナーデ。3月に、うらやすシンフォニエッタで演奏した曲だ。難しくて苦心した。
同じ指揮者なしのアンサンブルも、一流のプロが集まるとこんなになるんだ、と感嘆。
うらやすシンフォニエッタの半分くらいの人数なのに、充分なボリューム、何より正確きわまりない。
4楽章最後のアチェレランドがすごかった。
20分間の休憩の後、芥川也寸志作品。
この曲、昔、一度くらいは実演で聴いたことがあったようなないような。
急-緩-急の構成。
1楽章と3楽章はバルトークを思い出させる響き。1楽章に出てくる強い全楽器ユニゾンがすごい。
2楽章は、チャイコフスキーのエレジーに通じるものを感じた。途中、ヴィオラ(とコントラバス)が楽器の胴を叩くところがあったが、人によって叩く場所が違った。楽譜に指示があるんだろうか。
ここから後はクラシックを離れて、映画音楽、ロックとなる。
7月に須田祥子さん率いるSDA48の演奏会に行ったが、その時も、X JAPANやクイーン、あるいはファイナルファンタジーの音楽などを演奏していた。
さらにモルゴーア・クァルテットは、キング・クリムゾンなどのプログレッシブ・ロックをレパートリーにしている。
今日のクラシックのアーティストがこうしたレパートリーを持つことについては、考えさせられるところがある。
高校の頃、ある団体で、ピアノを習っているという別の高校の女子生徒と話していた時のこと。たまたま私はその時、歌謡曲の市販楽譜を持っていたのだが、「それは何?」と聞かれて「歌謡曲の楽譜です」と答えたら、言下に「まあ、くだらない」と言われた。クラシック至上主義なのか、と思ったのを今でもおぼえている。
まあこれはあまりに個人的な経験としても、同じ時代、團伊玖磨氏が「パイプのけむり」シリーズの中で、折にふれてはロックなどのことを「阿呆陀羅経のような音楽」と評していたこともよくおぼえている。
私は、中学までピアノでクラシック音楽を弾いていたものの、クラシックというジャンルを意識的に鑑賞し始めたのは高校に入ってからだった。1971年のことである。
その時期の上記経験は、自分が意図して新しく入っていったクラシックの世界には、それ以外のジャンルを低く見る感覚があるのかな、と感じさせるものだった。
しかし、石田組、SDA48、モルゴーア・クァルテットの皆さんは、高度なクラシックの専門教育を受けてプロとして活動しておられる中で、こうしてクラシック以外の音楽を、半分くらいのウエイトでレパートリーにしている。
つくづく思うのは、たぶん、彼らは、客集めのためにはクラシック以外のものもやらないといけない、という目的でそうしているのではないだろうということだ。もしそうなら、知らないジャンルの音楽を一から勉強することにもなるだろうが、たぶん各メンバーが音楽大学でクラシックを学ぶかたわら、もともとこうした音楽が心底好きで親しんできて、プロの演奏活動の中で本来的なレパートリーとして演奏したいという気持ちがあるのだろうと思う。集客のための手段としてでなく、演奏家としての根源的内発的な欲求が根底にあると感ずる。
個人的な経験をベースに考えると、1970年代と今の時代はそこがまったく違ってきているのかな、と思う。
さて、芥川作品を終えて一旦ステージからはけ、再度全員が登場すると、楽器を持たずに最後に出てきた石田組長がマイクを持って組員を紹介した。
組長が一旦はけた後、ヴァイオリンの三上さんがMCを引き継いだ。亀有在住でこのホールからは近いとのこと。既に演奏したクラシックよりもこれからの曲の方が難しいと言っていた。
さらにMCはヴィオラの石田組広報部長、生野さんに渡り、年内にまだ2公演あるので是非、との話があった。
石田組長が再登場、ここからは全体の中央に立つ形で演奏が進行した。
個人的には、ローリング・ストーンズやレインボーにはまったく不案内で、曲を知らないのだが、それも含めての5曲は、誠に聴きごたえ見応えのあるものだった。こういうのを自分でも弾く機会があったら、と思った。
「スターゲイザー」の最初の方は芥川作品に通じるものを感じた。また、「キル・ザ・キング」にはヴィヴァルディの「夏」を想起した。
音楽の歴史の中で、バロックからクラシック、またロックが、別々のジャンルとしてそれぞれ発展確立してきながら、今一体に合流したところで1つの世界を作っているように感じた。
アンコールには、ファリャ、ビゼーが演奏された。
「ファランドール」は、何であんな速いテンポで弾けるのか! とびっくり。当たり前なんだけど、プロはすごい。
「もう1曲やります!」と組長が叫んで、最後はクイーン。
とにかく、全部の曲が鮮やかの一言に尽きる演奏会だった。
2時間余りの演奏会。
また遠からず石田組を聴きたいものだと思った。
それから組長がコンマスを務める神奈川フィルハーモニー管弦楽団の演奏会。純クラシックの演奏会における石田組長がどんなふうなのか、興味がある。