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68歳、ヴィオラ弾き。ビール大好き。毎日元気。

シューマン室内楽マラソンコンサート

2月23日(金)、東京オペラシティコンサートホールで行われた、シューマン室内楽ラソンコンサートに行き、完走した。

 

諏訪内晶子さんが芸術監督を務める「国際音楽祭NIPPON2024」の一環としての演奏会である。

この音楽祭関連の演奏会に足を運ぶのは初めてだが、もう10年になるのだそうだ。
今年の音楽祭も、東京、愛知、岩手、神奈川と各地で多彩な内容で開催されている。

  ↓ プログラム冊子から

 

今回と同種の演奏会としては、2022年3月13日(日)にブラームス室内楽ラソンコンサートが開催された。
その時は、ピアノ三重奏曲(3曲)、ピアノ四重奏曲(3曲)、ピアノ五重奏曲、ホルン三重奏曲、クラリネット三重奏曲、クラリネット五重奏曲、弦楽五重奏曲(2曲)、弦楽六重奏曲(2曲)の14曲が演奏された。
これはめったにない貴重な機会で、是非行きたいところだったが、日曜日で浦安シティオーケストラの練習と重なったため、泣く泣くあきらめた。

今回のシューマンも、ブラームスに劣らずまたとない機会であり、祝日金曜日でオケ練ともバッティングしないので、早々にチケットを買い求めた。

 

 

シューマン室内楽ラソンコンサート
日 時 2024年2月23日(金)
    第1部 10:20開場 11:00開演
    第2部 13:40開場 14:00開演
    第3部 15:40開場 16:00開演
    第4部 18:40開場 19:00開演
会 場 東京オペラシティコンサートホール
演奏者 ヴァイオリン 諏訪内晶子、ベンジャミン・シュミット、辻 彩奈、中野りな、米元響子
    ヴィオラ 佐々木亮、鈴木康浩
    チェロ イェンス=ペーター・マインツ、佐藤晴真
    ピアノ ホセ・ガヤルド、阪田知樹、福間洸太朗
    葵トリオ 秋元孝介(ピアノ)、小川響子(ヴァイオリン)、伊東 裕(チェロ)
    カルテット・アマービレ 篠原悠那、北田千尋(ヴァイオリン)、中 恵菜(ヴィオラ)、笹沼 樹(チェロ)
曲 目 第1部
    ピアノ三重奏曲第1番ニ短調 葵トリオ
    ピアノ三重奏曲第2番ヘ長調 辻 佐藤 阪田
    ピアノ三重奏曲第3番ト短調 シュミット マインツ 福間
    第2部
    ヴァイオリン・ソナタ第1番イ短調 中野 秋元
    ヴァイオリン・ソナタ第2番ニ短調 シュミット 福間
    ヴァイオリン・ソナタ第3番イ短調 辻 阪田
    第3部
    弦楽四重奏曲第1番イ短調 米元 小川 鈴木 伊東
    弦楽四重奏曲第2番ヘ長調 中野 米元 佐々木 佐藤
    弦楽四重奏曲第3番イ長調 カルテット・アマービレ
    第4部
    幻想小曲集 葵トリオ
    ピアノ四重奏曲変ホ長調 シュミット 鈴木 マインツ 阪田
    ピアノ五重奏曲変ホ長調 諏訪内 米元 佐々木 マインツ ガヤルド
    [アンコール] クララ・シューマン 3つのロマンス 第1番 諏訪内 ガヤルド

 

10時半頃入場。

 

さすがに長い。第1部開演が11:00で、第4部終演は20:35とされている。

 


入れ替え制で、入場時に受け取ったリボンを着用する。

 

私の席は、1階8列4番。ステージからの距離はちょうどよかった。欲を言えばもう少し中央寄りがよかった。
ほぼ満席の盛況。私の席の周囲を見る限り、皆さん通し券のようで、最初から最後までおられた。

 

シューマンは、私にとって日頃身近な作曲家ではない。学生時代からレコードで聴いてきたのは、好きなグリーグのコンチェルトとカップリングされていたピアノ・コンチェルト、それから交響曲4曲、ピアノ曲としては幻想曲などいくつか、くらいだった。
一度、じっくりと探索すべき対象だとは思っていたので、今回、実演で室内楽がまとめて聴けるのはありがたかった。

そのシューマン室内楽については、ピアノ五重奏曲だけは学生時代から愛聴してきてきたが、これは例外。他の曲は、ディスクでひと通り所持してはいるが、濃淡はあるもののちゃんと聴いたことがない。

 

第1部は、ピアノ三重奏曲3曲。

 

1番は葵トリオの演奏。ヴァイオリンの小川響子先生には、昨年7月の茂木大輔先生のワークショップで、セカンドヴァイオリンのトップとしてご指導いただいた。
充実した良い曲だと思った。
1楽章は、情熱的、アパショナートな音楽だが、途中とても繊細な部分が出てくるのが印象的だった。長い楽章だった。
2楽章は、他の作曲家では聴けない、シューマンならではの音楽だと感じた。
3楽章は美しい。眠りに誘われた。

 

2番。
2楽章は、長いが大変美しく深い音楽。
3楽章のメランコリーには、ブラームスの3番のシンフォニーの3楽章を思い出した。
4楽章では、シューマンという人には独特のリズムがあることを感じた。

 

3番。
1楽章は、途中で出てくるピツィカートがとても効果的。楽章の終わり方など、ひとすじなわではいかない音楽だ。
2楽章で、緩徐楽章から突然局面が変わるところも同様。
3楽章は、最初の部分のリズムがつかめなかった。終わり方にびっくり。
4楽章を聴いていて、この3番は、4つの楽章が別々の方向を向いているように感じられた。そこがシューマンという人なのか。
3曲の中では、これが一番面白かった。

 

第1部が終わり、一旦出る。閉鎖されて13:40の第2部開場まで入れないとのことなので、荷物は持って出た。

さて、どこかで昼食をとさがして、TEXASに入った。長丁場なので、肉。

 

小雨のオペラシティ。

 

第2部は、ヴァイオリン・ソナタ3曲。1番と2番は、クレーメルアルゲリッチのディスクが出た当時に買って持っているが、ほとんど聴いたことがない。
そもそも、弦とピアノの二重奏は、あまり聴かない。例外的によく聴くのはフランクくらいか。モーツァルトベートーヴェン(5番、9番は別にして)、ブラームスすらろくに知らない。
そう言えば、シューマンという人はチェロ・ソナタを書かなかったんだな、と思った。ショパンでさえあるのに。

 

1番。
1楽章の冒頭、シューマンという人は、出だしが皆似ている気がした。常に何か情念のほとばしりみたいなものを感じる。この楽章も終わり方が通りいっぺんのものではない。

 

2番。
ヴァイオリンのシュミットという人は、前後にステップを踏むようにして動きながらの演奏。以前受講した、マスミ・ロスタード先生のグループレッスンを思い出した。
1楽章は長い長い音楽。
3楽章冒頭のピツィカートはとても面白い。やはりシューマンはありきたりでない。
4楽章も面白かった。

 

3番。
1楽章と4楽章は、2番の4楽章と同様、火照りの音楽。結局、シューマンにはこういう熱を帯びた情念の音楽が多い。この作曲家を一度は深く探索してみたいと常々思っているが、こういう音楽をいくつも続けて聴くのは大変だな、と実感した。
2楽章、3楽章は、コンパクトでわかりやすい音楽。
2楽章は、清澄。3連、2連のからみが楽しい。
3曲の中では、これが一番まとまった作品に思えた。

 

カーテンコールの最後には、6人の演奏者全員が出てきた。

 

第3部までは20分程度の休憩。ホワイエでオレンジジュースを飲んだ。

 

第3部は、弦楽四重奏曲3曲。
シューマン弦楽四重奏は、ブラームスカップリングされた、メロス四重奏団の3枚組を持っていて、何度かは聴いたことがあるが、ベートーヴェンのように常食ではない。
ただ、弦楽四重奏全般はよく聴く曲種なので、楽しみに聴いた。

 

1番。
1楽章は、これも火照りの音楽だが、弦だけなのであまり耳にさわってこない。やはりピアノの有無は大きい。もっとも、シューマンの本領はやはりピアノという楽器にあるとも思っているのだが。
2楽章は、これもシューマン独特の音楽。
3楽章は美しい。
4楽章は、力作のフィナーレと感じるが、終わり近く白玉の音符ばかりのような感じになるあたりは、これまた独特のものがある。
鈴木康浩さんのヴィオラがとても美しい音だった。
午前から聴いてきて、シューマンの面白さがずいぶんわかってきたような気がする。学生時代から、シンフォニーやピアノ五重奏、幻想曲あたりばかり聴いてきたが、こうして聴いてくると、もっともっと個性的な世界があると感じる。シンフォニーなどは、あくまでシューマンの一面だと思われた。

 

2番。
1楽章を聴いていて、ブラームスの弦楽五重奏曲の2番を思い出した。調は違うのだが、何か通ずるものを感じる。
2楽章の変奏曲はとても良い。
3楽章は拍がつかめない。難しそうなリズムだ。
4楽章も力作のフィナーレ。1番の4楽章同様、初めて聴く人を引き込むものがある。
この曲全体、聴いてベートーヴェン弦楽四重奏曲がベースにあるように感じた。
シューマン弦楽四重奏、とても魅力があるじゃないか、とも思った。
曲が終わって、左に座っている2人連れの方が、何故シューマン弦楽四重奏には日頃なじみがなかったんだろう、と魅力を認識されたような話をされていた。
確かに不思議だ、と私も思う。こんなに聴きごたえがある音楽なのに。

 

3番は、カルテット・アマービレの演奏。対向配置だった。
(1番、2番はヴィオラ中配置)
1楽章は、モーツァルトのK464(18番)を思い出した。
2楽章は美しい変奏曲。
3楽章は、ヴィオラの役割がとても大きい。素敵な音だった。ベートーヴェンの後期の弦楽四重奏曲を思わせる深みのある音楽。
4楽章は、これも力作。リズムが難しく、拍がつかめなかった。

 

3曲ともとてもいい! と思った。同じように思ったお客さんも多かったのではないか。
ヴァイオリン・ソナタの一部に感じた冗長さがまったくない。3曲とも大変充実したロマン派の弦楽四重奏曲として、傑作揃いだと思った。

 

17時半過ぎ終演。
また会場は閉鎖され、18:40の第4部開場まで入れない。

さて夕食はどこで食べようかと歩いてまわり、結局ロッテリアに入った。

 

第4部は、再びピアノを交えた重奏曲。

 

幻想小曲集は、葵トリオの演奏。
性格的な小品の集まりは楽しく聴いた。確かにこれは、ピアノ三重奏曲第○番ではない。
この曲でも、本当にシューマンの曲の終わり方はありきたりでないと感じた。

 

次にピアノ四重奏曲。
これはやはり、円熟の傑作だと思った。
すごく難しい曲に思えたが、すばらしいアンサンブルだった。終楽章の曲締めに向かっていくところなどは、本当に引き込まれるものがあった。

 

さてプログラム最後は、ピアノ五重奏曲。この曲は、レコードでも長年聴いてきたし、実演でも何度か聴いている。
この曲に至って、いよいよ芸術監督の諏訪内さんが登場、ファースト・ヴァイオリンに座った。
学生時代からこの曲を聴いてきたのは、同じピアノ五重奏のシューベルト「ます」と並んで、華やかで、またわかりやすい曲だったからだ。この日、室内楽の多様な曲種を聴いてきて、シューマンのさらに深いところにある魅力を知った思いがした。
諏訪内さん、あるいは辻彩奈さんのような、ソリストとして活動されているアーティストが、こういう室内楽でアンサンブルをしたり、早い話ボウイングを合わせたり、という機会がどのくらいあるのだろう、と思いながら聴いた。
諏訪内さんには、この1曲だけでなく、前半のどれか1曲くらい弾いてほしかったな、と思った。
ピアノ五重奏は、このマラソンコンサート唯一の聴き慣れた曲なので、リラックスして楽しんだ。
2楽章主部が終わった後の冥想がすばらしかった。
円満な演奏だと感じたが、直前のピアノ四重奏の方が印象に強烈だった感は否めない。曲そのものの違いも大きいのだろうが。

 

全演奏者が登場してのカーテンコールの後、諏訪内さんの短いMCがあり、アンコールとしてクララ・シューマンの曲が、諏訪内さんのヴァイオリン、五重奏で一緒だったガヤルドさんのピアノで演奏された。
実演めったに聴けないクララの曲を思いがけず聴けてよかった。

 

20:44終演。

 

過去経験した最長の演奏会だった。たぶん、これまで一番長かったのは、新国立劇場での「神々の黄昏」だったと思う。

 

さて、室内楽ラソンコンサート、来年もあるだろうか。あるならば、誰の?
もし望めるなら、フォーレをお願いしたいところだ。