昨日、ディーリアスのヴァイオリン・ソナタについて書いた際、昔はディーリアスのことを、「デリアス」と言っていた、と記した。
その変わり目になった雑誌の記事をご紹介しよう。
木更津の実家にその雑誌を置いてあったのだが、今日たまたま行く機会があったので、持って帰ってきた。
「ステレオ芸術」(ラジオ技術社)の1976年7月号だ。
私は大学3年生だった。
私は大学3年生だった。
ルドルフ・ケンペの追悼記事が載っている。新譜評は、そのケンペのブルックナーの5番や、カラヤンとロストロポーヴィチの「ドン・キホーテ」、同じくカラヤンとベルマンのチャイコフスキーのコンチェルトなど。懐かしい。
この号の特集が、「現代人のためのライブラリー」というものだった。
11人の音楽評論家が、それぞれのテーマで、10点のレコードを紹介している。
・ロックこそ“現代”を象徴するもの(相倉久人) 泉谷しげる「家族」他
・あえてジャズだけにしぼって(鍵谷幸信) コルトレーン「アセンション」他
・より積極性を求めるために(金森昭雄) ベリオ「シンフォニア」他
・もっと静かな音楽が必要なのでは(三浦淳史) ディーリアス管弦楽曲集他
・いろいろなジャンルからのベスト(中村とうよう) ザ・バンド「南十字星」他
・対象があまりにも多すぎた結果(中田喜直) モーツァルトの“イ長調”の作品他
・“本能的聴覚”で選んだ10枚(高島誠) シェーンベルク「グレの歌」他
・現代を見つめさせられる《日本の昔話》(山本明) ヤナーチェクの「消えた男の日記」他
・ジャズとロックを中心に(安原顕) ピンク・フロイド「狂気」他
・ある現代人がある時点で選ぶと(吉田耕一) スティーブ・ライヒ作品集他
・戦後の日本の前衛的作品から(佐野光司) 黛敏郎「涅槃交響曲」他
・あえてジャズだけにしぼって(鍵谷幸信) コルトレーン「アセンション」他
・より積極性を求めるために(金森昭雄) ベリオ「シンフォニア」他
・もっと静かな音楽が必要なのでは(三浦淳史) ディーリアス管弦楽曲集他
・いろいろなジャンルからのベスト(中村とうよう) ザ・バンド「南十字星」他
・対象があまりにも多すぎた結果(中田喜直) モーツァルトの“イ長調”の作品他
・“本能的聴覚”で選んだ10枚(高島誠) シェーンベルク「グレの歌」他
・現代を見つめさせられる《日本の昔話》(山本明) ヤナーチェクの「消えた男の日記」他
・ジャズとロックを中心に(安原顕) ピンク・フロイド「狂気」他
・ある現代人がある時点で選ぶと(吉田耕一) スティーブ・ライヒ作品集他
・戦後の日本の前衛的作品から(佐野光司) 黛敏郎「涅槃交響曲」他
5番目の三浦淳史氏は、その当時、イギリス音楽については最も信頼のおける評論家だった。
その三浦氏は、ここで、「「現代人」が、もしほんとうに騒音を嫌うとしたら、わたしは本質的にしずかな音楽をすすめたい」とし、「「現代人」にとってディーリアスはもっとも必要な作曲家のように、わたしには思われてならない」と書いている。
この記事の末尾に、こうある。
「Deliusはこれまで「デリアス」が慣用されてきたが、原音により近い「ディーリアス」を採用してみた」。
私の理解では、日本のクラシック音楽のメディアにおいて、それまでの「デリアス」が「ディーリアス」に変わり、今日に至るのは、おそらくこの記事がきっかけではないかと思う。
イギリス音楽批評の権威とされた三浦氏の影響力からすれば、おそらく当たっていよう。
少なくとも、Deliusを「ディーリアス」と初めて表記したのがこの記事であることは間違いない。
私の手持ちのレコードでは、その前年、1975年11月に購入した、バルビローリの2枚組(Pye盤)では、「デリアス」と表記されている。
私が所属していた大学オケでは、この76年の12月に、「夏の歌」を演奏しているが、たまたまその時、演奏会のプログラム冊子の制作を担当していたので、作曲者表記は「ディーリアス」とした。
(そのようなこともあり、個人的にもこの記事は長く記憶に残ってきた)
(そのようなこともあり、個人的にもこの記事は長く記憶に残ってきた)
古い雑誌を見ていると、演奏者名でも、呼び方の変遷があったことがわかる。
バーンステイン→バーンスタイン
リフテル→リヒテル
アルゲリッヒ→アルゲリッチ(アルヘリッチと言ったこともあった)
ハルノンコールト→ハルノンクール→アーノンクール
バーンステイン→バーンスタイン
リフテル→リヒテル
アルゲリッヒ→アルゲリッチ(アルヘリッチと言ったこともあった)
ハルノンコールト→ハルノンクール→アーノンクール
ただ、これらは、何となく変わって行ったような感じがある。
三浦氏のように、これまではこう呼んできたが、これからはこう呼びたい、という一つの提案がなされ、以後、それがメディア全体に浸透した、という点では、興味深く、珍しい例だと思う。