大学オケのOB会の会報に、浦安オケの活動について、昨年の震災の件を中心に寄稿した。
会報の掲載ページは、前の記事に画像を掲載したが、紙面の制約で、提出した原稿の一部が割愛された形になっている。
改めて、オリジナル原稿の全文を、テキストの形で、以下に掲載しておきたい。
浦安シティオーケストラに入団したのが、40歳を前にした1995年1月。大学オケの先輩であるSさんのお誘いだった。早いもので17年余りが経つ。
年2回の演奏会を中心に活発な活動を続けてきた我々のオーケストラが、未経験の危機に直面した昨年3月の東日本大震災。
個人として、また団として忘れられない、この時の経験について書いておきたい。
年2回の演奏会を中心に活発な活動を続けてきた我々のオーケストラが、未経験の危機に直面した昨年3月の東日本大震災。
個人として、また団として忘れられない、この時の経験について書いておきたい。
2010年11月に第38回定期演奏会を終了した我々は、次の定期演奏会に向けて練習を開始した。J.シュトラウスⅡの「皇帝円舞曲」、チャイコフスキーの幻想序曲「ロメオとジュリエット」、ブラームスの交響曲第3番。本番は2011年5月22日(日)。指揮は当団が初めてお迎えする横島勝人先生で、1月末に初顔合わせの合奏を行っていた。2月には合宿練習。本番までの道のりも半ばを過ぎ、残り2ヶ月余、さあこれから追い込みというところで、あの震災が発生したのだった。
その時私は東京京橋の会社社屋内にいた。帰宅困難者となり当日は会社泊。翌日千葉市の自宅マンションに戻ったが、東京湾岸の埋立地ながら幸いにも液状化を免れており、格別の被害はなかった。
当初、メディアの報道は東北方面の被災状況が圧倒的だったが、日が経過するにつれ、我がオケの本拠地、浦安市の被害も相当に深刻なことがわかってきた。特に、京葉線沿線、新浦安駅、舞浜駅を中心とした埋立地の被害は甚大で、多くの団員がライフラインを絶たれ、長期にわたり不自由な生活を余儀なくされた(ヴィオラの仲間にもそういう境遇の者が出た。都内に住む友人の団員が自宅に呼んで入浴の便宜を図ったり、私も品薄なペットボトル飲料をかき集めて送ったりした)。
当初、メディアの報道は東北方面の被災状況が圧倒的だったが、日が経過するにつれ、我がオケの本拠地、浦安市の被害も相当に深刻なことがわかってきた。特に、京葉線沿線、新浦安駅、舞浜駅を中心とした埋立地の被害は甚大で、多くの団員がライフラインを絶たれ、長期にわたり不自由な生活を余儀なくされた(ヴィオラの仲間にもそういう境遇の者が出た。都内に住む友人の団員が自宅に呼んで入浴の便宜を図ったり、私も品薄なペットボトル飲料をかき集めて送ったりした)。
[3月12日(土)]<練習中止>
朝、インスペクターから、翌13日(日)の練習中止の連絡。
朝、インスペクターから、翌13日(日)の練習中止の連絡。
[3月16日(水)]<練習中止継続>
団長から、市内の公民館が閉館のため、3月中の練習はすべて中止するとの連絡。
団長から、市内の公民館が閉館のため、3月中の練習はすべて中止するとの連絡。
[3月27日(日)]<本番中止の決定 震災後初めての楽器>
午前、団長から、公民館再開まで4月以降も活動休止、5月の定期演奏会も中止する旨の連絡。もしかして、と内心思ってはいたものの、いざ現実になるとやはりショック。
同日午後、市川に住む団員宅に集まって弦楽四重奏。5月の定期演奏会当日、開演前にホールロビーで演奏する計画があり、もともとそのために設定していた練習だった。
震災後、初めて見るオケ仲間の顔。チェロの者は妻子を実家に帰し、被災した自宅で不自由な単身生活を送っているとのことだった。あっという間の4時間。久しぶりに音を出せたこと、合間に色々な話ができたことが本当に嬉しかった。
しかし、今度会うのはいつになるのか。別れ際に「じゃあまた来週のオケ練習で」と挨拶を交わせない違和感。「オケに行かない日曜日」は、いつまで続くのか。「目標の喪失」を痛感させられた日でもあった。
午前、団長から、公民館再開まで4月以降も活動休止、5月の定期演奏会も中止する旨の連絡。もしかして、と内心思ってはいたものの、いざ現実になるとやはりショック。
同日午後、市川に住む団員宅に集まって弦楽四重奏。5月の定期演奏会当日、開演前にホールロビーで演奏する計画があり、もともとそのために設定していた練習だった。
震災後、初めて見るオケ仲間の顔。チェロの者は妻子を実家に帰し、被災した自宅で不自由な単身生活を送っているとのことだった。あっという間の4時間。久しぶりに音を出せたこと、合間に色々な話ができたことが本当に嬉しかった。
しかし、今度会うのはいつになるのか。別れ際に「じゃあまた来週のオケ練習で」と挨拶を交わせない違和感。「オケに行かない日曜日」は、いつまで続くのか。「目標の喪失」を痛感させられた日でもあった。
[3月28日(月)]<被災団員からアンサンブルの誘い アンサンブル会の計画へ>
被災したヴァイオリンの団員からメール。モーツァルトのクラリネット五重奏曲を合わせたい、と。震災1ヶ月前の合宿の時、練習の空き時間に遊んだ曲だ。
メールには、「こういう時に元気を出す手段の一つとして目標が欲しい。この2週間、音楽をプレーヤーで聴く余裕も楽器ケースを開ける機会もなかった。しかしいつも頭の中で鳴っていたのは、こよなく愛するモーツァルトのクラリネット五重奏とクラリネットコンチェルトだった。水を求めて2時間近く並んでいる時も、住民総出で団地の液状化による土砂の片付けをしている時も」と綴られていた。
苦境にある仲間が音楽の場を求めている。すぐメンバーから賛同の返信が相次いだ。
前日合わせた弦楽四重奏のメンバーともども集まって音出しができたら、との話になり、4月10日(日)からほぼ毎週の日曜日、6週分の演奏場所を市川市内に確保した。
オケの練習再開が見えぬ中、仲間に会いたい、音を出したいという渇望が、我々を突き動かしていた。被災した団員の希望でもあり、不謹慎だとか考えることもなかった。
ただこの時期、団の幹部は、被災した街中の実情や団員の状況を考えつつ、練習再開の是非や時期を検討していた。インスペクターには、このアンサンブル会の計画を報告したが、団内外の輿論もあり進め方は慎重にした方がいいとの意見を得た。そのため、団内に広く参加者を募ることは控え、少数の有志が非公式に集まるだけの形にとどめた。
並行して、トランペットが場所をさがしてパート練習を考えているとの情報も得た。じっとしていられない、という動きは他でも模索されていたようだ。
被災したヴァイオリンの団員からメール。モーツァルトのクラリネット五重奏曲を合わせたい、と。震災1ヶ月前の合宿の時、練習の空き時間に遊んだ曲だ。
メールには、「こういう時に元気を出す手段の一つとして目標が欲しい。この2週間、音楽をプレーヤーで聴く余裕も楽器ケースを開ける機会もなかった。しかしいつも頭の中で鳴っていたのは、こよなく愛するモーツァルトのクラリネット五重奏とクラリネットコンチェルトだった。水を求めて2時間近く並んでいる時も、住民総出で団地の液状化による土砂の片付けをしている時も」と綴られていた。
苦境にある仲間が音楽の場を求めている。すぐメンバーから賛同の返信が相次いだ。
前日合わせた弦楽四重奏のメンバーともども集まって音出しができたら、との話になり、4月10日(日)からほぼ毎週の日曜日、6週分の演奏場所を市川市内に確保した。
オケの練習再開が見えぬ中、仲間に会いたい、音を出したいという渇望が、我々を突き動かしていた。被災した団員の希望でもあり、不謹慎だとか考えることもなかった。
ただこの時期、団の幹部は、被災した街中の実情や団員の状況を考えつつ、練習再開の是非や時期を検討していた。インスペクターには、このアンサンブル会の計画を報告したが、団内外の輿論もあり進め方は慎重にした方がいいとの意見を得た。そのため、団内に広く参加者を募ることは控え、少数の有志が非公式に集まるだけの形にとどめた。
並行して、トランペットが場所をさがしてパート練習を考えているとの情報も得た。じっとしていられない、という動きは他でも模索されていたようだ。
[4月7日(木)]<「総決起集会」の案内>
団長から、4月24日(日)に「総決起集会」を行う、との連絡。練習再開にはまだ至っていないが、そろそろ団員が顔を合わせて色々な話をしたい、との趣旨。
団長から、4月24日(日)に「総決起集会」を行う、との連絡。練習再開にはまだ至っていないが、そろそろ団員が顔を合わせて色々な話をしたい、との趣旨。
[4月10日(日)]<第1回アンサンブル会>
弦8人、クラリネット1人が参加。半数が浦安在住で被災の身。持ち寄った楽譜で4時間演奏。終了後は近くの居酒屋に移動して、震災以後のあれこれについて、堰を切ったように語り合った。そう、皆、音を出したかった、話したかったのだ。この日のアンサンブルと飲み会の嬉しさ、気分の高揚は本当に忘れられない。
弦8人、クラリネット1人が参加。半数が浦安在住で被災の身。持ち寄った楽譜で4時間演奏。終了後は近くの居酒屋に移動して、震災以後のあれこれについて、堰を切ったように語り合った。そう、皆、音を出したかった、話したかったのだ。この日のアンサンブルと飲み会の嬉しさ、気分の高揚は本当に忘れられない。
[4月24日(日)]<総決起集会 今後の活動案発表>
総決起集会。3月6日(日)の練習以来、7週間ぶりの公式の集まりだ。
幹部から当面の活動案が発表された。
①中止した5月22日の定期演奏会は、2012年6月に延期する(同一指揮者、曲目で)方向
で調整したい。
②5月22日の本番会場(浦安市文化会館大ホール)の予約は取り消していないので、この
日に別途の演奏会を行いたい。5月1日(日)に企画会議を開き、8日(日)からそれ
に向けて練習を再開する。
②は、ここ4年余り毎回指揮をお願いしている矢澤定明先生からの提案だった。大変な現状の中で何か目標を作り、音楽で元気になれる事をしませんか、と。既に声楽のソリストにも声をかけ賛同を得ている、とのことだった。
これを受けて、2回行った有志のアンサンブル会は、以後打ち切ることにした。
総決起集会。3月6日(日)の練習以来、7週間ぶりの公式の集まりだ。
幹部から当面の活動案が発表された。
①中止した5月22日の定期演奏会は、2012年6月に延期する(同一指揮者、曲目で)方向
で調整したい。
②5月22日の本番会場(浦安市文化会館大ホール)の予約は取り消していないので、この
日に別途の演奏会を行いたい。5月1日(日)に企画会議を開き、8日(日)からそれ
に向けて練習を再開する。
②は、ここ4年余り毎回指揮をお願いしている矢澤定明先生からの提案だった。大変な現状の中で何か目標を作り、音楽で元気になれる事をしませんか、と。既に声楽のソリストにも声をかけ賛同を得ている、とのことだった。
これを受けて、2回行った有志のアンサンブル会は、以後打ち切ることにした。
[5月1日(日)]<演奏会企画会議>
演奏会の企画会議。指揮の矢澤先生も参加。以下を申し合わせた。入場無料で客席はオープンする。告知も可能な範囲で行う。練習は8日(日)、15日(日)、21日(土)。「練習3回で本番」は異例だが、団員が目標を持つことが大事。できる範囲で仕上げる。
演奏会の構成、演奏曲目を検討。
演奏会の企画会議。指揮の矢澤先生も参加。以下を申し合わせた。入場無料で客席はオープンする。告知も可能な範囲で行う。練習は8日(日)、15日(日)、21日(土)。「練習3回で本番」は異例だが、団員が目標を持つことが大事。できる範囲で仕上げる。
演奏会の構成、演奏曲目を検討。
[5月8日(日)]<浦安シティオーケストラ再始動の日 9週間ぶりの練習>
9週間ぶりに団員が楽器を持って集合。2週間後の本番に向けての譜読み。急なことで全部の曲の楽譜がまだ揃わない。皆どこか平静さを欠き、浮き足だった空気だった。
9週間ぶりに団員が楽器を持って集合。2週間後の本番に向けての譜読み。急なことで全部の曲の楽譜がまだ揃わない。皆どこか平静さを欠き、浮き足だった空気だった。
[5月15日(日)]<第2回練習>
本番1週間前なのに初見曲あり、の第2回練習。
本番1週間前なのに初見曲あり、の第2回練習。
[5月22日(日)]<演奏会本番 一つの区切り>
●がんばろう浦安!みんなで音楽を楽しもう!コンサート(指揮:矢澤定明)
第1部 レハール 喜歌劇「メリーウィドウ」から「イントロダクション」「ヴィリアの歌」
「デュエット」
ビゼー 歌劇「カルメン」から「ハバネラ」「闘牛士の歌」
ヴェルディ 歌劇「椿姫」から「プロヴァンスの海と陸」
プッチーニ 歌劇「トゥーランドット」から「誰も寝てはならぬ」
プッチーニ 歌劇「ボエーム」から「ムゼッタのワルツ」
第2部 ビゼー 「アルルの女」第1組曲から「カリヨン」
ビゼー 「アルルの女」第2組曲
ベートーヴェン 交響曲第7番から第1楽章、第4楽章
アンコール エルガー 「エニグマ変奏曲」から「ニムロッド」
岡野貞一 故郷
指揮者、ソリストは無償での出演。大した告知もしなかったのに、400人超のお客さまが来場して下さった。結果として2ヶ月で終わったとはいえ、先の見えないあの空白の期間を経て、思いがけぬ早期の演奏会本番。ステージから客席を見た時、あれこれの思いがうずまき、感慨無量だった。他の団員も、それぞれの思いを胸に演奏したことだろう。
とにかく、この「本番」は3月11日以来の大きな区切りとなった。
●がんばろう浦安!みんなで音楽を楽しもう!コンサート(指揮:矢澤定明)
第1部 レハール 喜歌劇「メリーウィドウ」から「イントロダクション」「ヴィリアの歌」
「デュエット」
ビゼー 歌劇「カルメン」から「ハバネラ」「闘牛士の歌」
ヴェルディ 歌劇「椿姫」から「プロヴァンスの海と陸」
プッチーニ 歌劇「トゥーランドット」から「誰も寝てはならぬ」
プッチーニ 歌劇「ボエーム」から「ムゼッタのワルツ」
第2部 ビゼー 「アルルの女」第1組曲から「カリヨン」
ビゼー 「アルルの女」第2組曲
ベートーヴェン 交響曲第7番から第1楽章、第4楽章
アンコール エルガー 「エニグマ変奏曲」から「ニムロッド」
岡野貞一 故郷
指揮者、ソリストは無償での出演。大した告知もしなかったのに、400人超のお客さまが来場して下さった。結果として2ヶ月で終わったとはいえ、先の見えないあの空白の期間を経て、思いがけぬ早期の演奏会本番。ステージから客席を見た時、あれこれの思いがうずまき、感慨無量だった。他の団員も、それぞれの思いを胸に演奏したことだろう。
とにかく、この「本番」は3月11日以来の大きな区切りとなった。
[6月1日(水)]<定期演奏会の延期開催決定>
団長から、2012年6月の定期演奏会本番会場が予約でき、併せて指揮の横島先生のスケジュールもOKとの連絡。中止1年後の延期開催が確定。これは団員一同にとって、大きな安堵であり喜びであった。
団長から、2012年6月の定期演奏会本番会場が予約でき、併せて指揮の横島先生のスケジュールもOKとの連絡。中止1年後の延期開催が確定。これは団員一同にとって、大きな安堵であり喜びであった。
(次の記事に続きます)