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68歳、ヴィオラ弾き。ビール大好き。毎日元気。

エベーヌ弦楽四重奏団 CLASSIC+JAZZプログラム

17日(金)、紀尾井ホールで行われたエベーヌ弦楽四重奏団の演奏会を聴きに行った。

 

ベートーヴェンの全集などで名前は知っていたが、実演を聴くのは初めてである。
「CLASSICプログラム」、「CLASSIC+JAZZプログラム」の二夜の公演が行われたが、モーツァルトの14番があることと、「ジャズ選曲集」に興味を惹かれたことから、後者を選んだ。

 

●エベーヌ弦楽四重奏団 CLASSIC+JAZZプログラム

日 時 2022年6月17日(金) 18:15開場 19:00開演
会 場 紀尾井ホール
弦楽四重奏 エベーヌ弦楽四重奏団
曲 目 モーツァルト 弦楽四重奏曲第14番ト長調「春」
    ショスタコーヴィチ 弦楽四重奏曲第8番ハ短調
    ジャズ選曲集
       トゥーツ・シールマンス ブルーゼット *
       チャールズ・ミンガス フォーバス知事の寓話
       マイルス・デイヴィス マイルストーン
       ケニー・カークランド ディエンダ *
       ピー・ウィー・エリス ザ・チキン *
       セロニアス・モンク ラウンド・ミッドナイト
       ウェイン・ショーター アナ・マリア
       アストル・ピアソラ リベルタンゴ
         (* 今回来日のための新編曲)
    [アンコール] エデン・アーベ ネイチャー・ボーイ

 

誠に驚くべき演奏だった。この四重奏団が今後来日してくれる限り、生涯通い続けようと決心した。あるアーティストとのめったにない邂逅だった。

 

 

私の席は、1階BL列4番。下手側、演奏者をほぼ真横から見る形の席である。
周囲には、何やら弦楽四重奏通、といった感じの人が多く、前夜も来た、などの会話をかわしていた。

 

演奏者が登場。ヴィオラは中配置だった。

 

まず、お目当ての一つであるモーツァルトの14番。ハイドン・セットの6曲の中でも一番好きな曲で、ずいぶん昔にオケ仲間と弾いたこともある。

 

強弱、テンポが細かく動く。普段聴く、インテンポできっちりとしたモーツァルトではない。4人が自在な呼吸で動いているという感じだ。

 

弦楽四重奏の演奏において「4人が一体になって」というのは、まったくありふれた形容だが、本当にこの4人はあたかも1人の人間であるかのごとく音を出している。

無理のない呼吸が、音楽の表情を細かく変えていく。

 

聴き進むに従って、これはものすごいものを聴かされているのではないか、という思いが強まっていく。

水も漏らさぬアンサンブル。いや、複数の人間が行うアンサンブルを超えたものを聴いている気がする。

 

楷書でなく草書。

昔から聴いてきた典型的なモーツァルトではない。ロマンティックな味つけのモーツァルトとも形容できない。
強く感じたのは、常に音楽が軽いことだ。

 

4楽章の途中、フーガから全員の強奏が終わって、ヴィオラのきざみだけが残るところがある。ここは、私のイメージだと、ここぞとヴィオラがきざみを前面に押し出すのが効果的と思っているし、自分で弾く場合もそうしてきた。
しかし、この演奏ではまったく違った。ヴィオラのきざみは音量としては弱かったが、これはそれまでの強奏から4人全員がすっと局面を変える動きであって、楽譜上はヴィオラしか音がないので、その音量や軽さでも音楽がよくわかり伝わってくる。

 

この4楽章は特に圧倒的だったが、聴いていて、この曲のこういう演奏は初めてだと思ったのはもちろん、曲種を問わず、こういうモーツァルトの演奏は初めてだと思った。

 

曲が終わっても拍手などとてもできなかった。

 

次はショスタコーヴィチ

 

モーツァルトとは音楽のキャラクターがまったく異なるし、前の曲にはなかった音の厚みや野太さはあったが、それでも全曲を通じてレジェーロな感じは引き続き一貫していたように思う。

 

全曲が静かに終わり、音が消えてもしばらく動かなかった弓がゆっくりと下ろされる時に、私の左に座っていた男性(弦楽四重奏通の1人)のお腹がぐーーう、と鳴った。
あー・・・、とも思う一方、戦争にかかわる曲でもあり、空腹、は案外フィットする一聴衆の反応かもしれないと思った。

 

15分の休憩後、ジャズ選曲集。

 

前半と違って、譜面台には楽譜が予め置かれていなかったが、演奏者が楽譜を持って登場し、演奏が始まった。

 

上記のセットリストは、終演後、紀尾井ホールのサイトに載ったもの。

ジャズにはまったく不案内なので、演奏会場では曲を聴いても、ああ、この曲かと思ったのは「リベルタンゴ」だけ(しかもジャズではないし)。他は、セットリストを見たってわからない。マイルス・デイヴィスセロニアス・モンクの名前は知っている程度のレベルだ。

 

前半の2曲で、「弦楽四重奏アレンジによるジャズ」という単なる物珍しさにとどまらないものを聴かせてもらえるだろう、との期待は持てていた。
ジャズがよくわからない身の限りとして、その期待は十二分に満たされた。

 

鮮やかな演奏が続いた。

曲間には、チェロ奏者による英語のMCがはさまり、曲目の紹介などをした。
(このチェロの人は、前半のモーツァルトから、ずっとほとんど楽譜を見ていなかった)

 

この団体のジャズのアレンジは、チェロががウッドベースのような感じでピツィカートをはじいてリズムを出し、ファーストヴァイオリンがメロディを歌う。そして内声が和声とリズムで支えるパターンが多いように感じた。
この形はハイドン時代の弦楽四重奏を想起させ、興味深かった。

 

聴いていて、こういう音楽をやる人たちが、こっちの側からモーツァルトを見ると、14番のああいう4楽章になるんだな、と大変腑に落ちた。
たまたま聴きに来た初めてのこの一夜のプログラムで、この四重奏団がよく理解できた気がした。

 

すばらしい演奏を聴けたことで、今後もこの四重奏団を追いかけていこう、と決意したのだった。
また早く日本に来てもらいたいものだ。

 

YouTubeにこの団体の演奏を見つけたので貼っておく。

 

今回も演奏された「ラウンド・モッドナイト」他。

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こちらは公演前メッセージ。

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