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68歳、ヴィオラ弾き。ビール大好き。毎日元気。

今井信子スペシャル ~傘寿記念演奏会~

18日(金)、サントリーホールで行われた今井信子先生の傘寿記念演奏会を聴きに行った。すばらしい演奏会だった。

 

今井信子スペシャル ~傘寿記念演奏会~
日 時 2023年8月18日(金) 18:30開場 19:00開演
会 場 サントリーホール 大ホール
曲目・演奏者
    タバコヴァ 古い様式による組曲(日本初演)
      今井信子(ヴィオラ) 山田和樹(タンバリン)
      Nobuko Imai Specialオーケストラ
    武満 徹(森山智宏編) Songs「さようなら」、「恋のかくれんぼ」、「めぐり逢い」
      今井信子(ヴィオラ) 山田和樹(ピアノ)
    ヒンデミット ヴィオラソナタ作品11-4
      今井信子(ヴィオラ) 伊藤 恵(ピアノ)
    J.S.バッハ(小早川麻美子編) ブランデンブルク協奏曲第3番ト長調 第1楽章
      今井信子(ヴィオラ) 小樽ヴィオラマスタークラスAlumni
    リダウト はなのすきなうし
      今井信子(ヴィオラ) 今井純子(朗読)
    モーツァルト ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲変ホ長調
      竹内鴻史郎(ヴァイオリン) 今井信子(ヴィオラ)
      山田和樹(指揮) Nobuko Imai Specialオーケストラ

 

プログラム冊子から。

 

私の席は1階4列22番。前から4列目のほぼど真ん中の席だった。普通なら前すぎてあいにくに思うところ。実際、モーツァルトのオケの奥の方は見えない形だったが、今井先生の演奏姿や音に近くでふれることができたのはとてもありがたかった。

 

開演前、1曲目を演奏するオーケストラのコントラバス奏者がしているのを見ていたら、子供の奏者がいる。
プログラム冊子の解説を見ると、「Nobuko Imai Specialオーケストラ」は、9歳から30代までのメンバーで構成されているそうだ。おそらく舞台上にいる男の子がその9歳だろう。右隣にそれより大きな女の子。2人とも大人のサイズのコントラバスではない。分数ヴァイオリンは見たことがあるが、分数コントラバスというのは初めて目にした。大・中・小のコントラバスが並んでいるのは貴重だった。

 

開演の19時をまわっても1ベルが鳴らない。何かアクシデントでも? と思いながら待っていると、19:10にやっと1ベル。
間もなく、上手側2階席に、カメラやテレビカメラを持った人が何人も入ってきた。
19:15、天皇皇后両陛下と愛子内親王殿下が入場してこられ、客席から拍手。そういうことだったのか。
入場して着席してからこの間、これに関する場内アナウンスはなかった。

 

19:17、客席が暗転して開演。

 

「Nobuko Imai Specialオーケストラ」が入場。確かに若い。
ヴァイオリンは対向配置で、ヴィオラは下手側、チェロが上手側。
服装は、男性が黒シャツ黒ズボン、女性はカラードレスで華やかだった。
チューニングはなく(開演前にコンミスが舞台上のチェンバロにAをもらいに来ていた。袖でチューニングしたのだろう)、指揮者が出てくるのかと思ったら、コンミスの合図で最初のタバコヴァの曲が始まった。
間もなく、客席から黒子のような衣装を着て顔にも黒い布をかぶった人物が出てきて、タンバリンをたたきながらステージに上がった。これが指揮者の山田さんか? と思ったが、そのまま下手にはけていった。入れ替わるように下手から今井先生が演奏しながら入場。
この曲は、指揮者なしのまま進行した。バロック風で、時にひなびた、時にもの悲しいテイストの音楽だった。
日本初演とのことだが、初めて聴く者にも大変説得力を感じさせる音楽だと思った。
オケがものすごくうまいのに驚く。解説によると、「オーディションにより選抜された、将来音楽家を目指し、プロフェッショナルの気概を持つメンバー」により特別編成されたオケとのこと。なるほど、さもありなんと思う。
途中、第2楽章だろうか、ゆっくりとした、おそらく白玉だらけの音楽があった。こういう楽譜を指揮者なしで合わせるのは大変だろうが、レベルの高い若手オケはさすがだった。

今井先生は、この演奏会すべての曲で譜面台を置いての演奏だった。この曲ではコンミスの横の奏者が1回だけ譜めくりをした。

 

オケがはけて、舞台転換の間、正面オルガンの手前に下がったスクリーンに短い映像が投影された。
今井先生の子供の頃から、ヴィオラに転向するまでの歩みを紹介する内容だった。
タングルウッドでボストン交響楽団の演奏を聴いた際、R.シュトラウスの「ドン・キホーテ」のヴィオラソロを弾いたジョセフ・ド・パスクワーレ氏の音に魅せられて、ヴィオラを志したとのこと。パスクワーレ氏にヴィオラをやりたいと相談したら、左手を見せてごらんと求められ、この大きさなら大丈夫、と言われたことで転向したそうだ。
そのパスクワーレ氏とは、51年後に再会する機会があり、その時の写真が映し出された(プログラム冊子にも掲載)。

 

次の曲、武満徹の3つの歌曲(ヴィオラとピアノの二重奏に編曲)。
今井先生と、先ほどの黒子が登場。黒子がかぶりものをとると、山田和樹さんだった。やっぱり。
武満徹の作曲ながら、調性のはっきりした音楽。
(この手の作品は、「死んだ男の残したものは」を森山良子のアルバムで聴いたのが最初。母が「武満徹の作曲なんだ」と驚いていたのをおぼえている。私は武満徹という人をまだ知らなかった。中学生の頃だ)
3曲目の「めぐり逢い」が、荒木一郎の作詞だというのは知らなかった。荒木一郎に「めぐり逢い」という曲があったことはおぼろげに記憶していたが、てっきり彼の作詞作曲だと思っており、まさか武満作品だとは。

 

続いて、ヒンデミットソナタ。今度は伊藤恵さんのピアノ。
日頃、なじみのない作曲家であり作品だ(市川友佳子さんの演奏を聴いたことがある)。渋いが味わい深く、どちらかと言えばわかりやすい音楽だと思った。

 

再度舞台転換。

上手下手に譜面台が6本ずつ立てられ、正面奥にチェンバロ、その手前にチェロ。
「小樽ヴィオラマスタークラスAlumni」が登場。今井先生が小樽で創設したマスタークラスの参加者がこの日のために集結したとのこと。須田祥子さんもおられた。
服装は若手オケ同様。
演奏されたのは、ブランデンブルク協奏曲の3番。小早川麻美子さんがヴィオラとチェロのために編曲されたもの。
(小早川さんとは、ある会食の集まりで一度だけお目にかかったことがある。小早川さんはヴィオラ奏者でもあるが、この演奏には参加されなかった)
これはすばらしい演奏だった。ヴィオラは6つのパートからなるそうだが、そのパートの移り変わりが、4列目の席からは視覚的にも聴覚的にもよくわかって大変面白かった。
1楽章だけだったが、3楽章も聴きたかった。

 

ここで20分間の休憩。既に20時半をまわっていた。

 

休憩中に、モーツァルトに備えたオケのセッティングに転換。
中央前面に譜面台が2つ置かれ、その足元には花の籠。
指揮台と指揮者の譜面台は舞台奥側へ押された形になっていた。

 

リダウトの「はなのうし」。
今井先生のヴィオラソロと朗読の2人だけ。朗読は今井純子さん。プログラム冊子には今井先生の義理の娘と紹介されており、つまり、嫁と姑の共演だ。
花が好きな牛の物語を、朗読とヴィオラが交互に進めていく。ヴィオラは物語を描写したり登場人物(牛)の言葉を表現しているようだった。
先の映像で、パスクワーレ氏の「ドン・キホーテ」を聴いた今井先生が、「ヴィオラが人の声のようだ」と魅力を感じたと話されていたのを思い出した。そういうこともあっての選曲だっただろうか。
珍しくも楽しい時間だった。

 

最後は、モーツァルトの協奏交響曲
今井先生のソロでのこの曲は、2018年に紀尾井ホール室内管弦楽団の演奏会で聴いている。
対向配置は変わらないが、冒頭のタバコヴァより人数は増え、ファースト、セカンドのトップが入れ替わるなど、シフトも変更されたようだった。
ヴァイオリンのソリストは竹内鴻史郎さん。何と18歳。東京音楽大学の附属高校在学中とのこと。
山田さんの指揮で曲が始まる。思ってみれば、山田さんが指揮者として演奏するのは、この日初めてだ。
ソリストも、序奏が終わるのを待つのでなく、tutti部分を弾き始めた。
と思った次の瞬間、音楽が「ハッピー・バースデー」に切り替わるサプライズ。今井先生は3月生まれだが、80歳、傘寿記念だから、ということだろう。
竹内さんが下手舞台袖から花束を持ってきて今井先生に渡す。山田さんが客席に向かって唱和を促し、大合唱となった。
山田さんが今井先生にマイクを渡す。今井先生がひとこと挨拶を述べた後、山田さんが「先生、次は90歳ですからね」。
改めて演奏が始まった。
それにしてもこの協奏交響曲は圧巻だった。
まず、今井先生のヴィオラ。この演奏会の最初からすべての曲を弾いてきた上で、最後にコンチェルトを弾かれたエネルギーはどうだろう。これで80歳とは。
(後にネット上で知ったところでは、本番前のリハーサルも全部の曲をフルに弾かれたのだそうだ)
ヴァイオリンの竹内さんは、もしかするとご本人としてはいくつか悔いが残ったかもしれないが、18歳で世界の今井信子と渡り合ったこの演奏は本当に大健闘と言える。
しかし、改めていい曲だね。モーツァルトの諸作品の中でそう目立つ存在ではないと思うが、もっと聴かれるべき傑作だと思う。弦2本のコンチェルトとしても、ブラームスのドッペル・コンチェルトに比肩すると思う。

 

ここまで、ステージ上の演奏者は、2階席の天皇ご一家を意識した所作がなかった。天覧相撲だと、土俵入りからして御膳掛かりだったりするのだが。
しかし、この最後のモーツァルトが終わった時は、ソリストと指揮者だけが、2階席に向かって一礼していた。

 

アンコールはなし。
オケがはけた後も、カーテンコール。
今井先生が最後に1人で登場して、マイクを持って挨拶され、2階席の天皇ご一家にも謝辞を述べておられた。

天皇ご一家は最後まで隣席され、拍手の中退席された。

 

21:55、終演。
長い演奏会だったが、本当に中身の濃い時間だった。

今井先生とは、妻の知人のヴィオラ奏者を介して一度だけお目にかかったことがある。確かカザルスホールの楽屋だった。少しだけお話をしてサインをいただいた記憶がある。
80歳にしてまだまだお元気な演奏が聴けて本当によかった。山田さんがおっしゃるように、90歳の記念演奏会も是非楽しみにしたい。

 

※この演奏会についての事前のネット記事

freudemedia.com

 

ヴィオラマスタークラス実行委員会(小樽)のFacebookページ

 (この演奏会についての記事、バッハのリハーサル動画あり)

www.facebook.com

 

天皇ご一家ご来臨を伝える翌日のスポニチの記事

 

日本テレビのニュース映像。演奏シーンはタバコヴァ。

youtu.be