18日(火)、東京芸術劇場に東京都交響楽団の演奏会を聴きに行った。
●東京都交響楽団 第927回定期演奏会Cシリーズ
日 時 2021年5月18日(火) 13:00開場 14:00開演
会 場 東京芸術劇場コンサートホール
指 揮 井上 道義
ヴァイオリン 辻 彩奈
オルガン 石丸 由佳
管弦楽 東京都交響楽団
曲 目 サティ バレエ音楽「パラード」
サン=サーンス ヴァイオリン協奏曲第3番ロ短調
[ソリストアンコール]
権代敦彦:Post Festm-ソロ・ヴァイオリンのための-より「Ⅱ」
サン=サーンス 交響曲第3番ハ短調「オルガン付」
この演奏会に行こうと思ったのは、メインの「オルガン付」が聴きたかったからだ。
ネットでチケットを買ってから、平日のマチネーであることに気づいた。幸い、会議とかの予定も入っていなかったので、午後半休を取ることにした。
東京芸術劇場に足を運ぶことは少ない。演奏会を聴きに来るのは、2017年12月の一橋大学管弦楽団の演奏会以来だ。
(一度だけここで演奏したことがある。2015年11月に、KAJIMOTOのイベント「エル・システマ フェスティバル 2015 in TOKYO ワークショップ」に参加した時のことだ。いい思い出である)
私の席は2階A列5番。2日前の東京文化会館での東京シティ・フィルの時も2階席だったが、あれに比べるとステージにはずいぶん近い。いい席だった。
このホールのオルガンの外観はあまり好きでない。何かグロテスクな感じがするからだ。
ステージ下手側には、サティの「パラード」に使う種々の特殊楽器が並んでいる。
サイレン、ルーレット、タイプライター、フラックソノール、ブテイヨフォン(ボトルフォーン)、ピストル。
フラックソノールは、大きな透明の洗面器みたいな容器に水が張ってあって、その水面を奏者が両手でたたいて音を出すもの。
ブテイヨフォン(ボトルフォーン)は、金属の枠に何本もの酒瓶がぶら下がっていて、中に入った水(まさか酒?)の量で音程を作り、それをたたく楽器。チューブラベルのような感じだ。
兵庫芸術文化センター管弦楽団から借用したそうだが、こんな楽器を自前で持っているオケってすごいな。
これらの楽器については、事前にTwitterやFacebookに動画や写真が載っていた。
貼り付けておく。
都響ヴァイオリン副主席の渡邉ゆづきさんのツイート。
#都響 #リハ#サティ バレエ音楽《パラード》
— 渡邉ゆづき Yuzuki Watanabe (@YUZUKI79403436) 2021年5月16日
奇才なマエストロ井上道義氏の元
愉快な打楽器の音達を少しご紹介🤩🥳👏
フラックソノール(水の跳ねる音)は全身ずぶ濡れ覚悟🌊😂
ボトルフォーンは🍾
兵庫芸術文化センター管弦楽団様@hpac_orchestra より拝借🙇♀️
本番
5/18 14時 東京芸術劇場 pic.twitter.com/PcK5laWxVU
都響のチェロ奏者の長谷部一郎さんのツイート。
実は、ブテイヨフォン(ボトルフォーン)については、これに似た楽器を使った音楽を、大学オケの時に演奏している。
大学オケの常任指揮者はデービッド・ハウエル(David Howell)というイギリス人だったが、大変な酒豪だったそのハウエルさんが、「ハウエルフォン」という楽器のためのコンチェルトを2曲作曲し、それを我々が演奏したのだった。そのハウエルフォンが、まさにブテイヨフォンのようなものだった。1年先輩の打楽器奏者がソリストを務めた。
楽員登場。コンマスは矢部達哉さん。弦は12・10・8・6・4。譜面台はプルトに1台。ヴィオラは外配置。
基本的にマスクは着けない申し合わせのようで、ヴィオラのトップサイドの店村眞積さんなど、数えるほどの人が着けているだけだった。男性楽員は棒タイ。
最初はその「パラード」。大学時代、曲名を「バラード」(ショパンのバラード、海援隊の「母に捧げるバラード」のバラードね)だとばっかり思っていて、オケの後輩と話している時に、「naokichiさん、それ「パラード」ですよ」と言われてびっくり、赤面したのを思い出す。パレードと同語源ということなんだろうか。
初めて実演で聴く「パラード」は、終始特殊な打楽器に目が行く形で聴いた。
フラックソノールは、何度も何度も奏者がバシャバシャと水をたたき、頭から胸のあたりまでがすっかりびしょぬれ。出番が終わって椅子に座ってハンカチで拭いていた。
タイプライターが演奏会のステージに乗るのは、アンダーソンとこれくらいか? カタカタカタカタとキーを打って、出てきた紙を奏者が背後に投げた。
曲が終わった瞬間、オケ全員がさっと立ち上がった。これは楽譜にそのような指示があるんだろうか。
ともかくめっぽう楽しい音楽であり、パフォーマンスだった。もっと聴かれていい曲だと思う。楽器を揃えるのが大変だから実演はなかなか難しいかもしれないが。
コンチェルトの前にステージ転換。特殊楽器とハープが舞台からはけた。
さてここからは、サン=サーンスの3番、「サン3プログラム」だ。
辻彩奈さんのコンチェルトを聴くのは2回目。2019年9月に大阪のザ・シンフォニーホールでモーツァルトの5番を聴いた(オーケストラ・アンサンブル金沢の演奏会)。
サン=サーンスの3番は、ロマン派のコンチェルトの代表曲の一つだが、どういうわけか私は実演はもちろん音源でも聴く回数が少ない。昔からだ。
久しぶりに聴いて、1楽章はちょっとつかみどころのない音楽に感じた。ソロもオケにちょっと負けている感じがあった。
2楽章が始まって、ああそうだ、こういう音楽だった、と思い出した。美しい音楽だ。終結部のフラジオレットが天国的だった。
3楽章は誠に水際立った鮮やかな演奏で圧倒された。
ソリストアンコールは、サン=サーンスとはまったく違うタイプの音楽。迫ってくる強い力を感じさせる音楽だった。
終演時、アンコールボードは密を避けるためか置かれておらず、帰宅後調べてみたところ、権代敦彦という人が作曲した、「Post Festum-ソロ・ヴァイオリンのための-より「Ⅱ」」。
ネットで見つけた権代敦彦氏のインタビューによると、辻彩奈さんからの委嘱作品。「Post Festum」は「宴のあと」を意味し、オーケストラとのコンチェルトの後に弾くアンコールピースを作ってほしいとの依頼だったそうだ。2020年6月19日(金)にサントリーホールのブルーローズで辻さんにより初演されている。
今回演奏されたのは、3曲作られた内の2曲目。
https://mcsya.org/interview-with-atsuhiko-gondai-composer-1/
辻さんのTwitterから。
#都響
— 辻彩奈 Ayana Tsuji (@ayanaviolin) 2021年5月18日
初挑戦のサン=サーンス3番。コンサートマスターの矢部さんをはじめとする都響の皆さんの温かいサポートを頂きながら、やりきることが出来ました。道義さんとの時間はいつも刺激的💥今回もたくさん勉強になりました!ご来場および関係者の皆様、本当にありがとうございました。 https://t.co/wJvHemnBHb pic.twitter.com/HLGYbZrtlW
Photos of today's concert📸
— 東京都交響楽団 (@TMSOnews) 2021年5月18日
5/18(火) 第927回定期演奏会Cシリーズ #東京芸術劇場
指揮 #井上道義
ヴァイオリン #辻彩奈
オルガン #石丸由佳
サティ:バレエ音楽《パラード》
サン=サーンス:ヴァイオリン協奏曲第3番 ロ短調 op.61
サン=サーンス:交響曲第3番 ハ短調 op.78《オルガン付》#都響 pic.twitter.com/hTvRotOGP0
【ソリスト・アンコール】#権代敦彦 : Post Festum-ソロ・ヴァイオリンのための-より「Ⅱ」(ヴァイオリン / #辻󠄀彩奈) pic.twitter.com/L6a1zebud6
— 東京都交響楽団 (@TMSOnews) 2021年5月18日
休憩後は、メインのシンフォニー。
この3番は、大学時代からの愛聴曲である。在学中に新譜として発売されて買ったバレンボイム=シカゴ響の演奏は、今でも一番聴くことが多い。
2015年11月に、所属オケの定期演奏会で弾く機会があった(習志野文化ホール)。めったにできない経験だった。忘れられない。
それから古い話だが、1981年に新日本フィルの定期演奏会でこの曲を聴いたことがある。確かその時の指揮が井上さんだったような気がする。誠に不確かな記憶なのだが。
弦は人数が増えて、16・14・12・10・8.
このホールのオルガンはステージ正面奥にあるので、奏者は指揮者に背を向けて座る。遠目に見ると、どうやら演奏台に鏡が付いているようだ。指揮者もオルガンがからむところでは上を向いて振っていた。
好きな曲を生で聴けて幸せだった。本当によくできた曲だと、聴くたびに思う。
オケがよく鳴っていた。弦の音もズンズンと迫ってきた。2日前の東京シティ・フィルの時より距離が近いこともあっただろう。
聴きながら、ステージ上ではオルガンの音がどう聞こえるんだろうか、と思った。習志野文化ホールでは、上手側側面にオルガンがあるので、オルガンの音はダイレクトにステージ全体に聞こえる。たぶんNHKホールも同じだと思う。
一方、この東京芸術劇場だと、弦はともかくとして、管楽器と打楽器奏者にとっては、頭の上に天井があり、その上にオルガンが乗っているような形になる。どう聞こえているんだろう。
また、オルガン奏者側にはオケの音がどう聞こえているんだろう。
そんなことを思った。
それから、オルガン奏者がオルガンで音を出す感覚って、どうなんだろう、とも思った。
弦楽器、管楽器、打楽器とも、基本的には音の強弱をつける時には、自らの「肉体の力」を加減する。ピアノもそうだ。
しかし、オルガンの場合は自分の肉体を使って音を出すというよりは、オルガンという構造物がメカニズム上の作用で音を奏でている面があるように思う。だから、このシンフォニーの最後の盛り上がりのところなどで、オケ奏者は全員がここぞとばかりに力を振り絞って弾き、吹き、たたいて、それに見合った音が出せた手応えを感じられるのに対して、オルガン奏者は、演奏というよりある「操作」でその強音を出しているわけで、鍵盤を押し、あるいは踏みはしていても、たぶん汗だくで後日の筋肉痛になるような身体的負担はないんじゃないだろうか。
バンドなどの電気楽器に通じるものがあるかもしれない。
とにかく大満足。この曲は機会があればまた実演で聴きたいし、それ以上にできればもう一度弾いてみたい。
井上さんは、どの曲もいつも通りのおしゃれな指揮だった。ほんとに絵になる人だ。
オルガンの石丸さんは、ソリスト的なドレスではなく、黄色のノースリーブ、ミニスカートに黒ストッキングの衣装。クラシックの演奏会にはちょっと珍しい、しかし素敵ないでたちだった。
石丸さんのツイートから。
オケとしてのアンコールはなく、2時間で終演。2日前の3時間半を超える演奏会に比べるととても短く感じた。
素敵なプログラムの、良い演奏会だった。
※過去の関連記事
「ORCHESTRA 65+」ワークショップに参加
https://naokichivla.hatenablog.com/entry/65031923
エル・システマ フェスティバル 2015 in TOKYO ワークショップ <1>
https://naokichivla.hatenablog.com/entry/65093361
エル・システマ フェスティバル 2015 in TOKYO ワークショップ <2>
https://naokichivla.hatenablog.com/entry/65093382
エル・システマ フェスティバル 2015 in TOKYO ワークショップ <3>
https://naokichivla.hatenablog.com/entry/65093408
「エル・システマ フェスティバル 2015 in TOKYO ワークショップ」の新聞記事
https://naokichivla.hatenablog.com/entry/65093417
大学オケ時代の指揮者の訃報
https://naokichivla.hatenablog.com/entry/65797630
井上道義氏の主張
https://naokichivla.hatenablog.com/entry/2020/07/08/224203
※井上さんが大阪フィルでマーラーの7番を振る予定の演奏会が中止
だいぶお怒りになっている(井上道義オフィシャルウェブサイトから)
https://www.michiyoshi-inoue.com/2021/05/_548_1.html#blog