Facebook上で、指揮者の井上道義氏と、感染症専門家の岡部信彦氏が、新型コロナウイルス対策について語っている情報を見た。
2回に分けた記事の形になっている(BuzzFeedNews)。
1回目はこちら。
●音楽家が新型コロナ対策について感染症の専門家に問いかけた 「みなさん行き過ぎてませんか?」
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-inoue-nonchan?utm_source=dynamic&utm_campaign=bfsharefacebook&fbclid=IwAR00rt7jHvrVHtBgFLyIfnFOHnNgsMEmXd0SY7HHHizzhJlIhsO8WWGw6us
(記事中には、両氏の対談映像も載っているが、まだ観ていない。以下は、記事の記述を元にしている)
この中で、井上氏は、今の対策が行き過ぎではないか、との疑問を呈している。
「インフルエンザでも世界中で毎年50万人死んでいるのに、なぜ新型コロナウイルスではここまで大騒ぎするのか?」。
「インターネットやスマホで世界中が騒ぎ過ぎている方が問題じゃないか?」。
「副作用の大きい薬(都市封鎖や行動制限)を、政治家が世界中の人たちに飲ませちゃったんじゃないか」。
全世界的に自粛が進んでいることで、音楽家、芸術家、特にフリーランスの人たちが大変な状況にあるが、おかしいのではないか、との主張である。
ネットやスマホが、恐怖を倍加させ、同調圧力を強めているとも、指摘する。
2回目はこちら。
●「音楽ファンは腹をたててほしい」 3ヶ月ぶりにオケを鳴らした指揮者が訴えたいこと
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-mickey?utm_source=dynamic&utm_campaign=bfsharefacebook&fbclid=IwAR1m_FJ7grC_Qby3MoO926jsNxSlr0cfiaaqfa9I1h3qNyO11BZuQE3lXaA
ここでは、井上氏が、7月3日(金)にミューザ川崎で行った演奏会と、それに向けたリハーサルの模様が紹介されている。
リハーサルでは、楽員に向けて、「人の意見が怖い、人の目が怖い病気です。マスクをつけなかったらああだこうだ言われることが怖いという、おかしな状況になっている」、「音が出しにくかったらマスクを取ったらいい」と語ったそうだ。
井上氏は、練習でも本番でも、マスクは着けなかったとのこと。
今回、東響では、先立って行われたウィーン・フィルや東京都交響楽団の実験で、通常の距離で通常の演奏をしても問題ないとの結果を認識しつつも、気にする楽員もいることから、左右80センチ、前後1.5メートルの距離をとったと言う。
これについても、井上氏は、「実験で通常の演奏方法でも問題ないって知ってるだろ。科学的に問題はないのに、社会の目を気にして従っているだけなんだよ」、と述べている。
それに対して、コンサートマスターの水谷晃氏は、「今の状況がおかしいことはわかっています。でも僕らの業界はお客さんが安心して来てもらえないと成り立たない。社会の反応を見ながら、マスクも必要ないけれどもつける。演奏会に不安を持ってもらいたくないからです」、としつつ、自身はマスクなしで演奏したそうだ。
演奏後、井上氏は、こう語っている。
「俺は3月からずっと怒っている。何やっているんだ、世界中!って。少なくとも日本は相当安全であるにもかかわらず、対策は副作用の方が強い劇薬を国中の人に飲ませた大げさなものと言えます」。
そして、お客さんに早く戻ってきてほしい、と呼びかけている。
井上氏の主張を読んで、色々と考えさせられた。
日本のこれまでの感染者数や死亡者数の推移、それとインフルエンザとの比較(新型コロナウイルスの方が少ない)、あるいは日本と海外の比較(日本の方が少ない)は、以前から指摘されてきたところだ。
緊急事態宣言が解除され、リスクを取りながら経済を回し始めた中、感染予防の側面について、気にし過ぎではないか、神経質になり過ぎではないか、との議論も出てきている。
そうした中、井上氏の言う、「副作用の大きい劇薬」や「社会の目を気にし過ぎ」との指摘は、考え方としては理解できる。
要するに、新型コロナウイルスのリスクの現状を過大にとらえていないか、という指摘だし、そういう面はあるかもしれない、とは思う。
ただ一方、では、自分の生活を、今日、今から、コロナ騒ぎが始まる前に戻せるか、何事もなかったように戻せるか、というと、それには大きな不安がある。
マスクをせずに電車に乗る、車中ではつり革や手すりに素手でつかまる、混んだ店で飲食する、大声で話し、笑う・・・、やっぱりちょっと無理だなあ。怖い。
緊急事態宣言の時期、自粛と補償はセット、と言われたことに端的に表れているように、感染予防と社会経済を回すことには、相反する面がある。
いつまでも身を潜めているわけにはいかないのはわかる。生きていかなければならないのだから(生物学的に、かつ社会的に)、どこかで折り合いをつけながら、リスクをとっていかねばならない。
人類の歴史上、どのような場面においても、常にそうだった、ということも、わかる。わかっている。
その折り合いのつけ方に伴って、井上氏の言う「社会の目」が、例えば、自粛局面での同調圧力や、自警団的な動きに傾くことは、あってはならないと思う。今の時代、ネットがそれに好ましくない影響を与えてしまうことも、よくないと思う。
でもやっぱり、「社会の目」は、少なくとも無視することはできないよね。
マスクをせずに電車に乗るのがはばかられるのは、やはり今どき、そんな人がほとんどいないからだ。
これが、例えば、「そうだね、インフルエンザのことを思えば、新型コロナウイルスだけを心配するのは、おかしいね」、と「社会の目」の水準が下がってくるのであれば、話は違う。
そうでない現状で、一人で先んじて踏み込んで行くことには、やっぱり勇気が要る。まさに「社会」の中で生きているからには。
話を、オーケストラが演奏会を行うことに絞ってみる。
指揮者の井上氏が言うことに対して、コンマスの水谷氏は、演奏会のお客さまの不安を考えると、マスクは要らなくてもつける、としている。
そういうことなのだろうと思う。プロでも、いや、プロだから、お客さまのことを考えて、そこは「割り切らずに」臨む、ということなのだろう。
ひるがえって、我々アマチュアにしても、今後、活動を再開して、演奏会を行うとすれば、お客さまへの意識は、当然持たねばならない。
演奏する我々だけが、「社会の目」と違うところで、ある判断をして、大丈夫、と割り切った対応をすることは、やはりできない。
井上氏の主張は、「社会の目」の「今の水準」がおかしい、と言いたいのだ、と理解する。
その水準を「変える」ことは、東響のようなプロオケであっても、時間もエネルギーも要する話だと思う。
我々アマチュアが先に進むためには、都響を始めとする多くのプロオケが取り組み始めている検証事例が、どうしても「道しるべ」として必要だ。
クラシック音楽公演運営推進協議会とN響他が、「コロナ下の音楽文化を前に進めるプロジェクト」を進行中であることも重要だと思っている。
そうした検証事例の積み重ねが、社会的にも認知されれば、それをよりどころにして、アマチュアも歩き始められると思う。
井上氏の主張と、今の私の心情には、残念ながらまだ距離があるが、氏が言われていることに近づければ、という思いはある。
一人では近づくのは大変かもしれないが、周囲の仲間と力を合わせて、何とか。
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