3日(木)に神田共立講堂で行われたグレープのコンサート。
私にとってはまさに垂涎のものだったが、一次抽選、二次抽選のいずれも当たらず、涙を飲みつつ、せめてと有料の配信チケットを購入した。
コンサートその日時は、宇奈月オペラ東京公演の練習と重なり、生配信の形で視聴することはできなかった。
(もしチケットが入手できていたら、練習の方を欠席するつもりだった)
見逃し配信は今日6日(日)までだったが、期限ぎりぎりの今日、2時間21分の配信動画を視聴した。
まず、セットリスト。
精霊流し
(MC)
紫陽花の詩
雪の朝
(MC)
殺風景
(MC)
交響楽
(MC)
蝉時雨
朝刊
(MC)
ゲシュタルト崩壊 ※
ほおずき
(MC)
天人菊 ※
(MC)
ひとり占い
(MC)
縁切寺
無縁坂
[アンコール]
掌
精霊流し
配信されたのは15曲。※の2曲は新曲である。
このコンサートを報じるスポニチやネット上のニュースでは、「全16曲を披露」とあったので、調べてみたところ、セカンドアンコールとして「19才」が歌われたらしい。
有料の生配信であれば、最後の最後まで見せてほしかったところだ。
4日(木)のスポニチ。
グレープの生演奏は、4月6日(水)に「文化放送開局70周年記念 海援隊・南こうせつ・さだまさし・グレープ セイ!シュン コンサート」(東京国際フォーラムホールA)で聴いている。
その時と同様、上手側にさだ(まさし)さん、下手側に吉田(政美)さんという配置。これは、往年とは逆だ。
MCで聞いた話によると、「一般のお客さん」は888人。おそらく関係者などは別カウントだろう。900人足らずのチケットに当選できた人はうらやましいという他はない。
さださんからの「1976年3月26日に、ここで聴いたという人は拍手してみて下さい」に応える拍手が聞かれた。
冒頭の「精霊流し」は、このところのテレビやコンサートでの演奏に比べると、だいぶ遅いテンポ。久しぶりのグレープとしての演奏を自分たちで味わっている感じがした。あるいは、フルコンサートということで、全体のペース配分をさぐっているのかな、とも思った。
ほとんど1曲ごとに、2人のトークがはさまれた。
当然のことだが昔話が多かった。「精霊流し」をホテルの部屋で作って、2日後に大阪の映画館での映画の前座演奏の時に初演した話など。
「(グレープは)この曲から始まりました」と「紫陽花の詩」。
続いて演奏された「雪の朝」は、イントロでの吉田さんのハーモニクスの音に、そうそう、こうだった、と身震いがした。
私にとって、「グレープを聴く」というのは、吉田さんのギターを聴くことだ。2人で演奏されたここまでの3曲は、本当に感慨深いものがあった。
ステージにはピアノなどが配置されているのが見えていたが、ここでバンドが呼び込まれた。
ピアノ、音楽監督:倉田信雄
ギター:田代耕一郎
ベース:平石カツミ
パーカッション:木村キムチ誠
いずれも、さださんのツアーバンド、「さだ工務店」のメンバーである。
「殺風景」、そして「交響楽」。
ヴァイオリンを使った「交響楽」を聴くのはいつ以来だろう。涙が出る思いだった、
次は「蝉時雨」。「70になると、この曲のテンポがしんどいんだよ」と吉田さん。「俺は20代の頃からしんどかったよ」とさださん。
この日の演奏は、往年よりはずっと遅いテンポだった。私はこの曲を2拍子で感じて聴いているが、このテンポだと4拍子だ。
そして「朝刊」。
ここまで7曲で、前半が終了という構成のようだった。この2曲くらい前に、さださんから「生配信でご覧になっている方は間もなく休憩タイムなので飲み物など用意して下さい」というような話があった。
明確に休憩はとられなかったが、ここでバンドメンバーが紹介され、50周年を祝って、ステージ上の6人がジュースで乾杯した。客席は飲食禁止だが、生配信を観ている人は一緒に乾杯できたわけだ。1972年の同じ11月3日は、グレープが長崎大学経済学部で初めて人前で歌った日ということだった。
その後、全員がステージ前面に出てきて、客席をバックにする形で記念撮影が行われた。
後半1曲目に歌われたのは、新曲「ゲシュタルト崩壊」。
その前のMCで、今回、グレープとして組むにあたり、吉田さんは「同窓会にしたくない」との意向だったそうで、それなら新しい曲、アルバムを作ろうかという話が出ているとのことだった。
既にできている新曲として、バンドも含めたメンバーで演奏された。
この曲は、おそらくさださんの作詞作曲だろうが、「さだまさしの新曲」ではなく、「グレープの新曲」だ。そこの違い、意味づけをさぐりながら聴いた。
これは、レーズン名義で出たアルバム、「あの頃について」(1991年)の時も同じだった。
続いて「ほおずき」。
そして、もう1曲、新曲が歌われた。「天人菊」。これは2人で演奏された。
新曲はあと2曲くらいできているが、まだステージで演奏できるところまで達していないとのことだった。
「この後歌うのは、「縁切寺」と「無縁坂」くらいですが、皆さんには、他のあの曲はやらないのか、といった声もあるかもしれませんね」というような話の流れで、さださんが「「ひとり占い」とか」と言うと、客席から結構な反応。さださんとしては冗談で出した曲名だったようだが、「誰も知らないでしょう? こんな曲」と言いつつも、スタッフが楽譜を持ってきて2人の前の譜面台に置いた。
「セットリストにないじゃない、これ」と吉田さんが言うのもかまわず、2人で「ひとり占い」が演奏された。
「お前、ハモりおぼえてるか?」と聞かれて、おぼえていないと答えた吉田さんのコーラスはなかった。
吉田さんの足元にはおしぼりが置かれていて、しきりと額をぬぐっていた。
その後のMCでは、順調に行けば、早くて2月には、グレープの4枚目のオリジナルアルバムが出る、と宣言された。
「わすれもの」(1974年)、「せせらぎ」(1975年)、「コミュニケーション」(1975年)に続く4枚目。「あの頃について」はカウント外のようだ。
アルバムタイトルは、20代で最初のアルバム、「わすれもの」を出したので、70代になった今回は「ものわすれ」でどうか、とトークで語って笑いをとっていたが、これは再考されるらしい。
50年経ち、まだまだこれから時間はあるように思っても、実際には残されている時間は少ない。しかし、その時間を大切に、どこまで走ることができるか、どこまで高みに登れるか、がんばっていきたい、とのさださんの話があり、予告通り、最後は「縁切寺」、そして「無縁坂」が歌われた。
全員が一旦ステージからはけた後、2人が再登場。
譜面台に新しい楽譜が置かれていたようで、吉田さんが「どうしよう。こんなにあるの? 誰が置いたんだ」。
「掌」。
そしてバンドが入場して、「精霊流し」。1曲目で歌われた時はギター2本だったが、ここではさださんはヴァイオリンを持った。
配信映像はここまでで切れたが、前記の通り、まだ続きがあったらしい。
途中、吉田さんのナンバーは1曲くらいあるのかな、と思ったが、結局なかった。残念。
さて、共立講堂まで行けなかったのは残念だが、こうして映像を観られたことは大きな喜びだった。
繰り返しになるが、グレープの値打ちは吉田さんのギターにあると思っている私としては、この映像では主に吉田さんを観ていた。
解散から46年。以後、2人の歩みは大きく異なっている。吉田さんは、しばらくの間、バンドやソロ活動をしたものの、演奏の一線からは退き、確かプロデューサーとしての仕事を続けてきたと思う。
現役のミュージシャンではない吉田さんが、この間、ずっとソロアーティストとして4,000回を超えるコンサートを重ねてきたさださん、またバンドメンバーと共に、本格的なコンサートのステージに立つにあたっては、大きな決断があったと推測する。
2人だけのグレープとしての演奏を聴いていて、これはまさしくグレープだと嬉しく思った一方、バンドが加わり、しかもそこに田代さんというギタープレーヤーがいる形になってからは、どう聴いたらいいのか、難しいところも感じた。
形としては、さだまさし+さだ工務店のメンバーに吉田さんが混じっているというふうにも見える。
・さださんのソロコンサートで、さだ工務店とともに演奏されるグレープナンバー。
・グレープのコンサートとして開催され、さだ工務店のメンバーが加わったこの日のグレープナンバー。
全曲にわたって、その違いをわかることができたとは言えなかった。
たぶん、このコンサートに向けてのリハーサルでは、実務的に、つまり音楽的に、色々なことがあったのだろう。また、さださん、吉田さん、それぞれに思うところも色々あったのだろう、と感じた。
しかしともかく、吉田さんの「やるからには同窓会にしたくない」との考えもあって、新しいアルバムは出る。
また、コンサートもどうやらこの1回だけではないらしい。
このところ、「50周年」のアーティストが多い。
ユーミンは50周年のベストアルバムを出したし、先月は郷ひろみの50周年ツアーに足を運んだ。
一方、TULIPは今のツアーがラストになると発表している(来年、東京国際フォーラムに行く予定)。
50周年の人たちがそれぞれに行く末を定めている中、グレープは「再起動」を謳っている。
どこまで走ってくれるか、どこまで高みに登ってくれるか、楽しみに待ちたい。
尚、46年前の神田共立講堂のライブCDは持っているのだが、何かせつなくて、これまで一度も聴いたことがなかった。これを機に、近く聴いてみたいと思う。
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