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ポリーニ逝去

23日(土)夜、旧Twitterを観ていて、マウリツィオ・ポリーニが亡くなったことを知った。

急ぎネットニュースを検索してみたが、それらしいニュースは見つからず、もしかしたらフェイクニュースか? とも思ったが、朝になって、間違いないことがわかった。

 

82歳。早すぎるとは言えない年齢だが、やはり残念だ。

 

私がポリーニの存在を知ったのは、1973年、高校3年の時。

例のショパンエチュードのレコードが、「レコード芸術」の推薦盤になったのを見たのが最初だと思う。月評子、小石忠男氏の評文の見出しは、「玲瓏たるショパン」だった。

デビュー盤のストラヴィンスキープロコフィエフの1枚は記憶にない。

 

初めて買ったポリーニのレコードは、ショパン前奏曲集。1976年、大学3年の時だった。以後、在学中には、シェーンベルクのピアノ作品集、シューベルトの「さすらい人幻想曲」、D845のソナタを買って聴いた(エチュードに関しては、前後して出ていた競合盤、アシュケナージの方を買った)。

ショパンにせよ、シューベルトにせよ、「その曲を聴くのは、ポリーニのレコードが初めて」だった。つまり、曲ともアーティストともこれが出会いだったわけだ。

その後、今日に至るまで、リリースされるポリーニの録音は、そのほとんどを買い求めたきたが、結局のところ、一番強く印象に残っているのは、ショパンシューベルトの2枚である。曲のよさも、ポリーニというピアニストのイメージもこの2枚で私の中にできあがった。

(ポリーニの代名詞とも言えるエチュードのレコードを買ったのはずっと後のことだ。ポリーニの演奏でのハ長調の1曲目のあざやかさには確かに黙らせられるものがあったが、結局、曲への好みの違いだろう、前奏曲集の方を何度も聴いてきた)

ポリーニショパンについてつけ加えれば、主に1970年代から90年代、ドイツ・グラモフォンに次々録音しながら、結局、曲種としては、即興曲マズルカ、ワルツの全曲を残さなかった。本人がこれらの曲種を好まなかったのだろうか。一部の曲は近年のリサイタル盤で聴けるのでよしとすべきかもしれない。

 

私のレコード蒐集歴において、ピアニストについては、ポリーニアルゲリッチが特別な存在だ。ただ、アルゲリッチは、80年代からソロ曲をまったく録音しなくなったので、ピアノソロのレパートリーにおいては、ポリーニが唯一無二の存在だった。

学生時代に前記2枚のレコードを聴いて私の中にできあがったポリーニ像は、技術的な完璧さ、そして硬質にして深さやうるおいも持ったピアノの音だった。

また、ポリーニならとにかく間違いない、というイメージの確立には、柴田南雄氏、吉田秀和氏の批評を読んだ影響が大きい(尚、両氏の影響は、小澤(征爾)さんについても大きい)。

 

そんなポリーニだが、しょっちゅう日本に来てくれていたのに、実演に接する機会を持たぬままだった。あまりに頻繁な来日だったので、いつでも行ける、いつか行こうと思っていながら、実現させずに過ぎてしまった。

ポリーニも高齢になってきたので、いい加減聴かねば、と思って初めて行ったのが、2012年のことだった。

マンゾーニ、シャリーノの作品とベートーヴェンソナタを組み合わせた演奏会2回を、妻と聴きに行った。1回目の演奏会では、生で初めて聴くポリーニのピアノの音が、レコードで親しんでいたものと異なるのにとまどった。2回目の演奏会ではそういうことがなく、満足した。

 

2016年の来日公演は、妻とミューザ川崎に聴きに行った。シューマンの幻想曲がめあてだったのだが、曲目変更でこれがなくなってしまい、落胆した。

 

2018年にも行っている。

妻と行った演奏会は、ベートーヴェンの「ハンマークラヴィーア」を楽しみにチケットを買ったものの、これが事前告知でショパンの3番のソナタに変更になり、それはそれで楽しみと会場に着いたら、再度の曲目変更で、なくなってしまっていた。

ショパンの3番ソナタは、この演奏会に先立って行われた演奏会を妻が1人で聴いて、「鳥肌もんだった」と言っていただけに、聴けなかったのが残念だった。

結局これが最後の来日公演になったと思う。

 

実演に関しては、このように晩年3回の来日公演に行ったが、やはり今となると、1970年代あるいは80年代に聴いておくべきだったと思う。

 

しかし、残された夥しいディスクで、今後もポリーニを聴いていこうと思う。

 

先月は小澤さんが亡くなった。

1985年に芸術現代社から出版された「小澤征爾の世界」という本がある。

 

日頃手に取ってめくることが多い本だが、この中に小澤さんのインタビュー記事があり、「協演されたソリストで“これはすごい”と思われた人は」という質問がある。

 

小澤さんの答えには、ルービンシュタインルドルフ・ゼルキンポリーニアルゲリッチ、ピーター・ゼルキン、さらにロストロポーヴィチパールマン、スターンが挙げられている。

刊行から40年近く経ち、小澤さん当人は亡く、ここに回答されたソリストもほとんどが他界している。何度も何度も読んできたインタビュー記事だが、小澤さん、ポリーニが相次いで亡くなった今、改めて読み直して、1時代が過ぎた、との思いを強くする。

(ポリーニと同世代のアルゲリッチが健在で、今年の5月にも別府の音楽祭に来日するのは何よりだ)

 

自分のクラシック音楽鑑賞歴において、同じ時代をずっと一緒に歩かせてもらったポリーニに感謝を捧げたい。

 

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