昨3日(月)、会社帰りに乗ったバスが新宿駅に着いて、さあ下りようか、という時だったと思う。
スマートフォンでFacebookを見ていたのだが、フォローしている「レコード芸術」のページが目に入った。
「「レコード芸術」休刊のお知らせ」。
えっ?
えっ?
えっ?
バスを下りたところで立ち止まり、目を走らせた。
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『レコード芸術』休刊のお知らせ
クラシック・レコード評論の専門誌として1952年3月に創刊し、70年を超えてご愛顧いただきました『レコード芸術』ですが、近年の当該雑誌を取り巻く大きな状況変化、用紙など原材料費の高騰等の要因により、誠に残念ではございますが2023年7月号(6月20日発売)をもちまして休刊にいたすこととなりました。長きにわたり支えてくださった読者の皆様、ご寄稿いただいた執筆者の皆様、レコード会社各社をはじめクライアントの皆様、制作にご協力いただいた関係者の方々に御礼申し上げるとともに、今後もご購読を予定されていた読者の皆様に心よりお詫び申し上げます。
なお、現在定期購読されている購読料のご精算につきましては、お求めの販売店にお問い合わせください。
バックナンバーは、引き続き販売を継続いたします。
なお、『レコード芸術』として70余年にわたり培ってきた財産をどのようにして活用していくべきか、音楽之友社として鋭意研究してゆく所存です。
ご不明の点がありましたらEメール reco_toiawase■ongakunotomo.co.jpへお問い合わせ下さい。(※■を@に書き換えてください)
株式会社音楽之友社
※恐縮ながらお電話でのお問い合わせはお控えいただきますようお願い申し上げます。
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休刊?
休刊!
休刊・・・。
つまり、「レコ芸」がなくなる、ってことなんだよね。
動揺しつつ、書かれている言葉の意味を自分に言い聞かせる。
にわかに受け入れ難い話だが、確かにスマートフォンの画面に浮かぶ文章にはそう書いてある。
このところ、音楽以外で、いくつかの専門雑誌が休刊になる、というニュースを新聞などで見てきた。
固定客がいる専門雑誌といえども、紙媒体の出版物が商売として成り立たなくなってきているのか、と思ったりもしていたが、それはあくまで他人事。
まさか自分が一番大切にしてきた「レコ芸」がなくなってしまうとは、つゆほども想像していなかった。
私が「レコ芸」を最初に買ったのは、1972年1月号だった。高校1年の時だ。高校に入った秋に、それまでほとんどなじみのなかったクラシック音楽を、これからは聴いていこうと思い立った。
(6歳から中学3年までピアノを習ってはいたが、そこで弾いていたバッハやモーツァルトを、クラシック音楽と意識していたわけではなかった)
クラシック初心者の情報源として、「レコ芸」を買い始めたのだった。
古い号も読みたくなって、巻末の「読者のページ」に当時毎号のように載っていた、バックナンバーを譲ります、という投稿に申し込んで、1968年1月号以降を揃えた。
以後、今日まで毎号欠かさずに買ってきた。
暇を持て余していた学生時代は、毎日毎日、なめるように繰り返して読み、新譜月評の批評文を諳んじるまでになったものだった。
社会人になってからも、最新号を1日でも早く読みたくて、入荷の早い石丸電気や一部の書店に照準を当てて、会社を出ると飛んで行った。
半世紀を超えるレコードコレクター人生にあって、「レコ芸」は、まさに私の血となり肉となっていると深く実感している。
ここ10年あまりの間、若い頃からお世話になってきた批評家の先生方が、一人また一人と他界され、寂しさを感じることが増えた。
一方、これはここ4、5年だろうか、いささかマンネリにも感じられていた毎号の特集が、俄然斬新なテーマに変わり、めざましく充実してきたとも感じていた。
これからがますます楽しみ、と思っていたところへの、この突然の休刊発表。
この衝撃を何と形容したらいいのだろう。ハシゴを外された、という程度の比喩ではおさまらない。快適に過ごしていた部屋の床が突然抜けて階下に転落した、あるいは目的地に向かって楽しみに乗っていた電車から突然放り出された、そんな感じ?
唐突感。それに尽きる。
例えば(それこそ唐突な例だが)、自分の親がいつかは亡くなるのだ、ということは、常にわかって生きてきた。現実味を帯びて感じるかどうかは別にして。
それに比べると、「いつか「レコ芸」がなくなる」などとは、繰り返しになるが、つゆほども想像していなかった。
そこだな。この衝撃は。
私の場合、これに類した経験としては、読売新聞社が刊行していた「大相撲」の休刊がある。2010年のことだった。
ただ、この時は、「大相撲」が唯一の相撲雑誌だったわけでなく、ベースボールマガジン社の「相撲」もあった。かつ、「大相撲」休刊時点では、私は「相撲」の方を購読していた。
しかし「レコ芸」について言えば、代わる存在がない。強いて言えば「音楽現代」(芸術現代社)が近いポジションにあるが、録音ソフト、映像ソフトに特化したものではない。「レコ芸」が休刊すれば、「何もなくなる」に等しいと言える。
この喪失感は大きいなあ。ちょっとこれほどのショックな出来事は、最近ないな。
(実は、昨3日は、A社(西新宿)にいたのだが、仕事を終えてそろそろ帰ろうという時に、大失敗をしてしまったのだった。終業時に毎日行うデータファイルの整理の作業の過程で、あるファイル1つを削除しようとして、どうしたわけかそのファイルを含むフォルダを丸ごと削除してしまった。そのフォルダには、同僚の監査役と共有しているファイルがたくさん入っていたので、まさに血の気が引く思いだった。システム部門に駆け込み、サーバ上に残っていたバックアップデータを戻してもらうことで事なきを得た。そんなことがあって、動揺収まらぬままに帰りのバスに乗り、下りようとしたところでの「レコ芸」休刊情報だった。「こんな日はきっとまだ大変な事故とかが起きるかもしれない」と不安な思いにとらわれたが、結局以後は何もなかった)
個人的な衝撃をあれこれ書き連ねても仕方がないのだが、そもそも6月発売の7月号をもって休刊、というのも急な話と感じる。半月前に、4月号を買ったばかりだ。当然そこには休刊を予見させるようなことは一言も載っていなかった。それなのに、突然あと3号で、というのが「床が抜けた」「放り出された」感覚の要因だ。
せめて、2023年いっぱいで休刊します、と言ってくれれば、心の準備もできるのだが。
(かつてグレープやオフコースが解散発表した時、もちろんその衝撃は今回の件同様だったが、いずれもラストのツアーがあったから、まだ「終わり」に向けて気持ちを運ぶことができた)
先日、八重洲ブックセンターの記事で、私が就職した1978年にオープンし、会社生活から離れる2023年に閉店することに感慨があると書いた。
この「レコ芸」の件も同様だ。B社(三軒茶屋)の株主総会をもって45年の会社生活を終えるのが、6月16日(金)。
その4日後に発売される7月号が、51年半買って読み続けてきた最後の「レコ芸」になるわけだ。
読者、ファンとしての心情は語りつくせないが、音楽之友社としては、これはビジネス。経済的観点からすれば、刊行を続けられない事情があるのだろう。いくら残念であっても、ここは致し方ないと受け入れるしかないのかもしれない。当の「レコ芸」編集部の皆さんの心情も察しなければならないと思う。このところこんなに紙面の充実に努力されてきたのだから、さぞ無念の思いだろう。
致し方ない、と思う一方昨日来、FacebookやらTwitterでは、この件についての書き込みが相次いでいる。
その動きの一つとして、「雑誌「レコード芸術」の存続を求めます!」というオンライン署名活動が、昨3日その日にネット上で始まった。沼野雄司氏、舩木篤也氏、矢澤孝樹氏、三氏の連名による呼びかけである。
今日、私も賛同の書き込みをした。2,500人の賛同を目標にしているようだが、私が書き込みをした時点での賛同者は2,044人。目標は軽くクリアしそうだ。
現実に休刊が撤回されるとは考えづらいが、当面はこの署名も含めてネット上での反響を見ていきたい。
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